健やか親子21、1次から2次へ 母親のメンタルケアはどう変わったか

投稿者: 熊田梨恵 | 投稿日時: 2017年07月12日 13:41

【備忘録兼ねたブログ】
日本の母子保健政策の要の一つ「健やか親子21」。2000年に国が策定し、国や地方自治体、関係機関、団体などによる国内の母子保健の主要な取り組みを示している。母親のメンタルケアについては、2001年から始まった「健やか親子21(第一次)」で産後うつの数値目標も掲げられ、主要な取り組み課題に挙がっていたものの、2015年からの「第二次」で少し押しが弱くなった印象がある。数値目標は、母親そのものというよりケアの提供側の整備に変わった。母親のメンタルケアについては「虐待をするようなメンタルになっていないか」というあくまで子どもを中心にしたケアに重点が置かれている印象だ。なぜかなと思い、健やか親子21(第一次)の流れを追ってみた。

「健やか親子21(第1次)」の4つの主要課題
① 思春期の保健対策の強化と健康教育の推進
② 妊娠・出産に関する安全性と快適さの確保と不妊への支援
③ 小児保健医療水準を維持・向上させるための環境整備
④ 子どもの心の安らかな発達の促進と育児不安の軽減


2つ目の「妊娠・出産に関する安全性と快適さの確保と不妊への支援」の中に、産後うつ病の発生率についての数値目標があり、策定時の「13.4%」(指標出典:平成13年度「産後うつ病の実態調査ならびに予防的介入のためのスタッフの教育研修活動」中野仁雄班)を、「減少傾向へ」させることが目標となっていた。

エジンバラ産後うつ病自己評価票(Edinburgh Postnatal Depression Scale:EPDS(注))による産後うつ頻度の把握に関するアンケート調査が行われ、EPDSを実施している事業(新生児訪問等)においてEPDSが適用された母親の数、得点が9点以上の人などのデータから出されている。

(注:1987年にイギリスで産後の母親向けに開発された、自己記入式の質問紙。合計得点が9点以上の時は産後うつ病の可能性があるとされる)

第一回中間評価では「12.8%」、第2回中間評価では「10.3%」、最終評価では「9.0%」とされ総合評価としては「改善した(目標を達成した)」とされている。

「健やか親子21における目標に対する最終評価・分析シート」で以下のように書かれている。
http://rhino.med.yamanashi.ac.jp/sukoyaka/pdf/saisyuuhyouka4.pdf

【分析】
産後うつ病の疑いが高いEPDS9点以上の割合は徐々に減少し、目標に向け推移した。調査地域や訪問対象の違いにより、単純に比較できないが、産後うつ病の認識が広まりつつあり、対策がとられ始めてきていることも考慮したい。さらに、産後うつ病に対する妊娠期からの予防的介入の試み等も報告されているため、啓発効果及び対策の効果を期待したい。一方、地震や津波を経験し宮城県内で出産した女性では、EPDS9点以上が21.5%であった(平成24年度厚労科研「震災時の妊婦・褥婦の医療・保健的課題に関する研究」(岡村州博班))という研究結果には、注意を要す必要がある。全国のEPDS9点以上の割合が減少している一方で、被災地での割合が高いという結果は、災害が及ぼす心理的な影響を示しているといえる。

【評価】
調査地域や訪問対象の違いにより単純に比較できないが、EPDSの活用の普及により調査を行う自治体が増え、発生率の数値の妥当性は高くなってきていると考えられる。(※全数を対象にEPDSを実施している市町村35.2%、全数ではないが実施している市町村14.8%)

【調査・分析上の課題】
第1回中間評価では、早期発見と支援システムが構築された地域での縦断的な検討が必要であるとされた。第2回中間評価ではEPDSの活用が浸透してきている段階であり、取り組みの効果の判定について評価するのはまだ難しいという状況であった。最終評価においては、9.0%まで減少しており、EPDSの活用とあわせて、産後うつの啓発や予防的な取り組みがなされてきた可能性が高い。

【残された課題】
妊娠期からの育児支援としての産後うつ対策と、そのための周産期ケアにあたるスタッフ教育の強化、さらには医療・保健・福祉の各担当者の連携による情報の共有やケアの継続性が重要である。また、妊娠期から予防的介入を行い継続的な支援システムが確立している地域では、産後うつの予防として効果を上げているとの報告もあり、今後、有効な取り組みが各地で実践されることが求められる。
妊婦自身が産後うつを自分にも起こりうるリスクの一つとして知識を持ち、対処行動がとれるよう、妊娠中から妊婦とその家族に情報提供する場がさらに増えることが望まれる。


健やか親子21「最終評価」では、「産後うつ病疑い(EPDS9点以上)の割合の減少」については「改善した(目標を達成した)」と評価した。(http://www.mhlw.go.jp/file/05-Shingikai-12601000-Seisakutoukatsukan-Sanjikanshitsu_Shakaihoshoutantou/0000060791_4.pdf)

「妊娠・出産への満足度については、設備などのハード面だけではなく、スタッフの対応、不安への対応、家庭や職場の理解など、人との関わりのありようが満足度につながっていた点は注目すべきである。一方、産後の支援の充実や受動喫煙への配慮については、第1回中間評価以降も改善されておらず、課題が残された。助産師や保健師による、きめ細やかな関わりは、産後うつや虐待予防につながるとともに、育児への前向きな気持ちを高め、支援のスタートになるとの指摘がある」
(「健やか親子21」最終評価報告書 http://www.mhlw.go.jp/file/05-Shingikai-11901000-Koyoukintoujidoukateikyoku-Soumuka/0000030082.pdf)

第一次で残された課題として挙げられたのが以下。第二次に反映されることになった。

(1)思春期保健対策の充実
(2)周産期・小児救急・小児在宅医療の充実
(3)母子保健事業間の有機的な連携体制の強化
(4)安心した育児と子どもの健やかな成長を支える地域の支援体制づくり
(5)「育てにくさ」を感じる親に寄り添う支援
(6)児童虐待防止対策の更なる充実


アンケート調査でEPDS9点以上の人が減っていたため「改善した」とされた。そのため、産後うつについて目標は達成された、という認識になった。このため最終報告書でもきめ細やかなかかわりは大事だよね、というぐらいの話にとどまっている。ただ、妊婦全員にEPDSを実施している市町村は35%ということなので、「達成された」と言い切っていいものなのか、個人的には疑問に思う。

また、第一次が進んでいた時期は大野病院事件や各地で産婦人科医師不足によるいわゆる「たらい回し」などで騒がれていた時期と重なる。自分が霞が関を取材していた時期なのでよく分かるが、国としてもまず医療提供体制を整えることに尽力していた時期だったと思う。


2015年度から始まった「第二次」は大きく5つの課題が設定されている。
http://sukoyaka21.jp/about

基盤課題A 切れ目のない妊産婦・乳幼児への保健対策
基盤課題B 学童期・思春期から成人期に向けた保健対策
基盤課題C 子どもの健やかな成長を見守り育む地域づくり
重点課題① 育てにくさを感じる親に寄り添う支援
重点課題② 妊娠期からの児童虐待防止対策

計画全体を見渡すと、子どもの虐待防止に力が入っている印象が強い。第一次で残された課題に挙がっているから当然なのだろうが。

母親のケアについては、切れ目ない妊産婦・乳幼児への保健対策の中の「環境整備の指標」の中で

・妊娠中の保健指導(母親学級や両親学級を含む)において、産後のメンタルヘルスについて、妊婦とその家族に伝える機会を設けている市区町村の割合
・産後1か月でEPDS9点以上を示した人へのフォロー体制がある市区町村の割合

の数値改善が課題に挙げられている。母親そのものへのケアどうこう、というよりケアの提供体制整備の話だ。第一次の結果により産後うつそのものは減っているということになったので、環境整備に移ったのかもしれない。ケア提供体制の整備ももちろん大事なのでいいことだとは思うのだが、やはり健やか親子21全体の中での印象は薄くなっている。

産後うつの実態については、国立成育医療研究センターらが始めた「妊産褥婦の自殺にかかる状況および社会的背景の調査」の結果が待たれる。まだ先になるが、この調査は国内に大きなインパクトを与えるはずだ。
https://www.ncchd.go.jp/press/2017/maternal-deaths.html

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