五月病 すでに始まっているかも?!

投稿者: 堀米香奈子 | 投稿日時: 2017年04月16日 13:37

もうすぐ黄金週間。ですが、楽しい時間は一瞬で過ぎ去るもので、あっという間に「五月病」の季節がやってきます。誰もがかかるわけではありませんが、かかってしまったら辛いに違いありません。その兆候とは? 予防のために、今できることはないのでしょうか?

「五月病」という病気はない


一般に五月病とは、5月のゴールデンウィーク明け頃に、「何をしても楽しめない」「一日中気分が優れない」など、気分の落ち込みが続き、「眠れない」「食欲がない」といった心身の不調を訴えるものです。多くは、新年度が始まった4月から、入学や就職、異動、一人暮らしなどで心機一転、新しい生活を始めた人に見られ、当初の期待とプレッシャーなどで張りつめていた糸が、この時期にプツンと切れたように発症します。テレビなどでも毎年その話題になりますから、聞いたことがないという人はまずいないですし、確かに「五月病」として共通する症状に見舞われる人は少なくないのでしょう。(最近では、企業の研修が終わった6月に発症する、いわば「六月病」も増えているのだとか?)


ところが、「五月病」という病気は存在しません。


WHOの作成した診断分類「ICD-10」(国際疾病分類第10版)で、症状から見て最も近いと思われる「気分[感情]障害」のカテゴリーに含まれるのは、以下のようなもの。

▽そう病エピソード▽双極性感情障害(躁うつ病)▽うつ病エピソード▽復性うつ性病障害▽持続性気分[感情]障害▽その他の気分[感情]障害▽詳細不明の気分[感情]障害


「五月病」のように季節を特定した分類はありません。


一方、米国精神医学会による分類「DSM」では、双極性障害や抑うつ障害の診断で「季節性」を判断することが指南されていますが、ここで指しているのはどうやら「季節性感情障害(冬季うつ病)」のことのよう。五月病とはちょっと違います。季節性感情障害は通常、秋~冬の間にうつ症状が出るもので、春になれば軽快します。日照時間・量など自然環境の影響を受けていると考えられます。夏に症状が出る人もいるそうですが、毎年のように同じ季節になると症状が出るのが特徴。冬にうつ状態に、夏に躁状態になるのを繰り返す双極性障害(かつての「躁うつ病」。躁状態とうつ状態を繰り返すもの)の人もいるようです。一方、五月病はそうした反復性があるわけではないですよね。


これ以外に季節性を加味した精神疾患は、DSM上、見当たりません。


とはいえ、4月が新学期の日本では、秋~冬の「季節性感情障害(冬季うつ病)」以上に、五月病の影響は深刻ではないのでしょうか? 


健康保険組合連合会が、全国1,124 組合の被保険者(約 1,415 万人)を対象に、IDC-10に基づく気分[感情]障害の有病者数を調べたところ、以下のグラフのようになりました。

五月病有病率の推移.jpg
http://www.kenporen.com/study/toukei_data/pdf/chosa_h28_04.pdf


驚いたことに、5月は患者が微増しているものの、やはり冬ほどではないのです。このことからも、五月病は4月に大きな環境の変化を経験した一部の人に限って見られるうつ症状に過ぎないのだろう、と言えそうです。


高度成長期に生まれた? 多くは適応障害


「五月病かも」と精神科を受診して、最も多く下される診断名は、「適応障害」だそうです。


適応障害、どこかで聞いたことがある人が多いと思いますが、「うつ病」と聞かされるのと違って、ちょっとピンと来ないかもしれません。適応障害とは、ストレスにうまく適応できずに情緒や行動に症状が現れ、仕事や社会生活に支障をきたすものです。


症状は、憂うつになったりやる気がなくなったりと、うつ病とよく似ていますが、大きく違うのが、適応障害ではストレス源となっている空間や場所、人間関係などから距離を置けば普通に過ごせる、という点です。ICD-10の診断ガイドラインでは、「発症は通常生活の変化やストレス性の出来事が生じて1カ月以内であり、ストレスが終結してから6カ月以上症状が持続することはない」とされています。ストレスがなければ持かない反面、ストレスが慢性的に存在する場合は症状も慢性化する、ということですね。


ですから、適応障害の段階では、ストレスを減らす・遠ざける(離れる)ことが優先されます。加えて、本人のストレス適応力を高めるために、認知行動療法などが行われ、薬物療法も適宜取り入れられます。
http://www.mhlw.go.jp/kokoro/know/disease_adjustment.html


ただ、うつ病との違いからも分かるように、ストレスの原因が取り除かれれば軽快する、というのは、普通の悩みや不安を抱えた状態と大きく変わらないですよね。実際、追跡調査すると、7割は大方良くなる、という話もあるそうです。


なお、「国会会議録検索システム」の詳細検索で調べたら、「五月病」という言葉自体が初めて出てくるのが、昭和44年(1969年)4月4日の衆議院内閣委員会でした。ちょっと引用してみます。

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東大に入って、そうして五月ころから五月病にかかる。そのかかる原因はいろいろあるでしょうけれども、要するに高校から東大に入る。その間におけるところの猛烈なる試験勉強の結果、解放感にひたった情緒不安定な人間をさしているのだと思うのですが、この五月病にかかって秋風が吹くころには大体病気はなおるんだが、卒業するときまで東大生の一二%がなおらないで済んでいってしまう。頭だけは東大型になって、精神的には幼稚園型の東大生が出ちゃう。
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と、当時は偏見や厳しい見方が強かったようですが、いずれにしても、五月病は高度成長期の学歴偏重主義の中で顕著になってきたもののようです。過酷な受験勉強→解放感→情緒不安定→秋ごろには治る、という流れは、まさに五月病は軽度の適応障害、といった感じですし、歴史的にもこの頃に登場した“病気”だというのは妙に納得させられるものがあります。


なお、適応障害が進行すると、「軽度のうつ病」に至ることも。環境が変わっても気分が晴れず、持続的に憂うつ気分が続く、興味・関心の喪失や食欲が低下、不眠、などといった状態が2週間以上続く場合は、うつ病と診断される可能性が高くなります。
http://www.mhlw.go.jp/kokoro/know/disease_adjustment.html


うつ病に至ってしまうと、休養や精神療法だけでなく、薬物療法が積極的に行われます。
http://www.mhlw.go.jp/kokoro/know/disease_depressive.html


4月中のハイテンションは兆候かも?


あるいは、五月病は「双極性障害」の現れである場合もあります。以前は、「躁うつ病」とも言われ、「躁状態」と呼ばれる気分が高ぶった時期と、「うつ状態」と呼ばれる気分が低下した時期が、交互に訪れます。躁状態でもうつ状態でもない時には、病気でない人とどこも変わりがないのも特徴です。


うつ状態では、何週間も、一日中、毎日、ゆううつな気分が続き、食欲・体重の低下や、寝たきり状態、妄想などに陥ることも。一転、躁状態では、気分は良く、やる気に満ち、次々に新しいことを始めたりします。ただ、すぐ気が変わって実際には仕事がはかどらず、尊大になって怒りっぽくなることも。突然の後先を考えない行動で、信用や人間関係を失ったり、大けがをしたりする場合もあります。


五月病の場合、その前まで躁状態で本人の限界を超えて頑張ってしまっていた人が、5・6月に入ってうつ状態に突入した、と見ることもできるのです。短時間睡眠で勉強にいそしんだ受験生は、軽い躁状態だったのかもしれません。新社会人は、学生気分を切り替えて4月の間中、気持ちを張り詰めていたのかもしれません。


そう考えると、今この時期に、これまでの自分にないくらい気分が高揚している、四六時中やる気に満ちた状態でいる、という人は、もしかしたら要注意。「新学期だから当たり前」という自覚の裏で、実はすでに双極性障害の第一歩を踏み出していることも考えられます。そこまで行かなくても、尋常でないハイテンションが続くとしたら、それは脳内の神経伝達物質が異常に増えたり減ったり、バランスが崩れていることの現れです。体内の恒常性を考えれば、後でより戻しが来るのは当然とも言えます。


まずできることは、生活リズムを見直すこと。私たちの脳内からは、覚醒と睡眠のリズムをつかさどるホルモンが分泌されています。うつ病の98%は睡眠障害の症状を示すそうです。双極性障害でも、睡眠リズムが日によって大きく変わったり、一定しない人によく発症することがあるのだとか。夜型の生活をやめ、規則正しい生活をすれば、朝日を浴びることによって体内時計がリセットされ、ホルモンが正しいタイミングで充分に分泌されるようになります。


新入生や新入社員の歓迎会など、お誘いの多い時期ではありますが、この時期にちょっと気持ちを落ち着けて、生活リズムのセットも心がけると、長い学生生活・社会人生活を堅実にスタートさせられそうですね。

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