うるさいほうがいいこともある、という話。

投稿者: | 投稿日時: 2009年07月04日 21:56

ハイブリッドカー、今年またものすごく売れているらしいですね。今年3月に政府が打ち出した「エコカー減税」(正式名称:環境性能に優れた自動車に対する自動車重量税・自動車取得税の特例措置)の効果だそうです。

一般に低速時の作動音が非常に静かであることもメリットのひとつとされてきましたが、実はそれが仇ともなっているようです。

そもそもハイブリッドカーは、ガソリンで動く「エンジン」と電気で動く「モーター」など、複数の動力を組み合わせて走る車。一般的なガソリン車のエンジンは低速の時には燃料の効率が悪いそうで、そのマイナス点を改善するために考えられたようです。代替の動力の典型は電気モーターの使用。発進から一定速度に達するまでは電気を使ってモーターで加速し、ガソリンエンジンのほうがモーターよりも燃料の効率が良くなる速度まで達したら、ガソリンエンジンに切り替わる、といったシステムが採用されています。


こうした仕組みによって、ガソリン車に比べて全体の燃費が向上します。それにより、走り方によっては、排気ガスそのもの、そして中に含まれる温暖化ガスの量も大幅に抑えることができるようです。京都議定書の第一約束期間である今、日本は1990年に比べて温室効果ガス排出量を2012年までに6%削減することが、日本に課せられています。その対策の一つとして打ち出されたのが「エコカー減税」であり、低燃費・低排出を実現しているハイブリッド車のほとんどが「エコカー」として認められるということなのですね。


前置きが長くなりましたが、今回問題となっているのは、その「静かさ」です。


私の友人もプリウスというハイブリッドカーに乗っていて、私も同乗させてもらったことがありますが、たしかにとても静か。他にも乗ったことのある人に聞くと、車のエンジン音にこだわる車好きの一部の知人を除き、そろって快適だと評判も上々のようでした。


しかし、静か過ぎることで、視覚障害者の方々は怖い思いをされることも多いようです。確かに目の見えない方は、音で車の判断をされているにちがいありません。良いか悪いか、ガードレールのない道では、人が優先と言いながら、実際には車の方もある程度歩行者が前もって気づいて脇に寄ってくれることを期待しているのが現実ではないでしょうか。車を運転しながら、必ずしも遠くから歩行者が視覚障害者かどうかまで適切に判断できるとは団限りません。結果として、近くに接近してからクラクションを鳴らすはめになるのではと思います。これはもちろん、視覚障害者の方にとっても危険です。近くで突然クラクションを鳴らされれば、驚き、あせって動き、転倒する恐れもあるのではないかと想像します。


これに対し、何らかの対策が必要だという動きが出てきたようです。

国交省 静かなエコカー事故防げ HV・EV「音付け」結論急ぐ
(フジサンケイ ビジネスアイ 2009年7月3日)


またこの件は、既に今年2月、国連傘下の「自動車基準調和世界フォーラム」で問題提起がされていたことも報道されています


危険にさらされかねないのは、視覚障害者だけではありません。すぐ上でリンクを張っている中日新聞の記事では、子どもへの危険がとりあげられています。確かに子どもは大人より視野が狭いとも聞きますし、遊びなどに熱中して周囲のことに気づくのが遅れがち にもなりますから、音が大きければそれだけ前もって、遠くにいる時点から車に気づくチャンスが増えるのだろうと思います。


さらに私が思うのは、聴覚の弱まった人への配慮です。私の父も幼少の頃、薬害で聴力を大きく損なって以来、ずっと補聴器をたよりに音を拾ってきているのですが、やはり大きな音のする車は音によって気づくことがあるものの、たいがい音だけでは気づきません。それくらいの難聴になってしまえば、ある意味音がしてもしなくてもあまり変わらないのかもしれませんが、お年寄りなど軽度の難聴の方ではもう少し差が出てくるのではないでしょうか。何が気になるかというと、エンジン音の代替となるメロディーが自動で流れる仕組み等が検討されるにあたっての、音質の研究です。ぜひ、周波数など、聞こえやすく伝わりやすい、気づかれやすい代替音(かつ、一般の人にもさほど不快でない音)というものを、徹底追求していただければと思うのです。


いずれにしても、ハイブリッドカーにそんな落とし穴があったなんて、私自身が普通に生活していたら気づいていなかっただろうと思います。単に静かでいいと思っていただけかもしれません。そういうことって意外と多いのでしょうね。とくに健康や体に関することは身近すぎて、健康・健常な状態をついつい“あたりまえ”として物事を見てしまうために、広く想像をめぐらせることを怠りがちになっているのだろうと思います。ちょっと反省です。


ちなみに、冒頭で触れたように、ハイブリッドカー=エコカーというイメージが、大量のCMの効果も手伝って、徐々に定着してきているように思います。しかし、本当にハイブリッドカーが“エコ”なのか、という点にはかなりの疑問が残ります。以前もどこかで書きましたが、ハイブリッドカーを作るのにどれだけの資源・エネルギーを消費し、温室効果ガスを放出するのか。燃費が良く、その分ガソリン代がかからないからといって、ハイブリッドカーがどんどん生産され、人々がより長距離を走るようになったら・・・。いろいろ考えると、今ある車をできるだけ長く乗り続けるのとどちらがいろいろな意味で本当に地球に優しいのか、すごく気にかかります。


エコカー減税で本当に得をするのは誰なんでしょうね・・・。

<<前の記事:レセプト請求システム、「1か所改修は全体改修と同じ」 ─ 厚労省 コメント欄    ZENSAH:次の記事>>

コメント

静かすぎる自動車に音をつけるのには賛成ですが、「これはトヨタの音」「これはホンダ」とやたらと「新しい音」を増やすのではなくて、ごく普通のエンジン音を控えめに鳴らすので良いのではないでしょうか。「新しい音」を覚える手間も省けますし。

いいところにお気づきですね。
静か過ぎることは電気自動車の開発時からの問題点です。
対策としては幹線道路以外の小道路の路面舗装を全廃し昔ながらの土と砂利交じりの路面にするという方法も考えられます。そうすればスピードも出せないし(子供の飛び出し対策)、自動車の重量がかかればそれなりに路面音がしますから(視覚障害者対策)。そのほかにヒートアイランド対策としても期待できます。

路面舗装を全廃し昔ながらの土と砂利交じりの路面にすると、小さな穴はどんどん掘られて大きくなって、轍もうんと深くなって道路の凸凹がそこかしこにできるので、そんなバンピーな道を運転するあなたは、きっとスリリングな体験を満喫できるでしょう。
やがて車は底づきし、轍にタイヤを取られて、あちこちで車がスタックし故障するので、人力で車を押す光景や町の自動車修理屋さん、厳しい車検などが復活するのも懐かしい。
雨が降ったら泥はねで、晴れた日には砂塵がもうもうと舞う。危なくて不快で歩行者も自転車も歩けたものじゃない。更に山道が無舗装に戻ると、車がすれ違うだけでも命がけ。ウインチの装備が必須になって、またまた機械屋さんが繁盛する。いっそ、内燃機関も全廃して馬車にしたらどうかしら。道路に馬糞がばら撒かれうんと懐かしい臭いが復活する。

私ゃ住みたくないけれど、こういう不便な生活が良いという人を集めて移住させてあげるのも悪くはないかも。このためにだれか土地と資金を提供してくれる酔狂な篤志家はいないかしら。

皆様

アイディアをありがとうございます。確かにいろいろな音が入り乱れても、辟易するかもしれませんね。ただでさえ、街には携帯の様々な電子音が鳴り響いています。自動車は自動車らしいのが一番なのかもしれませんね。いろいろな技術が進歩して、暮らしはどんどん便利になっていきますが、誰にとっての便利さであるのか、便利さとは何か(効率化、ということでしょうか。しかし、狭い視野で見れば効率化であっても、視野を広く持った時に全体のバランスを崩し、それを補無視せずに補おうとするのであれば、効率化できているとはいえないことも多いかと思います。)、といったことも冷静に見ていかなければならないのですね。

コメントを投稿


上の画像に表示されているセキュリティコード(6桁の半角数字)を入力してください。