30人に1人に必要 赤ちゃんのNICU
改善策は?
こうしたNICU不足の問題を解決するために、国は今年3月に、NICUを現在の1.5倍にまで増やすとの方針を打ち出しました。
しかし、ただベッドを増やすだけでは問題は解決しません。一体何が問題なのでしょう。
まず、日本は全体的に医療費が不足しているため、新生児医療への配分が少なく、その中でやりくりしなければならないというのが前提にあります。
特に、人手不足が深刻です。生まれたばかりの赤ちゃんを専門で診る「新生児科医」が圧倒的に不足しています。現在、新生児科医は国内に約1000人いるとされていますが、専門家の調べによると、病院が「NICUの増床が困難」と主張する理由として、NICUを持つ医療施設の約8割が「医師の確保」を理由に挙げていました。
では、なぜそんなに新生児科医が足りないのでしょう。
新生児科は、労働環境が過酷と言われる小児科の中でも、さらに過重労働になっています。新生児科医約 400人を対象とした調査では、約8割が当直明けも通常勤務を行うという連続30時間以上の労働を行っており、そんな当直が平均で月に6回あります。平均睡眠時間は3.59時間、月の休みは平均1.58回とまさに過酷で、体力も気力ともに燃え尽きた医師が去っていくという現状があります。
また、新生児科医の養成も十分でなく、医学部では新生児医療についての講義や実習がほとんどないため、志す医学部学生が少ないといわれています。
さらに、看護師も足りません。NICUの看護師は、医師の指示内容に基づいて、さまざまな処置を行い、3時間ごとにミルクを飲ませ、赤ちゃん適切に医療が行われているかを管理します。実際に赤ちゃんを育てているのは看護師と言えるでしょう。しかし、看護師は国内で慢性的に不足している上、現在は入院数や重症児の増加などから看護師1人でかなり多くの赤ちゃんを見なければならないために、あまりの過重労働に当初思っていたような看護ができず、燃え尽きてやめてしまう看護師が多くいます。
このほかには、NICUを出た赤ちゃんへのサービスが不十分であることも指摘されています。在宅で生活する重症の子どもへの訪問看護はサービス提供時間が短く、短期入所はどこの施設もほぼいっぱいで、24時間子どもにつききりでケアをせねばならないため、疲れて切ってしまう親が多いと言われます。
NICUに入る赤ちゃんの一部には、人工呼吸器をつけているなど重度の医療ケアが必要なため小児科の一般病棟や、重度の知的・身体障害を持った子どもが入所する重症心身障害児施設への入所が必要になる子どももいます。しかし、小児科一般病棟も入院する子どもの病気の重度化などから満床の病院が多く、重症心身障害児施設も入所率は96%とほぼ満床状態で、新規の入所は難しい状況です。
このように、NICUを出た後の受け皿が整わないことなど、さまざまな理由から、NICUでは20人に1人の赤ちゃんが1年以上入院していると言われます。
また、NICU医療は病院経営にとって赤字の元になるため、病院側が積極的になれないという現実があります。東京都の試算ではNICU1床あたりで、補助金の分を入れても年間で745万円の赤字でした。
こうして見てくると、NICUを必要とする赤ちゃんは増える一方で、現場で働く医師や看護師は足りない、病院側にとってもやればやるだけ赤字が増えるはという悪循環の起こっていることが分かります。
日本のなかで限られた医療資源や人材をどのように有効に使っていくか、医療者と国民が一緒になって『もし自分が患者だったら、医療者だったら』と、ともに考えていくことが必要ではないでしょうか。未来を担う赤ちゃんがいるNICUの問題について考えることは、医療だけでなく、私たちが生きる社会そのものについて見つめ直すことに通じていくでしょう。