一病~リウマチ~息災徒然ノート15

投稿者: 真木魔愛 | 投稿日時: 2007年08月23日 22:08

二度目の入院1

1997年、年明けのことです。

多国籍企業ならではの光景かもしれませんが、
外国人社員の大部分は
クリスマスシーズンを自国で過ごすため、
ホームリーブHome Leave(休暇のために帰国すること)します。

ですから、
12月半ばを過ぎて出勤する人は少なく、
早めに仕事納めとなり、

一年中で最も長い休暇が取りやすい時期になります。

一年前は休職中でした。

病院のベッドで、
父の喪中ハガキを手配し、

京都で迎える父のいない初めての年明けは、
賀状もほとんど届かず、

赤と白が消え失せた、

全てが薄暗い霞がかかったような風景でした。

一年前に比べれば、

痛いけれど仕事にも復帰し、
再入院も無く過ごせたことに感謝し、

LECの授業もお休みで、

夫と自宅で久しぶりにゆっくり過ごしました。

全ては心の持ちようと、
諦め半分ながら、
穏やかな気分で新年を迎えていました。

ただ、

私の同級生は出産ラッシュが続き、
赤ちゃんの写真がデカデカ(つい、こういう表現になってしまう・・)
載った年賀状を見ると心が沈みました。

4歳年上の夫への賀状も、
子供を含めた家族の風景が写っているものばかり
やたら目につきました。


そんな、年明けの仕事始めから数日後、

生理が遅れていることに気づきました。


数ヶ月前まで、
それを使う時は
いつもその後に
脱力感しかやってこなかった妊娠判定薬が、
薬箱の隅にひとつだけ残っていました。


寒い時期なのに、
トイレの中で
手が震えて額に汗が滲むほど緊張していました。


スティック先の判定箇所に
恐る恐る目をやると、

そこには


赤いハートマークが
くっきり浮き出ていました。


だって、そんなはずはない、
自然妊娠はありえないって医師は言ったし、

どうしても信じられませんでした。

この判定薬が
期限切れでおかしくなったのかな、
誰かが悪戯したのではないか、
騙されているのではないかと疑いました。


大学病院のリウマチ外来で
鈴木先生に伝えると、

「あぁ、そうですか、、、
MTXを切っているから、まぁ問題ないでしょう、、
他のリウマチ薬は
妊娠判明してから中止して
大丈夫ってことに一応なってますからね。

妊娠中たいがいリウマチは良くなるから、
当分はこちら(リウマチ外来)は
必要なくなると思いますよ、
それより産科だな」

と淡々と語り、
内線電話ですぐに産科に予約をいれて、
即刻受診できるようにしてくださいました。


産科外来は不妊外来と同じ場所なのですが、
数ヶ月前まで通った
あの寒々とした場所と同じとは思えないほど、
柔らかな景色に見えました。

その二週間後に超音波で
妊娠確定ですよと告げられ、
医師や看護師さんから
「おめでとう」といわれるお祝いの言葉が、
なぜがとても切なかったです。


努力や頑張りだけでは、どうしようもないことが、
世の中にはたくさんあります。

でも私は
自分がリウマチになるまで、
そんな簡単なことに気づきませんでした。


どうしようもないことは、
私にとっては
いつも辛くて痛い出来事でした。

父が亡くなって、
リウマチが発病して、
入院して、
不妊治療で先の望みが無い結果を告げられ、
ついぞ久しく目出度いことなどひとつもなかったのですから。


何も努力しなくても、
やってくる祝福もあるのかと、
不思議な気持ちになりました。


それは、誇らしげだったり、
心から嬉しいという気持ちとは
全く違いました。

伏せ目がちに困惑した私の表情を、
向かいの不妊外来で、
延々と順番を待つ女性は
どんな気持ちで眺めているのかと
胸が苦しくなりました。


これから私はどうなってゆくのだろう、
本当にMTXの影響は子供にないのだろうか、
無事に子供が生めるのだろうか、
子供を育てながら、
仕事を続けてゆけるのだろうか、
リウマチが悪くなったら
子育てができるのだろうか、

何より生むのは痛いんだろうなぁ、、

そんな不安ばかりが湧き出てきました。


けれども、
2月になって
妊娠8週目に入る頃、
超音波で
米粒ほどの心臓が
私の体の中で、
ドクドクと鼓動しているモニターを見て、
自分の身体の中に芽生えた、
二つめの生命を感じて
身震いしました。

33年前、
私も母の子宮で
この米粒ほどの大きさから育まれてきたのかと、
深い感動を覚え、
涙が溢れました。

女に生まれたことに
これほど感謝した瞬間はありません。

米粒の心臓が、
自身の体の中で、
ヒトをかたちづくってゆく神秘は、
理屈抜きで私の心を大きく揺さぶり、
ぐつぐつしていた不安を払拭してくれました。

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