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[裏・自律する医療⑤]要望を逆手、巧妙な餌

 出産育児一時金騒動を振り返るシリーズの5回目。(1回目2回目3回目4回目

 厚生労働省は、出産分娩に関する費用データのうち、半分は取ろうと思えばすぐにでも取れる。他の診療科も含む病院相手であれば、いくらでも威光が届くからだ。だが、半分だけデータを集めても意味はない。産科開業医の費用データが何としても欲しかった。

 そのことを百も承知の産婦人科医会の幹部たちが、警戒していたにもかかわらず釣られてしまったのは、自分たちの要望を逆手に取る形で厚生労働省に"餌"を仕掛けられたからだ。

 医会が要望していたのは、脳性まひ出生などへの無過失補償制度創設であり、出産育児一時金の値上げだった。だが、それを「産科医のため」の名目で行うと世間の不興を買うのでないかと恐れ、ことさら「妊婦のため」を前面に出した。これが少子化対策の時流に乗り、また福島県立大野病院事件以来の産科への追い風も後押しして、トントン拍子に実現した。そこに油断があったのか、あるいは「妊婦のため」という建前に自縄自縛になったか、直接払いという本来関係のないものまでくっつけられてしまったのだった。

 末端の会員たちは、直接払いになれば取りっぱぐれがなくなるなどと聞かされていたが、よく考えてみれば、費用を払わずに消えてしまうような妊婦は、そもそも無保険のことが多い。一時金もへったくれもなかった。

 また、産科の無過失補償制度も、天下り団体である日本医療機能評価機構に巨額の資金が流れ込む仕組みだけが見事に整備されて、先天性や早産性のものは補償対象とならず、医療側の過失判定まで行なうという歪んだ制度になってしまった。

 しかし、欲張りすぎたのか何なのか、厚生労働省も詰めを誤った。福祉医療機構のつなぎ融資制度をきちんと設計しておかなかったために、融資を断られる医療機関が続出してしまったのだ。「データを出したくない」とは言えなかった産科医側も「潰れる」なら言うことができた。もし現実に産科診療所に潰れられたら、統制下に置くも何も産科医療全体が崩壊してしまう。

 かくして、直接払い導入は一部凍結され、4月からはまた新しい制度が始まることになるのだろう。とばっちりは妊婦が負うことになる。

 こんな経緯があるからこそ、「関係者一同謝罪が必要」という言葉が出てくるのだ。。

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