動脈硬化の共犯 リン酸カルシウム~【年間特集】血管を守る①
生命維持に不可欠。でも過剰も悪い
黒尾教授はかつて、血中リンの過剰が血管石灰化などの問題をひき起こしているのでは、と考えていました。そもそものきっかけは、偶然生まれた遺伝子変異マウスが「早老症」を発症したことでした。
このマウスでは、血管石灰化など数々の老化現象が異常に加速し、成長が滞り、短命になります。後に、その遺伝子変異を持つマウスは、リンの血中値が異様に高いこと、早老症を治すにはリンの値を下げてやればよいことが分かりました。そのため、メカニズムは不明のまま「早老症の犯人はリン」というのが通説となっていたのです。
腎臓で調節
リンは体内で、細胞膜の構成要素として細胞の成長・分化やエネルギーの運搬、神経伝達、筋肉収縮などに関わったり、DNAやRNAといった核酸の成分として遺伝情報を伝えたり、エネルギー代謝や脂質代謝などに重要な役割を担っていたりします。
その体内量の約80%は、リン酸カルシウム結晶の形で骨や歯の成分となっており、骨が壊されて作り直される(=リモデリング、2015年5月号参照)のに合わせて、骨と血液の間を出たり入ったりしています。
また、食事などから摂取される「入り」、尿や便などから排泄される「出」があり、通常は体内量が一定になるよう調節されています。主な調節は、血中に溶け込んだものを腎臓が濾して原尿にした後、尿細管で再吸収するか、そのまま排泄するかで行われます。その際に働くのが、骨から出るリン排出ホルモン(FGF23)です。腎臓の受容体に結合すると、リンの尿中排泄を促します。
リンが過剰ということは、入った分だけ、出せていないということになります。
本来は一時の運搬役
その後の実験で、薬を使ってリン酸カルシウムの結晶化を防ぐと、リンの濃度が高くても細胞死は起きないことが明らかになりました。つまりリン自体ではなく、リン酸カルシウムの結晶が悪さをしている、との推論が成り立ったのです。
前項で説明したように、リン酸カルシウムは、血中でCPPの形を取ります。
「CPPの本来の役割は、食事由来のリンとカルシウムを骨へ運ぶことと考えられます。ところが何らかの原因でCPPが骨以外の組織、例えば血管に行ってしまうと、そこで血管の細胞を傷害し、正常を変化させて石灰化をひき起こすと考えられます」と黒尾教授。
血管に溜まって石灰化を起こすだけでも充分に困った存在ですが、黒尾教授の基礎研究では、細胞を殺したり免疫反応を誘導したりする作用もあることが分かりました。
増え過ぎると細胞死や免疫反応をひき起こす点で、細菌などの病原体と変わらないことから、黒尾教授は「CPP病原体説」を唱えるようになりました。この仮説を支持する研究結果も出始めていると言います。