骨粗鬆症が招くCPPと石灰化~【年間特集】血管を守る④
腎臓と骨が両方くなる悪循環
前項で説明したように、骨粗鬆症は腎臓に負担をかけ、負担に耐え切れなくなった腎臓は慢性腎臓病(CKD)になっていきます。そして、CPPを介することで、この流れが悪循環します。
この骨粗鬆症とCKDの関係は、「慢性腎臓病に伴う骨ミネラル代謝異常(CKD-MBD)」という名前が付くほど、近年注目されています。
シリーズの2回目(6月号参照)で説明したように、CPPが形成されると、それを血中リン過剰のサインとして受け取った体は、リン排出ホルモンであるFGF23の分泌を増やします。FGF23は腎臓で活性型ビタミンDの産生を抑制し、結果、尿からのカルシウム排泄も増えます。血中のカルシウム濃度は常に一定範囲内にあることが必要なため、もし不足したら骨を溶かして供給されます。つまり、骨吸収が促されることになり、骨粗鬆症が進むわけです。
以上を繰り返しますと、骨粗鬆症は、単独で血中リン過剰とCPP形成、さらに血管石灰化をひき起こすのに加えて、CPPが間に関与することで、CKDと悪循環します。大変なことです。
カルシウムは要注意
さて、「骨粗鬆症対策にはカルシウム」と当然のように考えている方も多いと思いますが、サプリメントなどを使うのは、ちょっと待ってください。
カルシウム不足が骨形成低下の原因になっているならともかく、そうでないなら、いくら摂っても骨では使われません。
変に摂り過ぎると、前回ご紹介したマグネシウムの働きを損ねますし、また腎臓に負担をかけます。さらに何と、「リン過剰と同じように、リン酸カルシウム結晶の析出とCPP形成を促し、老化現象を加速させるでしょう」と黒尾教授は指摘します。
医療の可能性
ここまで4回シリーズで、血中のリン過剰からCPPが形成され、血管を石灰化させ、様々な老化を起こしてしまう、という話をしてきました。リン酸の過剰摂取に気をつけた方がよいこと、マグネシウムを積極的に摂った方がよいことも説明しました。ただ、もっと直接的にCPPの悪影響を緩和するような医療はないものか、という点も気になりますよね。
黒尾教授は、「加齢による骨粗鬆症が背景にある場合なら、骨形成を促進する薬剤によって血中のリン利用を促進する方法が可能性として考えられます」と話します。現在の骨粗鬆症治療薬は骨吸収を抑えるものが主流ですが、骨形成を促すものも一部あり、その代表例が副甲状腺ホルモン(PTH)製剤です。
今後は、直接的にCPPの形成・成長を阻止する薬や、血管内皮の受容体への結合を妨害する薬などが開発のターゲットになりそうです。
そのようにして、血管内皮での炎症を防げるようになったなら、悪玉コレステロール(LDL)が血管内壁にプラークとして溜まるリスクは相当下がると考えられます。近い将来、心血管病へのアプローチが大きく変わるかもしれません。