佐藤章・周産期医療の崩壊をくいとめる会代表インタビュー

投稿者: 川口恭 | 投稿日時: 2008年09月30日 13:56

お待たせいたしました。


ここで頑張ってこそ、大野病院事件に区切りが付けられる
~佐藤章 周産期医療の崩壊をくいとめる会代表 インタビュー~
聴き手  ロハス・メディカル発行人 川口恭


――加藤克彦医師の無罪が確定してから1ヵ月も経たないうちに、妊産婦死亡した方のご遺族を支援する活動をお始めになりましたね。いろいろな意味で驚いたのですが、まずこれまでやってきた加藤医師の支援活動と今回の活動とどのように関係するのですか。


まず誤解している方が多いようなので断っておきますと、大野病院事件で亡くなった方、そのご遺族に支援金を贈ろうとしているわけではありません。あくまでも今後発生するであろう妊産婦死亡の方が対象です。もちろん今後の運動の進み具合によっては遡って支援するということもあるかもしれません。


一方で、加藤君の支援と全く関係ないとも思っていません。刑事裁判の最中でも一方的に『加藤君は悪くない』ではなくて、『医療の力が及ばず亡くなられたことは残念だ』とずっと言ってきたつもりです。医師が一生懸命にミスなく医療をしても亡くなることはある、その現実を分かってほしいと言い続けてきました。そして、そういう不幸なことが起きた時には医療者だって悲しいし、自分たちにできることはしたいんです。その、医療には限界があるという現実と我々だってご遺族に寄り添いたいんだという気持ちを分かってもらうにはどうしたらよいだろうと考えた時、百万言を費やすより行動で示すべきだと思っていました。ただ、そうは言っても刑事裁判が続いている間は迂闊な行動もできないわけで、幸い一審だけで決着がついたので、今回の活動を始めることにしました。


――加藤医師の支援活動に対しては、主に医療者以外から、医師どうしの庇いあいという批判もくすぶっています。そうではないと分かってほしいんだ、ということですか。


そうです。周産期医療が立ち行かなくなったら、医療者だけの問題じゃ済まないんです。でも、それを加藤君支援の文脈で言っている限り、信じてくれない人は永久に信じてくれないでしょう。

来年から始まる産科無過失補償が、脳性まひの赤ちゃん対象で、妊産婦死亡した方は救済の網から漏れてしまうことも産科医の間で問題意識がありました。ご遺族は悲しみと共に乳児を抱えて大変なご苦労なさっています。まさに大野病院事件も妊産婦の亡くなった事例でした。その方々に救済の網がかかるまで何年かかるかも分からない。だったら自分たちでやってみよう、こういうことです。モデルとしてイメージしたのは、交通遺児に対する支援活動です。


――それにしても素早かったですね。


私自身、まだ大野病院事件の民事の決着もついてないのに早すぎるんじゃないかと最初は思ったんですが、刑事事件で医療界が盛り上がったのを無駄にすべきでないし、無罪だけで終わらせたら世間の医療界に対する目が一段と厳しくなるという意見があって、そう言われてみればそうだな、と。

医師が一生懸命ミス無く医療を行っても、助けられない現実がある。それを医師にミスがあったかどうか、という次元に留まっていては、第二第三の大野病院事件が必ず発生してしまいます。ですから、私はこの周産期医療の崩壊をくい止める会では、その先の次元に進むことができるような活動をしたいと思ったのです。

ただ、立ち上げを急いだために、実は1件あたりの支援金額とか、贈る対象者はどうやって申請したらいいのかとか、まだ細かいところが決まってないんです。なるべく早く決めたいと思います。

そもそもいくら集まるのかも分かりませんしね。


――大した金額が集まらなかったら、先ほどの先生の言葉じゃありませんが、加藤医師支援の盛り上がりは結局身内の庇いあいだったのかと見られかねませんね。


そうなんですよね。だから、そこは頑張らないと、と思っています。


――とはいえ、医療者だけでも継続性がないというか、何年も続けられないのではありませんか。


加藤君の支援をしてくれたのは医師ばかりじゃありません。この活動が良い活動だと思っていただけたら、そういった方々にも広く支援をお願いしたいと思います。それからメディアにも協力していただいて粘り強く広報活動を続けたいと思います。

何年も継続できるかということに関しては、そもそも論で言えば、変にお産は安全という神話ができてしまいましたけれど、本当は危ないんですから、妊娠したら入る、あるいは妊娠の可能性が出た時、結婚した時とかに全員が加入して、あらゆる不幸なできごとを補償してもらえるような保険制度があった方がよいと思います。佐藤和雄先生などは、大野病院事件の前からそのように提唱されていました。ある程度、我々が頑張って成果を出してみせれば、この活動を種に制度が追い付いてくるという可能性は十分あると思っていますし、そうなるよう政治家の方々にもご協力いただければと思います。

(この内容を再構成したものが『ロハス・メディカル』12月号に掲載されます)
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コメント

若く使命感の強い多くの医師たちは、患者に寄り添いたくても、現実は甘くないという現実を、今まで、嫌というほど見せつけられてきました。

奇しくも、昨日、7年前の東京女子医大事件の患者の父親は、無罪判決の佐藤医師に、有罪でなくても医道審議会の処分を求めて申立書を提出したことが、m3で報道されています。

まるで、患者と医療側の敵対関係を保ち続けなければいけない立場にいるのだろうかと勘繰りたくなります。こういう人がいるという現実です。

 加藤先生の専門職としての誇りどころか、人間性さえも否定し、下げずんだ大野病院事件の患者の家族のような、人間的に寄り添いたくても寄り添えない、患者家族と、
意図的にその対立を強調して視聴率を稼ぐマスコミがあるという現実を私たちは知ったではないですか。

佐藤教授の高邁なご趣旨をこのインタビューで知りました。
普通に考えて、協力しなければいけないと思います。

しかし、そんなに生易しくはないと思う医師達も多いと思います。

今の進行する医療崩壊の中で、医師として、どのように自己実現をしていくか、どのように社会に貢献するか、簡単には考えられないという覚悟はあります。

>愛媛出身の内科医先生
コメントありがとうございます。
医療者に「甘い」と承知の覚悟を強いる以上
非医療者の側にも覚悟が必要であるとは思っています。

対立によって利益を得る人々は確かに存在し
しかし、対立が世の中に価値を生み出していない以上
誰かが利益を得るということは誰かが損をするということと同義であり
対立で利益を得る人々が社会の過半数を占めることは通常ありえないので
何が社会全体の利益になるかを冷静に考察して対処していれば
対立をあおった人々が社会の敵としてあぶり出されて来るはずだと考えています。
冷静に考察するためにも、社会の側が浮き足立ってはいけない。
紛争の芽を未然に摘むことの意義はそこにあると思います。

今回の「周産期医療の崩壊をくいとめる会」の行動はとにかくタイミングが非常に良かったとおもいます。医師は患者さんの診療においては常人を遙かに超えたフットワークの軽さを発揮する方が多いのですがこういった自分たちの根本に関わるような活動には対照的に腰が重いように感じます。
マスコミは現在のところ「患者vs医師の対立」という図式でしか「売れる」記事を書けないのでしょう。もっと違う角度からでも色々面白い記事が書けるのに、と思うのは私が医師だからなんでしょうね。そういう意味では医療者のマスコミへの働きかけが必要なのかも知れませんが、医師は暇がないし…。どうすればいいんでしょうね?

>石先生
コメントありがとうございます。
どうやったら今までの切り口と変えても面白い記事が書けるのか考えるのは
メーカーにたとえるならば商品の企画開発にあたるので
普通に必要なことをサボっているだけだと思います。
そういう怠惰なメディアには、金を流さなければよいのです。
方法は。。。言わないでおきます。

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