インタビュー(MRIC7) 仙谷由人代議士

投稿者: 川口恭 | 投稿日時: 2006年07月01日 17:39

仙谷由人・衆議院議員 民主党ネクスト厚生労働大臣
MRICインタビュー vol7
(聞き手・ロハスメディア 川口恭

~勤務医は自らの働きぶりを堂々と主張すべきです~

――まず、医療制度・システムに問題意識を持ったきっかけから教えてください。

ご存じの方もいらっしゃると思いますが、私は4年前に胃がんが見つかって、国立がんセンター中央病院で全摘手術を受けました。入院生活を送る中で、ドクターをはじめレジデントやコメディカルの働きぶりを目の当たりにしました。こんなに厳しい労働条件で、こんなに献身的・犠牲的に一所懸命働いているのかと驚いたわけです。一方、自分がそれに対して払った治療費は安いなとも感じまして、問題だなと思った、これがきっかけです。


そして退院した後、がんであったことを公表していましたから、がん患者の方々から色々な情報や要望・相談が寄せられるようになりまして、がんには標準治療があることや、化学療法には適正使用のガイドラインが作られつつあるけれど肝心の臨床腫瘍内科医が極めて少ないことなどを知りました。がんセンターの主治医の先生に「私の選挙区の徳島では、じゃあ一体誰が化学療法やっているんですかね」と尋ねましたら、「外科医が片手間にやっているんじゃないですか」という答えが返ってきて、日本の医療は世界の中でも進んでいると思っていたのに、そうとばかりも言い切れない、遅れている部分もあるんだなと強く認識しました。

一方で母や父を看取る時には終末期医療の問題を考えさせられました。また介護なのか医療なのか分からないような社会的入院というものが問題視され、高齢者医療が資源を食いつぶすという議論が盛んに行われてもきましたけれど、本当のところ医療の何が問題なのか国民に理解されていないとも感じました。

私が考えるに、医療に対しては金と人という資源を随分と投入しているけれど、その肝心の人を養成する部分への資源投入が決定的に足りません。10年、20年経ってから、そのツケに気づくようなことかもしれませんが。

――なるほど。

 で、これこそ政治の出番だと思ったのです。ハコモノとしての立派な病院を作ることももちろん大切なのだけれど、何よりも人(医療スタッフ)の質、システムが問われている。そこにお金をもっとかけないと資源投入をしないと、納得の医療は実現できない。

――なぜ、人やシステムの構築にお金を投下できないのでしょう

 政治の側の発想力不足もありますけれど、根本的には行政の縦割り構造でがんじがらめにされているために、一点突破することが必要な場面で力を集中できないのだと思います。

 地方の公的病院は自治体が経営者ですから総務省管轄になります。大学病院は文部科学省管轄です。厚生労働省は、地域医療を支えているこれらの病院に手を突っ込んでデータすら取れません。現場の実態が厚生行政に反映されないのも当然です。また、特に大学および大学病院は基礎分野の研究はなかなかの成果を挙げているのだけれど、その臨床治療は未だしです。こういう構造があるので、金や人の資源をばらまいている割に効果が出ていない。要するに患者さんに資源投入の成果が全く還元されていないのです。これは大問題です。

現状では、厚生労働省と文部科学省、総務省の間に壁があるのはもちろんのこと、同じ厚生労働省の中でさえ、医政局と保険局では思惑が違いますし、同じ医政局の内部ですら学会ごとに角を突き合わせてます。スパゲッティが絡み合ってほぐれないような状態ですね。これを克服できるのは、省庁の枠組みの上からドカンとやれる政治だけです。

――政府が医療改革法案を出していますね。政治力の発揮ですか。

現場のことを知ってみれば、政府の改革案は、改革と呼ぶに値せず、医療を崩壊させる可能性が大きいというのは普通に気づくことだと思います。行政が現場のことを知らず、あるいは現場の状況に目をつぶって動いていることが、政府案に如実に現れています。こんな法案が出てきては、今年は「医療崩壊元年」だと言っている人がいますよね。

――民主党案はどこが違うのですか。

 民主党は、今国会に医療関連で3法案を提出しました。最初に持ってきたのが「がん対策基本法案」です。総理大臣ががん対策本部の本部長を務めると書き込みました。縦割り打破の仕掛けです。政府案のように厚生労働大臣が本部長をしても、文部科学省や総務省は関係ないといって、今までの構造と大して変わりません。

「がん」を採り上げたのは、がんだけやればよいということではなくて、医療の矛盾を象徴する一つの突破口になると思ったのです。3人に1人はがんで死ぬ時代で、世の中の誰もが身内や知人をがんで亡くしておどろおどろしく感じていますから、「がん」という言葉が入ると一気に注目されるようになります。

 二番手の法案が「小児医療緊急推進法案」です。何年も前から学会とも連携して勉強している人がいたので問題のありかをかなり指摘できたと思います。今国会は、この「がん」と「小児科」の二本立てで政府案との違いを打ち出していこうと考えていました。

正直、産科がこんなにボロボロとは気づいていませんでした。

――産科の問題にいつ気づいたのですか。

 福島県立大野病院の医師の逮捕の時には、まだ危機感がありませんでした。起訴の日になって、これは大変なことだと気づきました。押っ取り刀で、臨床医の方々にもご協力いただき20分だけ国会質問をしました。その質問への反響に驚きました。こんなに反響があったのは、議員になってから初めてです。主に医師の方々から届くメールの中身が熱く、濃いうえに、いまだに届き続けています。

――反響に、どんなことを感じましたか。

勤務医の人たちは、こんなにもじっと耐えて、世の中に訴えたいことを抱え続けてきたんだなあと感じました。

とはいえ、これまで勤務医が余りに声を挙げなさすぎたのも確かです。医師たたき、政治家たたきなどなど、すぐヒステリックに叩かれるご時世ではありますけれど、「我々はこんなに立派にやっているんですよ」「正当に評価せず、こんな政策ばかり進めていくと良い医療・治療になりませんよ」と堂々と意見表明すべきだと思います。

そのことが分かれば国民の側からも、公的医療費がもっとかかるとすれば自分たちで負担するよ、という声だって出てくるはずです。結局医療に関しては、安かろう悪かろうが一番マズイと思います。NHSへの支出を絞りすぎたイギリスではに、優秀な医師を海外や自由診療へと流出させてしまいましたが、日本でも医療費総額を上から締めることを自己目的化すると同じようなことが起こります。がんの手術が1年待ち、抜歯が3ヵ月待ちなんて状態だったらしいですからね。慌てて医療費を5割増しにしてみたけれど、一度崩壊したものがなかなか元に戻らないとも聞いています。

いただいたメールの中で印象的だったのが、大野病院の医師が逮捕・起訴されたのを「医療界の9・11だ」と評したものです。労働環境の劣悪な点に関しては「私がいなくなると患者さんが困る」と踏みとどまって来たマジメな医師たちが、「ここまで献身的にやって逮捕までされるのか」と警察のテロで心を折られたというんですね。早く中央政府が本腰を入れて対策を取らないと、10年経つ間にイギリスと同じ状況になってしまいます。

――大野病院の件はだいぶ耳目を集めましたけれど、医療国会の論戦はなかなか報道されませんね。

 それに困っているんです。報道が娯楽産業化していると言いますか、スキャンダルにしか興味がないと言いますか、誰と誰は仲が良い悪いというようなことしか伝えません。今回の民主党代表戦でも、たとえば「報道ステーション」が、私が陰で糸を引いて若手を反小沢に扇動したなどど根も葉もないことを報じまして、強く抗議したら謝りに来たから「医療も報じてくれ」と言ったら、やっと時間を割いてくれたと、こんな案配です。

――どうやったらマスコミが正当に取り扱ってくれるでしょう。

 正直難しいですね。福島県立大野病院の件でも大騒ぎになったから報じられた面があります。診療科から勤務医が全員退職したとか、そういうクラッシュが起きないと報じてくれず、歯を食いしばって踏み止まっている間は放っておかれる、今のマスコミにはそういう体質があります。だからといってクラッシュを起こさせたのでは政治の責任放棄ですから、たとえ報道されなくても、手は打つつもりでおります。地道にコツコツ訴え続けるしかないのでしょうね。


(略歴)
46年、徳島県生まれ
東京大学法学部中退
71年、弁護士活動を開始
90年、衆議院議員に初当選
96年、民主党政策調査会長
02年、衆議院憲法調査会会長代理
03年、民主党NC経済財政大臣・経済戦略会議座長
04年、民主党政策調査会長
05年、民主党NC厚生労働大臣
(仙谷代議士の医療特別ページはこちら

MRICの許可を得て、転載しています。)

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