産後うつの原因はホルモンバランスの乱れ、は間違い!

投稿者: 熊田梨恵 | 投稿日時: 2017年08月25日 15:58

参加者ら.jpg産後うつの原因は「ホルモンバランスの乱れ」とあちこちで言われており、私もそうだと思っていた。しかし専門家によると「ホルモンは関係ない」というから驚いた! 主な原因は本人の精神疾患等の既往歴や人間関係や生活環境等の環境要因だそうだ。

そんな話を聞いたのは、先月末に都内で開かれた医療者向け周産期メンタルヘルスのセミナー。

講師は日本周産期メンタルヘルス学会評議員で、周産期メンタルヘルスについての著作もある宗田聡氏(広尾レディース院長)。宗田氏はこのテーマで7年前から講師を務めているが、参加者が集まらず閉会したこともあった当初に比べ、最近は参加人数よりキャンセル待ち人数の方が多いほどの人気だという。主な参加者は看護師、助産師、保健師など(写真)。「現場のスタッフも実際に悩みを抱えた母親に対応することが増えてきて、問題意識が高まっているのだと思う。今年4月から産後健診への助成が始まったことや、昨年の東京都の妊産婦自殺の統計(※)の影響も大きいのでは」と宗田氏は話した。

(今回のセミナーも希望者が多かったため、同じ内容のセミナーを冬に開催するそうだ。興味のある方はこちら。)

※妊産婦自殺の統計…自殺で亡くなった妊産婦が東京23区で2005〜14年の10年間に計63人いた(東京都監察医務院、日本産婦人科学会)。原因の最多が「産後うつ」。

私は今、自分の書いたブログをきっかけに産後うつを一つの社会問題と捉えるようになり、取材を進めている。今回は医学・医療知識を得るために参加したのだが、目から鱗のことが多くとても面白かった。

◆「産後うつ」について
・正式な医学的定義はないが、産後2,3週~6か月ぐらいの頃に発症することが多い。ひどく憂鬱な気分になったり、興味や喜びを感じないような状態になる。一般のうつに比べて不安や焦燥感が強くなる特徴があり、症状が多彩で重症になりやすい。一般女性と比べて出現率が10~15%と高い。
・産後3~10日以内に始まるマタニティーブルーズは2週間以内に自然に収まる。
・周産期メンタルヘルスには妊娠中のうつやマタニティーブルーズ、産後うつ、産褥精神病、周産期の神経症障害、既往の精神障害の再発と憎悪、死産や中絶後の悲哀反応などが含まれる。

周産期メンタルヘルスに関する詳しい内容は書籍等にも書かれているためここでは割愛。以下に私が特に面白かったと思うことを箇条書きにしてみる。

①男性の産後うつ
米国で行われた研究で、子どもが生まれた後、母親とほぼ同じ数の父親も産後うつになることが分かった。つまり、男性も女性と同じように産後うつになるということ!

②2週間健診時のエジンバラ産後うつ病自己評価票(Edinburgh Postnatal Depression Scale:EPDS(※2))の有効性に疑問
行政は今年4月に始まった産後2週間健診でEPDSを実施するよう促しているが、産後2週でのEPDSの有効性は分かっていない。産後4週、6週頃の内容は有効だと明らかになっている。2週間健診の意義は自殺の心配がある病態かどうかのチェック。①産後の重症なうつ病の再発②双極性障害③産褥精神病―を見る(②③にEPDSは役に立たない)。問診時の既往の確認が大事。
(※2:1987年にイギリスで産後の母親向けに開発された、自己記入式の質問紙。合計得点が9点以上の時は産後うつ病の可能性があるとされる)

③産後うつにホルモンは関係ない
よく「産後うつはホルモンバランスの乱れ」と言われるが、間違い。もし出産によるホルモンバランスの乱れが原因になるなら、出産していない父親は産後うつにならないはず。産後うつになる男女に共通するのは環境やキャラクター、既往歴などの環境要因。ホルモン異常が原因で大きな病気になることは少ない。産後うつについては、ホルモンの影響ということは医学的・科学的にないと言える。

④「EPDSが高得点なほど危険」は間違い
高得点の母親が必ずしも産後うつと診断されるわけではない。少なくとも2週間以上にわたって高い得点項目が続き、その後の診断によってはじめて産後うつと確定される(中には躁うつ病の母親もいる)。

⑤子どものいる家庭の離婚は産後2年以内が最多
これはセミナーの中で話された「産後の家庭が抱えている3リスク(産後うつ、夫婦の不和、乳児虐待)」の中で出されていた厚労省の調査。「母子世帯になった時の末子の年齢は0~2歳が最多で34.2%」。私が知らないデータだったので面白かった。

⑥産婦人科、精神科でも対応に地域差、施設間の差がある
産婦人科医でも産後うつについての正しい知識がある人、興味がある人は以前に比べて増えたもののまだまだ少数(お産が終わったところで関わりを「終わった」と思う産婦人科医が多い)。精神科では産後うつは重度の精神疾患に比べると「軽度」になるし、知らない精神科医も多い。このため、産婦人科や精神科でうまく対応できているかというと、正直難しいのが現状。地域差が大きい。

セミナー後の宗田氏への取材で面白かったこと。

Q:産後うつは薬物治療になるのか?
A:産後うつで薬物治療が必要になるのは1~2割。7~8割がカウンセリングによる治療になる。

Q:産後うつかもしれないと思った時、どうしたらいい?
A:一般的には「地域担当の保健師に相談先を尋ねてみるのがよい」としか言えない。地域により資源や対応力の差が大きく、対応できる地域もあれば、難しい地域もあるのが現状。医療で産後うつに対応するのは難しいので、地域ぐるみで本人をサポートしていく体制を構築するのが今後の課題。


セミナー後半はケース対応のグループワークで、看護師や助産師に混じって私も参加させて頂いた。皆さんリスクの洗い出しや対応策検討に一生懸命で、こんな人たちが自分の出産する医療機関にいてくれたらいいなと思った。ただ、彼女らも自身の勤める職場の人的資源、予算の問題などで色々悩みを抱えていることも分かった。特に、ある産婦人科で有名な病院の看護師さんが「医学的にリスクはないけど、実際にはメンタルのリスクを抱えている熊田さんのような人をどうやって見つけ出すかが難しい」と言っていたのが印象的だった。それは私もそうだと思う。私も入院していた当時は自分がこんな重度の産後うつになるなどとは思いもしなかったし、入院時に私が看護師さんや助産師さんに答えた内容では、たいしたリスクには該当していなかったと思う。(あったとしたら、マタニティーブルーズで泣きまくっていたことぐらいか。これも伝えはしたが)退院した母親を医療機関からつかまえることはできないので、やっぱり地域担当の保健師が大事になるという話になるのだが、そこもそんな簡単な話ではないだろう(この話も別途取材中)。

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