それでいいのか薬価
一度ついた薬価が、ずっと続くわけではありません。定期的に引き下げが行われます。これが、2年に一度の診療報酬改定に合わせて行われる薬価改定です。
金額が多いか少ないかは別にして、引き下げ改定そのものは、メーカーから見てもそんなに不当な話ではありません。例外(コラム参照)はあるものの、医薬品は工業製品ですから、生産を続ければ続けるほど製造ラインの減価償却が進んだり、生産工程が効率化されるなどして、原価は下がるのが一般的だからです。
では、もう一度原価から算定し直して引き下げるのかと思うかもしれませんが、そういう方法は採りません。
医療機関が問屋から医薬品を購入する際は、どこからいくらで買おうが自由です。管理に費用がかかることや使い残しが出ることを考えると、薬価のままで買うと医療機関に損が出てしまうので、交渉して値引きしてもらうのが普通です。この実際の購入価格を厚生労働省が調査し、特別な事情のない限り、改定の際に、この実勢価格に2%上乗せした額まで引き下げるという方法なのです。
ちなみに、購入の際の値引き額が「薬価差益」です。以前は医療機関の大事な収益源で、薬漬け医療の元凶などと言われていたこともありましたが、あまり値引きすると薬価改定に影響することもあり、現在は競合品が非常に多いものでもない限り、値引きは控えめです。
こうして収載から2年ごとに徐々に下がってきた薬価が、一気に大幅に引き下げられるタイミングがあります。ひとつは後発薬が登場した時です(07年1月号「ジェネリック特集」参照)。
少しだけおさらいすると、新薬の特許が切れた後、同じ有効成分で出てくるのが後発薬でしたね。後発薬が薬価収載されると、その先発薬は通常の引き下げに加え6~8%の引き下げが行われます。後発薬自体の薬価は先発薬の7割以下に設定されますので、以降は、後発薬と競争を迫られる先発薬も加速度的に価格が低くなります。
もうひとつ大幅に引き下げられるのが、予想外にヒットした場合です。収載から10年以内で年間販売額が150億円を超えるような薬の場合、メーカーが事前に予想した年間販売額の倍以上売れていたならば「再算定」という計算し直しの対象となります。予想以上に売れたということは、原価が思ったより低くなったはずなので、当然といえば当然です。
このように2年に1度引き下げられ続けると、当然、メーカーも採算ギリギリという線まで来ます。ここでうまく均衡すれば患者にとっては非常にありがたいのですが、バランスが取れずに生産打ち切りとなってしまうこともあり、それで困る人がいた場合は引き上げの再算定が行わます。
自然由来の漢方薬はどうなる? このような薬価引き下げの仕組みと相性の悪いものもあります。最たるものが、原料を生薬に頼る漢方製剤です。 生薬の多くは中国からの輸入品ですが、中国の経済成長に伴い、その価格がどんどん高騰しています。でも製剤価格は引き下げられます。 生薬の特性として、同じ品でも質の良い悪いがあります。薬価が引き下げられると必然的に原価を抑えることになり、薬の質も悪くなるわけです。このことは、漢方専門家の間では、かなり以前から問題視されているそうです。
医療機器の場合 全部同じ値段です。 薬の場合は、類似薬より優れている部分に対して加算が行われることを説明しました。改良するとご褒美がもらえるわけです。 ところが、カテーテルやペースメーカーなどの医療機器の場合、改良しただけでは元のものと同じ価格にしかなりません。別のカテゴリーの新商品と認められないと、新たに算定してもらえないのです。このためメーカーにとっては、改良資金を回収できないことになり、改良の遅れる危険性が指摘されています。