気づくかが分かれ目 脳卒中
前項の治療法をご覧になって、たとえ命を取り留めたとしても何と大変なことか、と思ったのではないでしょうか。発症しないに越したことは間違いありませんので、ここではその予防法を考えます。
血管の「詰まり」と「破れ」という正反対の現象ですが、危険因子の多くは共通しています。
まず当たり前のこととして、年齢が高くなれば、発症率が上がります。また「高血圧」だと、卒中の型にかかわらず発症率も上がります。
血圧とは血が血管を押す圧力のことですから、血管の壁の強さに比べて圧力が高すぎると血管は破れます。以前の日本人は栄養状態が悪く、しかも塩分を大量に摂取していたため、血管が脆いのと血圧が高いのとの相乗効果で、世界的にも特異なほど脳出血する方が多くみられたのです。
最近は栄養状態が改善しました。だからといって、血圧が高くてもよいことにはなりません。
出血の直接的な引き金を引かなくても、高血圧が腎臓病や動脈硬化を連鎖的に進めることは過去何度も説明してきた通りです。硬くなった動脈は裂けやすくなります。また動脈硬化は血栓を発生させやすくもします。つまり梗塞も起こしやすいわけです。
同様に耐糖能異常(糖尿病)や脂質異常症(高脂血症)のいわゆる生活習慣病でも、発症のリスクが上がります。むしろ、発症のリスクが高くなるものを前もって病気扱いしているという言い方が正しいかもしれません。
ですから脳卒中のリスクを下げたいと思ったら、生活習慣病の予防とコントロールを行う必要があります。
詳しくは、各生活習慣病の特集をご参照いただくとして、すべてに共通の基本は、バランスのよい適量の食事と適度な運動をセットにした生活改善です。生活改善で数値が良くなれば結構ですし、もし既に異常値が出てしまっていて危険な場合には、薬でコントロールを行います。脳卒中を起こすことに比べたら、薬を飲むことなんて大した負担ではないはずです。
そのほか、喫煙は百害あって一利なしです。飲酒は適量なら良いという説もありますけれど、過度に飲めば間違いなく発症リスクを上げます。
それから案外見過ごしがちなことで大事なことがあります。脱水状態は血が濃くなって血栓をつくりやすくします。年をとると喉の渇きを感じにくくなります。渇いたなと思った時には、既に脱水になっていることが多いので、毎日、定期的な水分補給をお忘れなく。
なお、くも膜下出血の場合、その最大の原因である動脈瘤がなぜできるのか、いつどういうきっかけで破裂するのか、確たることは分かっていません。見つかった場合には、破裂する前に処置してしまう(コラム参照)手もあります。
脳ドックと脳動脈瘤 まだ発症していない段階や症状の出ていない段階で脳卒中とその危険因子を発見し、早期対処するため行われているのが、いわゆる「脳ドック」です。 生活習慣見直しの契機として受けるなら大変結構な話ですが、危険因子を全部つぶすつもりでいると期待外れかもしれません。 脳ドックで、危険因子が完全に分かるということではなく、また脳卒中が見つかったとしても有効な治療がないこともありますし、逆に治療法があったら必ず受けなければいけないというものでもありません。 特に、脳動脈瘤が見つかった場合、それが寿命内に破裂するかどうかは確率論、治療によって悪影響が出るのも確率論ですので、医師とよく相談して納得のうえ治療するかしないかを決めてください。