動脈硬化の共犯 リン酸カルシウム~【年間特集】血管を守る①
受容体に作用 まるで病原体
血中のCPPが骨で使われずに全身を巡った場合、どのようなことが起きるのでしょうか。「CPP病原体説」(図)の概要を、ざっとご紹介します。
黒尾教授の研究で、CPPは血管内皮細胞や平滑筋細胞に発現している受容体に取り付くらしいことが分かってきました。
取り付かれた方の細胞は、まるで骨を作る細胞のように性質や形が変わり、CPPのリン酸カルシウムを取り込みます。さらに、リンやカルシウムが沈着しやすいような環境を細胞の周りに整えるようになり、CPPを呼び寄せます。こうして、血管の壁が内側からどんどん骨のように硬く脆くなっていくのです。
また、CPPはマクロファージなどの白血球にも作用して免疫反応、つまり炎症もひき起こします。病原体による被害を広げないための手段である細胞自殺が起きることもあります。要するに、骨の材料の運搬役であるはずのCPPを、免疫システムは病原体と認識し、排除しようとしてしまうのです。排除しても排除しても血中からCPPが供給されたなら、慢性的に炎症が起きることになります。
しかも、この受容体は、血管だけでなく、全身の主要な臓器の多くの細胞膜や白血球そのものにも発現していることが分かっています。その結果、CPPは全身で慢性炎症を誘導、細胞障害をひき起こし、それが様々な老化現象に関与していると考えられるのです。
このように厄介なCPPですが、「この受容体の阻害剤は、既に別の疾患の治療薬として実用化されています。近い将来、血管石灰化を防ぐ薬が適応拡大だけで実現するかもしれません」と黒尾教授は話します。
(コラム)動物の陸上進出の陰にCPP
リン酸カルシウムの微小結晶を運ぶCPPは、「脊椎動物が進化する過程で得た仕組み」だと黒尾教授は言います。
脊椎動物の中でも古い種である軟骨魚類(サメやエイなど)の骨は炭酸カルシウムの結晶で出来ていて強度が低いため、その祖先も浮力のない陸地に進出できませんでした。その後に現れた硬骨魚類(今日最も繁栄している魚類)は、リン酸カルシウム結晶の硬く丈夫な骨を持ったため、陸に上がることが可能となり、巨大な恐竜や哺乳類へと進化を遂げました。
それを可能にしたのがCPPだったと考えられるのです。
つまり、骨でリンとカルシウムがすぐ使えるよう血中の濃度を高くしておきたいのですが、そうすると骨に届く前に析出しやすくなります。それを避けるために厳密な血中リン濃度の調節をつかさどっているのが、リン排出ホルモンです。
それでも血中のリンが増えるなどして、リン酸カルシウム結晶が血中で析出してしまうこともあります。そのまま骨に運べれば効率は良いのですが、結晶が成長し続けてしまうと運搬できなくなります。小さい粒子のうちに血液に溶け込ますことのできるCPPがあるから、骨へ運べるのです。