足りないか過剰か

投稿者: 川口恭 | 投稿日時: 2007年11月22日 19:46

医師のトレーニングに関する
プレスセミナー兼体験ツアーが汐留の
日本メドトロニックであったので行って来た。

ちょっと珍しいのは体験ツアーの方で
冠動脈内へカテーテルを入れるとか
ペースメーカーのリードを右心室内に置いてくるとか
そういったことをバーチャルトレーニングさせてもらい
何とまあ難しいことかと思ったが
その辺は文章ではなかなか表現しにくいことなので
あまり書かない。


セミナーの方でも面白いと思うことがあった。


神戸大学呼吸循環器外科の大北裕教授が講師だったのだが
外科医の希望者が激減していて足りなくなるという話に引き続いて
「しかし、循環器外科のある施設と専門医が多すぎ
 1人あたりの症例数は少なすぎるので
 施設を縮小しないといけない」と述べたのだ。


これ、7月の消化器外科学会の折と先日の現場からシンポの折に
土屋了介・国立がんセンター中央病院院長が
ご自身の専門分野である胸部・呼吸器外科について述べたことと
奇妙なまでに同じである。


互いに連絡を取り合っているのでないとすると
心ある外科リーダーから見れば
「施設と専門医が多すぎる」というのは明白に問題なのだろう。


講演の後で記者から質問が出た。
「外科医になる人が少ないのに
 施設と専門医が多すぎて経験できる症例が少ないというのは
 一体どういうことか」


これに対して大北教授は3つの理由を挙げた。
1)過去において
  少症例でもペイするような診療報酬体系になっていた。
2)心臓外科医が
  循環器内科で行うカテーテル術などで万一の事態が
  起きた際のバックアップ要員になっている。
3)循環器外科がある方が病院のステータスが上がるので
  どこの病院もこぞって置きたがった。


土屋院長も似たような分析をしていたが
(2)についてはちょっと違っていて
外科医が「化学療法をやっているから足りない」と言った。
どちらも外科医としての力量をフルに発揮し
そのうえで数が足りないのではない。


そして(3)。おそらく
病院開設者は虚栄心を満足させることができ
医師側もポストにありつけるという
winwin関係だった時代もあったのだろう。
しかし、臓器別診療科で症例数が少ないということは
generalistにもspecialistにもなれないということであり
そのうえ勤務がキツイと来ては
外科医の志望者が減るのも当たり前だ。


ここにも、医療をめぐる悪循環があるなあと思った。
「現場からシンポ」の横山禎徳先生の猿マネで考えてみる。
さて良循環は何か。良循環を生むサブシステムは何か。
ロハス・メディカルは何かお役に立てないか。

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コメント

この問題は多くの心臓外科医(特に若手)が感じている問題です。心臓外科医の育成・教育を行ってきた学会・国の責任であるともいえると思います。

大北教授のご意見にはおおかた賛成ですが、『術後管理医』、『PA=Physician Assistant』、の件はスルーのようですね。

『Surgeon』は別に少数でいいのですが、手術はチームワークです。全ての雑用を医師側に押し付けてきた日本の医療システムでは、減り行く外科志望者の中で、今後手術を周りから支える人手が不足してくるのではないかと思います。

誰が『Surgeon』になれて、誰が『術後管理医』になるのか? これをはっきりさせるとともに、『術後管理医』の身分(給料・時間)を保障し、『PA』たる職業を確立しなければ、現在の産婦人科医不足に続くのはこういった外科系だと思います。

>心臓外科医~海外より~先生
コメントありがとうございます。
大変勉強になります。

消化器外科も同じだと思います.

(2)に関しては土屋先生が仰るように,消化器癌では消化器外科医が化学療法を行っていますから,これが原因でしょう.

あと,消化器外科では胃カメラや大腸カメラ,胃透視,注腸検査,胆道ドレナージ,ERCPなど,手術以外の検査・処置業務を外科医が行っているところが少なくありません.

また,外科医が全身管理ができるのをいいことに,救急医の代わりに外科医を置くと行った使い方を病院が行ってきたことも問題なのではないでしょうか.

現実問題,手術数をベースに考えると日本の消化器外科医は多すぎます.しかし,現実の業務量ベースだと少なすぎます.

まさに心臓外科医~海外より~先生の仰るとおりで,すべての雑用を医師に押しつけてきた日本の医療システムが元凶です.

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