臨床研修と医師不足 その微妙な関係
そもそも研修中は半人前のはず。なぜ研修医不足が、人手不足につながるのでしょう。
実はそこに、当人を「半人前」扱いしながら、外に対しては「一人前」と都合よく使い分けてきた医療界の構造的問題が隠れています。
以前の免許取り立て研修医は、大学の給与だけでは生活できないので、夜間や休日などに市中病院へ行って当直のアルバイトをするのが普通でした。そこでは一人前として扱われていたわけです。実際、特定診療科だけ研修すれば、その分野に関して戦力になるのが早いのも事実です。しかし現在、初期研修中のアルバイトや残業は原則禁止。その分の負担が、より上の医師に降りかかっています。
また、以前の卒後3年目以降は、大学医局が指定した関連市中病院で働くのが実質的な研修でした。しかし地方の大学医局に後期研修医が集まらなかった結果、この分の医師も足りず、負担が同じく上の医師に降りかかってしまいました。そして、先の見えない激務に耐えきれなくなった中堅医師が病院から逃げ出す現象となったわけです。
日本全体で見れば、3年目以降の研修医がいなくなったわけではありません。研修場所を、医局が指定するか、研修医が自分で選ぶかの違いに過ぎないのです。
医局は、企業のようなものです。教育と職の斡旋を行う代わりに、医師から労働力の提供を受けます。旧制度下では、指導してもらった恩や人間関係、いずれ大学院で学位をもらう弱みなど様々な要素によって、多くの医師が医局の人事に従ってきました。
しかし、新制度によって、医局に頼らずとも、教育を受け、職を探すことが、全国的に可能になりました。医局に入るメリットが減ったのです。
そして、医局に新人が入って来ないということは、今いる人が滅私奉公しても見返りはないということ。だから、当人たちの意に沿わぬ人事を医局が強権的に行うこともできなくなりました。
よって、自前で医師を育てる力のない医療機関は、医師が自由意思で喜んで来るように条件整備しなければ、半永久的に医師は来ません。このことに気づかないでいると傷が深くなります。
それはそれとして、現行制度に改善すべき点はないのでしょうか。
そもそも論で言えば、医師に一定の研修を科すのは、実力ある医師を医療ニーズに即して効率よく育てるため。そのために先輩医師たちに2年間、下が入ってこないという負荷をかけているはずです。
そして実力を身につけるのに必要なのは、前項でも述べたように、本人の熱意は大前提として、場数と指導者にどれだけ恵まれるか。場数とは、要するに自分が責任を持って当たれる症例の種類・数で、その多そうな病院に人気が集中するわけです。
ですが、落とし穴があります。いくら、その病院の症例数や指導者数が多かったとしても、研修医が集中してしまったら、研修医1人あたりに直すと少なくなってしまいます。各医療機関が示す定員に、そのあたりの事情が十分考慮されているとは言い難いのです。
今まで見てきた事情を考えれば、症例数や指導医数に見合った以上に定員を揚げる医療機関は、無責任極りありません。
ようやく厚生労働省の医道審議会部会は、研修医を多く集めている医療機関に定員削減を要請するなどの方法で、新年度から地域バランスを調整すると決めました。
しかし、どの医療機関が本当は何人きちんと育てられるのか検証はされていません。また、国全体の医療ニーズと医師育成の方向とが合致しているかの検証もされていません。だから各医療機関の研修医定員が適正かどうかも分からないのです。この辺りの検証作業は、お上任せでなく、医療界自ら手がける必要があるのではないでしょうか。