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計画配置でなく「大学の調整力の回復」を-全国医学部長病院長会議が建議を批判

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 医学部や医科大学のトップなどで構成する全国医学部長病院長会議(小川彰会長)は6月11日、財政制度等審議会(財政審)がまとめた、医師の計画配置などを求める2010年度予算編成に向けた建議を批判する提言を発表した。国の規制によって医師を配置するのではなく、医局の派遣機能など大学の調整力を回復させるべきと主張している。(熊田梨恵)

 財政審は6月3日、与謝野馨財務・金融・経済財政相に対し、2010年度予算編成に向けた意見書となる建議を提出した。建議は医師不足を解消するため、地域や診療科、設置主体のそれぞれの間にある偏在の解消に医師の計画配置を提言しており、「規制的手法を活用することも必要」としている。
 
 同会議が発表した提言は、医師不足の原因とも言われる臨床研修制度について、「制度発足前は、医師養成削減政策による絶対的医師不足状況にもかかわらず、大学の調整機能によって、地域の医師不足も診療科間の偏在も顕在化していなかった事実を認識すべき」と主張。今年度に実施する、都道府県や病院ごとに募集定員枠を設定するなどの制度見直しについても、「大学の地域医療支援機能」と「大学の医師派遣機能」を回復させることを目指したものだとした。その上で、今回の建議の内容について、計画配置などの規制的手法ではなく、大学の調整力の回復や、労働環境の改善など医療のインフラ整備を行うべきとした。
 
 また、建議が「骨太の方針2006」から続く歳出改革路線を堅持しており、開業医への報酬を病院側に配分する方向性を提言していることについて、「総枠で圧倒的に不足している医療費を『配分』で解決しようとする姿勢には、医師間の対立を煽ろうとする悪意すら感じざるを得ない」と批判した。日本の高等教育費の公的負担が、対GDP(国内総生産)比で見るとOECD加盟国中最低ランクになっているとも指摘した上で、「医療と教育は平時の安全保障」として、医療費や教育費の増額を求めた。
 
 同会議専門委員会委員長会の嘉山孝正委員長は記者会見で、財政審の議事録に「産婦人科を中心に育てる大学などがあってもよいのではないか」、「大学入学時に選考する診療科目を選択させるよう、科目ごとの定員を決めてやるという方法もあるのではないか」と記載されていることについて、「医師は体全体を診ることができて初めてお産もみることができる」と述べ、こうした発言が出る財政審の会合を「素人が国家政策をつくっていることに悲しみや驚きを感じざるを得ない」と批判した。「もっとちゃんとやってくれているのかと思っていたら、全然やってくれていなかったというのが感想。科学的でないデータに基づいて政策が決められている」と述べ、建議の撤回を求めた。
 
 提言は、麻生太郎首相、与謝野財務相、塩谷立文部科学相、舛添要一厚生労働相、西室泰三財政審会長に送付される予定。

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