30人に1人に必要 赤ちゃんのNICU
昨今相次いだ妊婦さんの救急受け入れ困難の問題から、テレビや新聞などで「NICUが足りない」という話を見聞きするようになりました。一体どういうことなのでしょうか。
監修/網塚貴介 青森県立中央病院部長
豊島勝昭 神奈川県立こども医療センター医長
そもそも何?
国が実施した調査によると、妊婦の救急搬送を受け入れられなかったことがある「総合周産期母子医療センター」(コラム参照)53施設(有効回答74センター)のうち、92.5%が、「NICU満床」を理由に挙げていました(複数回答可)。ほとんどの施設が「『NICU』ベッドが満床で妊婦さんを受け入れられない」ということなのです。
では、この「NICU」とはそもそも何なのでしょうか。
「NICU」とは、病院の中にある「新生児集中治療管理室(Neonatal Intensive Care Unit)」を指し、生まれたばかりの赤ちゃんに対する集中治療を行っている部屋のことです。国内に全部で約2000床あります。
赤ちゃんは生まれてくる瞬間に、自分の体の内外に劇的な変化を経験します。子宮の中では、お母さんから酸素や栄養をもらっていましたが、生まれてからは自力で肺呼吸し、おっぱいやミルクを自分で飲む必要があります。温かくほぼ無菌状態だった子宮から外に出ると、自分で体温調節せねばなりませんし、さまざまな雑菌がいる外界に適応できるようになっていかなければなりません。
しかし、生まれつき病気を持っていたり、出産時に何かトラブルがあったり、早産で未熟に生まれたりするなど、何らかの問題を抱えている赤ちゃんが一定の割合で生まれます。そういう赤ちゃんは、先ほど述べたような変化に自分の力だけでは対応していくことができません。
このため、生後すぐに医療スタッフの手でNICUに運ばれて、保育器に入って保温・保湿され、赤ちゃんによっては人工呼吸器をつけたり、チューブを通して栄養をもらったりします。また、赤ちゃんは自分で状態を伝えることができないので、心拍数や血圧などが分かるように、さまざまなモニターで状況を把握され、何か異常があればすぐにアラームでスタッフに知らせるようになっています。
お産はいつ起こるかわかりませんので、NICUにはスタッフの医師や看護師が24時間常駐しています。お母さんは、出産直後は自分の安静のために別の病棟に入院していますが、回復後は家族などと一緒に赤ちゃんに会いに来られます。
赤ちゃんが必要な集中治療やケアを受け、もう入院していなくても大丈夫な状態になれば、退院してご家族とともに自宅に帰っていきます。
このように、生まれた時に何らかのトラブルがあることによって、生命に危険がある赤ちゃんを助け、その後も元気にご家族と暮らしていけるようにサポートするのがNICUの役割です。
周産期母子医療センター 旧厚生省は1996年、母体や胎児を救命できる機能を持つ「総合周産期母子医療センター」を各都道府県に1カ所ずつ、また「総合」センターに次ぐ機能を持つ「地域総合周産期母子医療センター」を数カ所ずつ配置するよう求める「周産期医療システム整備指針」を各都道府県に通知しました。現在、国内には75カ所の「総合」センター、237カ所の「地域」センターがあります。山形県と佐賀県はセンターを設置せず、大学病院や公立病院などのネットワークによって、独自の地域ネットワークを構築しています。一方で、東京都のように9つの総合周産期母子医療センターが配置されている地域もあります。