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30人に1人に必要 赤ちゃんのNICU


何が起きているの?(本文)
45-2.1.JPG ところが、このNICUが、全国的に足りないという事態に陥っています。一体なぜでしょうか。
 近年、日本人のライフスタイルが変化してきました。女性の社会進出などに伴い、高齢出産や、不妊治療を受ける人も増えてきました。
 一般的に高齢での出産になると先天異常や早産、流産のリスクが高まると言われています。また、不妊治療では、妊娠率を高めるために子宮に受精卵を 2~3個戻すことがあるために、「多胎」と呼ばれる双子や三つ子などが15~20%の割合で生まれる可能性があります(日本産科婦人科学会は戻す自受精卵を原則1個とする方針を08年4月に出しています)。
 また、若い女性の喫煙率が戦後から高まっています。タバコには、ニコチンや一酸化炭素など、胎児の発育に有害な物質が含まれており、早産や胎盤異常、赤ちゃんの病気など、さまざまな悪影響を及ぼすことが分かっています。
 こうしたさまざまな要因から、近年、未熟児の赤ちゃん出生数が増えてきました。
 赤ちゃんの現在の平均出生体重は約3000グラムで、「未熟児」と言われる小さい赤ちゃんは2500グラム未満を指します。その中でも特に1000グラム未満の赤ちゃんの増加が著しく、06年には3460人と、10年前に比べて約1.3倍になりました。また、出生数が年々減少している一方で、未熟児が全体に占める割合が増えていて、06年には9.6%と、平均体重が最高を記録した75年の5.1%のほぼ2倍になりました(グラフ参照)。 
 このように、病気や未熟の赤ちゃんが生まれそうなこと、出産時に何らかのリスクがあることなどが分っているために、あらかじめNICUのある医療機関で産むことを予定する妊婦が増えました。
 このほか、医療の発達により、これまでなら助からなかったような重症の病気を持った赤ちゃんや、妊娠22週など早い時期に小さく生まれた赤ちゃんも助かるようになったため、救命率の向上にベッドの数が追いついていないという現状もあります。
  専門家は、NICUを必要とする赤ちゃんが年間に3万6000人いると推計しています。あくまで必要数であって、全員NICUに入院するというわけではありませんが、08年の年間出生数109万2000人から計算すると、約30人に1人の赤ちゃんが、NICUを必要としているということになります。
 NICUが日本で本格的に整備され始めた1990年代には、赤ちゃん1000人に対して2床の割合で考えられていましたが、それでは足りなくなってきたというのが実情です。
 妊婦さんに救急医療が必要になった場合、赤ちゃんにもどんなトラブルが起こるか分からないので、妊娠週数にもよりますが、NICUがある医療機関への救急搬送が望ましいことになります。ですが、いざ妊婦を運ぼうと思ってもNICUが満床のために医療機関の方が妊婦を受け入れられないのです。
 病院側も常に満床となっているため、まだNICUでのケアが必要な赤ちゃんに、ある程度状態が落ち着いた赤ちゃんの入院する病棟や別の病院へ移ってもらわざるを得ないという状況まで起こっています。それでもなかなか新しい赤ちゃんを受け入れられないほど、満床の状態が続いています。

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