がん医療を拓く⑦ 全く新しい抗がん剤に道
私たちの体の細胞には核膜に囲まれた「核」があり、中にはDNAと呼ばれる二重螺旋構造の物質が入っています。DNAには、遺伝情報が載っています。
2011年8月号、9月号、10月号の特集で紹介したように、がんの薬物療法では、DNAを害してアポトーシス(自死)に導いたり、DNA複製やその後の細胞分裂を妨害する抗がん剤と、がん細胞に特異的に発現している分子に作用する分子標的薬、そしてホルモン剤の大きく分けて3タイプが使われています。
そしてタイプは違えど、多くは細胞核や細胞膜の周辺で起きている現象に作用するものです。
と言われても、そもそも細胞の中で何が起きていて、そのどの部分に薬が働きかけるのか、ピンと来ないですよね。流れを把握しておきましょう。図をご覧ください。
体細胞が増殖する際、DNAは折りたたまれて染色体の形をとり、複製され、娘細胞に分配されます。
DNAの遺伝情報は体の設計図であり、細かく見ていけばタンパク質のレシピとも言えます。まず、DNAの情報をRNAという一本鎖が写し取って(転写)、核外へ持ち出します。
RNAにより必要なアミノ酸が集められ、「小胞体」の表面でつなげられてタンパク質ができます。
小胞体は、いわばタンパク質の1次合成工場です。
できたタンパク質は輸送小胞に包まれ、2次工場である「ゴルジ体」へ運ばれ、成熟した機能タンパク質になるとともに、輸送小胞に梱包されて最終目的地に出荷されます。
今回ご紹介するのは、このゴルジ体に作用して抗がん作用を発揮する物質です。
このタイプの薬剤として以前から「ブレフェルディンA」(BFA)というものが存在しますが、生体内に入るとすぐ壊れてしまうため、抗がん剤としては実用化されていませんでした。
そこに、生体内でも比較的安定で抗がん効果を発揮する物質が登場したのです。M-COPAと言います。
がん研究会がん化学療法センター(がん研化療センター)分子薬理部の矢守隆夫前部長らが、独自のスクリーニング技術(2012年6月号で紹介)を使って、BFAとの類似性からゴルジ体機能阻害効果を予測、実際に機能を確かめたものでした。