日本で大人気の除草剤、米国で発がん性認定

投稿者: | 投稿日時: 2017年07月01日 23:26

6月26日、米カリフォルニア州が、米国の農薬・種子企業であるモンサント社の除草剤「ラウンドアップ」の有効成分「グリホサート」を、発がん性物質リストに加えると発表した、との報道がありました。国内では大きなニュースにはなりませんでしたが、この商品の国内および世界での普及状況からすれば、やはり看過できません。

安全性評価に揺れる国際社会


まず、これについてのカリフォルニア州のサイトを確認すると、確かにグリホサートは、来る7月7日に正式に「発がん性物質」と認定されるようです。
https://oehha.ca.gov/proposition-65/crnr/glyphosate-listed-effective-july-7-2017-known-state-california-cause-cancer


モンサント社ホームページによれば、ラウンドアップは1974年、多種多様なイネ科および広葉雑草の除去を目的に、グリホサートを有効成分とする新しいタイプの除草剤として開発されました。「イネ科および広葉雑草」目的であっても、実際には、あらゆる植物を枯らす農薬です。散布後、植物は徐々にしおれ、黄色くなっていきます。次第に茶色くなり、同時に、地下の根も腐敗して、最終的には植物全体が枯れ、再生もできなくなります。


それだけ強力な除草剤ですから、気になるのはその安全性ですよね。グリホサートが効果を発揮する仕組みは、植物の生育に必要で、なおかつヒトや動物には存在しない酵素の働きを阻害する、というもの。そのことを根拠に、モンサント社はヒトや動物の健康に対するリスクは低いと説明しています。実際、40年にわたる使用実績があり、800以上の試験で安全性を立証、世界160か国以上でグリホサートが使用されている、とのこと。
http://www.monsantoglobal.com/global/jp/products/pages/is-glyphosate-safe.aspx


しかしながら、1990年代~2000年代初めころから、その影響や安全性について様々な指摘がされ始めました。たびたび疑問視されては打ち消され、と、さざ波が立ち始めていました。


各国も、状況を静観しているだけの国もあれば、市民団体が行政を動かした国もあり、また使用禁止へと動きながらも完全には排除できないままになっている国もあったりと、国際社会は揺れ動いてきました。近年、その振れ幅は次第に大きくなっています。


例)

・フランス:2015年から園芸センターでの個人客への販売を禁止。
http://www.ne.jp/asahi/kagaku/pico/eu/France/160408_EcoWatch_France_to_Ban_Glyphosate.html

・オランダ:2015年から個人客への販売禁止。
http://inhabitat.com/the-netherlands-says-no-to-monsanto-bans-roundup-herbicide/
http://www.naturalnews.com/049830_Netherlands_glyphosate_Monsanto.html

・ブラジル:連邦検察官が司法省に暫定的に使用禁止措置を求めた(その後も認められている)
http://sustainablepulse.com/2014/03/26/brazils-federal-public-prosecutor-requests-total-ban-glyphosate-herbicides/#.WVeyemjyg2w

・スリランカ:2015年から輸入禁止となっているが、スリランカ科学アカデミーはグリホサートと慢性腎不全の因果関係がないと反発。
http://nas-srilanka.org/nassl-statement-on-the-banning-of-glyphosate/
http://ctgb.nl/gewasbescherming/onderwerpdossiers-g/glyfosaat-dossier


こうして白か黒かはっきりしないグレーな状態のまま、世界中でグリホサートが使われ続けてきたのです。


発がん性もグレーなまま・・・


そして最初に発がん性について言及したのが、世界保健機関(WHO)の専門機関であり、発がん状況の監視や発がん原因の特定、発がん性物質のメカニズムの解明、発がん制御の科学的戦略の確立を目的として活動している「国際がん研究機関」(IARC)でした。


●2015年3月20日
IARCのワーキンググループ(11か国から17人の専門家により構成)が、グリホサートを「ヒトに対しておそらく発がん性を有する可能性がある」グループ2Aと評価。
http://www.iarc.fr/en/media-centre/iarcnews/pdf/MonographVolume112.pdf


これ以降、グリホサートの発がん性問題に関する国際社会の動きを時系列で見ていくと、ざっと以下の通りです。徐々に論調が変わっていくのが分かります。


●2015年3月24日
米モンサント社から日本での商標権および生産・販売権を譲渡(商品名:ラウンドアップマックスロード)された日産化学工業株式会社は、「IARCにおけるグリホサートの発がん性評価について」と題した声明を発表。IARCの母体であるWHOの他のプログラムでは、「グリホサートに発がん性がない」と評価していることとの矛盾や、WHO飲料水水質ガイドラインでは、グリホサートが人の健康に害を示さないと結論付けていることなどを指摘し、グリホサートに発がん性は無いとの判断を示した。
http://www.roundupjp.com/information/iarc%E8%A9%95%E4%BE%A1%E3%81%AB%E3%81%A4%E3%81%84%E3%81%A6/


●2015年4月13日
カナダ政府が、グリホサートに関し、「ヒトに対しておそらく発がん性を有する可能性がある」とのIARCの見解を公式に引用した。
https://www.canada.ca/en/health-canada/services/consumer-product-safety/pesticides-pest-management/public/consultations/proposed-re-evaluation-decisions/2015/glyphosate/document.html#a3


●2015年7月29日
IARCが、2A評価の根拠を含むレポートの全文書を公表。ヒトのがんに関するエビデンスは一部に限られるが、動物実験に基づく充分なエビデンスがあることを示した。
http://monographs.iarc.fr/ENG/Monographs/vol112/mono112.pdf


●2015年11月12日
欧州食品安全機関が、グリホサートについての一般向け報告書を公開。「ヒトに対する遺伝毒性および発がん性を有する可能性は低い」としている。1ヵ国を除く全加盟国の専門家が、グリホサートと発がんの関係性を示すような疫学的データも、動物実験もない、という見解で合意した。
https://www.efsa.europa.eu/sites/default/files/corporate_publications/files/efsaexplainsglyphosate151112en_1.pdf


●2016年3月1日
IARCが、「グリホサートに関するQ&A」を公表。2015年発表の2A評価は、企業提出の未公開データは使わず、科学的審査を経て公開された約1000論文に基づき公正になされており、その上で、遺伝毒性を示す強力なエビデンスがあると結論づけたとした。ただし最後にIARCの評価は危険度であり、エビデンスの強さを表したものであるとし、実際にがんになるリスクは曝露の程度や物質の影響の強さなどの要因に依存する、と断り書きを入れている。翌3月2日、同内容を欧州議会にて発表。
http://www.iarc.fr/en/media-centre/iarcnews/2016/IARC_EP_2March%20i.pptx


●2016年4月13日
欧州議会において、欧州委員会はグリホサートに対する製造販売許可の更新に際し、期間を15年から7年に改め、業務用に限定するべき旨、決議した。議員たちは、欧州食品安全機関が評価に使ったすべての科学的エビデンスの公開と、独立したレビューを求めた。
http://www.europarl.europa.eu/news/en/press-room/20160407IPR21781/glyphosate-authorise-for-just-seven-years-and-professional-uses-only-urge-meps


●2016年5月16日、
国連食糧農業機関(FAO)とWHOの合同会議において、グリホサートは、「食事を通じた曝露ではヒトに対する遺伝毒性や発がんリスクもを有する可能性は低い」と結論づけた。
http://www.who.int/foodsafety/jmprsummary2016.pdf?ua=1


●2016年7月12日、
日本でも、内閣府の食品安全委員会は食品健康影響評価において、グリホサートに「神経毒性、発がん性、繁殖能に対する影響及び遺伝毒性は認められなかった」と結論づけた。
http://www.fsc.go.jp/fsciis/evaluationDocument/show/kya20100216003


●2016年8月11日
ニュージ―ランド政府は、1990年以降に発表されたグリホサートに関する多数の論文を精査し、「ヒトに対する遺伝毒性および発がん性を有する可能性は低い」と公式表明した。
http://www.epa.govt.nz/Publications/EPA_glyphosate_review.pdf


●2016年9月12日
米国環境保護庁(EPA)は、グリホサートの発がん性の可能性についての報告書を公開。「ヒトに対する発がん性を有する可能性は低い」とした。EPAの発がん性査読委員会(CPRC)は、1985年にグリホサートが登録されて以来、これまで数回にわたって論文査読に基づく発がん性評価を行ってきた。EPAの評価も、CPRCの最新の評価(2015年9月)で、「ヒトへ対する発がん性を有する可能性は低い」としたことに基づくと考えられる。
https://www.epa.gov/sites/production/files/2016-09/documents/glyphosate_issue_paper_evaluation_of_carcincogenic_potential.pdf

(ところが、モンサント社のホームページでは、「米国環境保護庁(EPA)は、グリホサートの発がん性を『ヒトに対して発がん性がないという証拠がある(evidence of non-carcinogenicity for humans)』というカテゴリーEに分類しています」と説明。これは、上記報告書で言及されている1991年のCPRCによる評価のみ掲載したものと考えられる)


●2016年9月30日
オーストラリア政府は、「グリホサートがヒトに発がん性および遺伝毒性リスクをもたらす可能性は低い」と結論づけた。
https://apvma.gov.au/node/20701


●2017年3月15日
欧州化学物質庁(ECHA)は、「入手できうる限りのエビデンスに基づき、グリホサートは、特定の臓器への毒性や発がん性、突然変異原性、繁殖毒性について基準値に達せず、発がん物質としての分類はなされない」とした。
https://echa.europa.eu/-/glyphosate-not-classified-as-a-carcinogen-by-echa


●2017年4月28日
カナダ政府は、グリホサートの評価を「更新後の使用法に則って使用する場合に限り、受容できる」と改めた。カナダ政府機関の調査によれば、調査対象となった国内の作物の3分の1近くがグリホサートの残留物を含んでいたとのこと。
http://www.cbc.ca/news/health/glyphosate-1.4091495


と言うわけで、IARCの2A評価を受けて一時騒然となった国際社会ですが、それから約1年を経た昨年の今頃までには、「そんなに大騒ぎするほどの心配はなさそうだ」という共通認識で落ち着いた感がありました(そこに向かってモンサント社が何をどの程度働きかけていたか、といった政治的背景は分かりませんが・・・)。


そこへきて、話をふり出しに戻したのが、今回の米カリフォルニア州の決定だったと言えます。同州の判断に国際社会はどう続くのか、動向が注目されます。


別の商品名でも販売 知らずに使っているかも??


さて、ラウンドアップの成分グリホサートは、すでに特許で保護される期間を過ぎています。そのため、他社から同成分あるいは類似成分の除草剤が多数販売されています。「ジェネリック剤」とも呼ばれます。(ジェネリック医薬品と同じですね)


ジェネリック剤はもはや特許料がかからず、また開発コストが上乗せされることもないため、比較的安価で、効果もほぼ同等と考えられます。(ただし日本では、その恩恵を目減りさせるような、費用のかさむ試験を要する農薬の登録制度があるため、結局激安とはいかないようですが・・・)


なお、とあるブログでは、「昨年までの情報では日本で登録されているジェネリック農薬は67種類という。これを聞くと意外と多いと感じる人が多いだろうが、実際はこの殆どがグリホサートを使ったラウンドアップのジェネリック除草剤であり、グリホサート以外の成分で見るとマンゼブ(商品:ペンコゼブ)、アセフェート(商品:ジェイエース)、その他1種類の合計4種類しかない」である、と指摘されています。


グリホサートの圧倒的割合もさることながら、「ラウンドアップ」とは別の名前がつけられたグリホサートが、実に60商品以上も国内で流通している、ということに驚かされます。


安くて簡単によく効く農薬として、ラウンドアップはホームセンターや大型スーパーの園芸コーナーなどでも山積みになっています。その山を尻目に、自分は違う商品を選ぶぞ、と勇んで買ってきたけれど、よくよく調べてみたらグリホサートだった、ということが往々にして起こりそうです。


いずれにしても人体や環境への悪影響がきっちり実証できない限り、グリホサートが今後ますます使われ続けることになるのは間違いなさそうです。今回はグリホサートの発がん性評価についての‟知る人ぞ知る”ニュースに注目しましたが、次回、もう一つ問題になっている、グリホサート耐性作物と抵抗性雑草について見ておきたいと思います。

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