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今さら聞けない 健康保険って、どうなってるの?

健康保険の何が問題なのですか?

 では外的要因とは、何でしょうか。
 よく報道されるのは、社会の高齢化ですね。年齢が上がれば、どうしても病気になる確率は上がります。また、引退して勤労収入がなくなることも多いので、保険料を現役時代ほどは払えなくなります。保険者にとって、支払いが増え収入が減るというダブルパンチになるわけです。
 これを何とかしなければというのが一般的な議論です。08年度からは高齢者だけを別立てにした老人保健制度(後期高齢者医療制度=vol.27参照)も始まります。
 しかし本当に、年齢構成が変わったことだけが問題なのでしょうか? いずれ誰もが歳をとるのですから、国民が費用を分担しあうなら、お互い様のはず。ですが、実際にはそういう議論になっていません。何が問題なのか考えると、「お互い様」と言えない状況があることに気づきます。
 まず押さえないといけないのは、社会保険の保険料を事業主が負担しており、国民健康保険の赤字を社会保険が穴埋めしていることです。事業主が費用負担を義務づけられているのは、前頁コラムのような歴史があるから。従業員の健康を守れば事業主も助かるという発想です。しかし、国民健康保険へ資金が回ると、引退した人や無職の人の分まで、事業主が費用負担することになります。
 次に考えないといけないのが疾病構造の変化です。
 日本人の死因を年毎に見ると、1950年までは、肺炎・気管支炎や結核といった感染症が上位でした。しかしその後、感染症以外の病気が増えてきて、2004年の上位3つは「がん」「心疾患」「脳卒中」でした。感染症は4位に肺炎が入っているだけです。
 感染症とは、体の内部で細菌やウイルスが増殖するもので、多くは伝染します。対応が遅れると命取りになる一方、細菌やウイルスを制圧・撃退すれば再び健康に戻れる可能性が高いです。つまり、放置すると他人に害が及び、治療が成功すれば患者は再び健康を取り戻せます。
 保険の範囲内で医療行為を施せば施すほど医療機関に利益となることが多いのですが、それが患者の利益とも公益とも矛盾を来たさないのです。この関係なら国民皆保険は素晴らしい制度です。
 しかし現在は、生活習慣病のように慢性だけれど伝染せず、エンドレスに治療の必要な疾病が主になっています。また医療の高度化・複雑化に伴って高額な検査・薬剤がどんどん登場しています。
 保険で許される最大限の医療行為に対して出来高払いを続けるとなると、まず健康な人を含む国民全体の利益と衝突せざるを得なくなります。医療の公定価格である診療報酬は断続的に切り下げられています。また大学病院などでは、医療行為の多少にかかわらず入院医療料金を疾病ごと一定にするという包括払い制(DPC=vol.22参照)が推進されています。
 加えて、「最大限の医療」は患者にとっても利益になるとは限りません。医療行為は必ず何らかのリスクを伴います。たいていは抗がん剤の副作用のように、生活上の利便性と引き換えになります。考えうる最大・最高の治療を受けたい人から、まったく治療を受けたくない人まで、どこで折り合いをつけるのか、個人個人の価値観に委ねられる部分が大きいのです。
 人によって選択が違う以上、なかなか「お互い様」とは言えません。

高額療養費制度使いこなしてますか?  医療費の自己負担分が毎月何万円にもなって苦しいというあなた、ひょっとして「高額療養費制度」で還付を受けられるのではありませんか。世帯構成員が月ごとに支払った金額を合算して、保険者の定める限度額を超えた場合、申請すれば限度額を超えた分が戻ってきます。また、そういう月が1年に何度もあった場合は限度額が下がり、重ねて還付を受けられます。  限度額は、保険者、患者の年齢、世帯収入によって異なります。また、申請しないと還付されないことが多いので、まずは健康保険の窓口に問い合わせてみましょう。

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