日本人のピロリ菌は、やっぱり怖いらしい。

投稿者: | 投稿日時: 2010年01月18日 17:31

しばらくぶりの更新です。このところ立て込んでいたこともありますが、数日前には子供が軽い胃腸風邪(嘔吐下痢症?)にかかったらしく、私も体調の悪い週末を過ごしました。幸い軽くすんでもうだいぶ楽なのでよかったですが・・・。それにしても、年末には溶連菌を子供がもらってきましたし、そして年始には、我が子は予防接種が効いたのか難を免れたものの、保育園の同じクラスの子達の間に水疱瘡が大流行。本当に冬はインフルエンザだけでなく様々な病気がはやるもの。気が休まるときがありません。


ところで今日の話題は、そうした流行性の感染症ではなく、ピロリ菌(ヘリコバクター・ピロリ)の話。つい先日、知り合いが健康診断のついでに調べたところ、陽性反応が出たというのです。


「ピロリ菌」の名前が一般に広まったのはいつだったでしょうか。私の記憶では大学生のころ、"ピロリ菌の活動を抑える”という触れ込みで、大手メーカーがヨーグルトを発売したのがとても印象に残っています。思い起こせば、その数年前にはすでに「ピロリ菌が胃がんを引き起こす」と報道があり、名前だけは聞いたことがあったはずです。ただ、そのヨーグルトが発売された当時、ピロリ菌の映像や後にノーベル賞を受賞した研究者が登場するテレビCMがバンバン打たれていて、それで私自身もその商品を買ってみた覚えがあります。その後そのヨーグルトは定番となり、形状や風味等にもバリエーションが出ていますね(ちなみに、個人的に香料不使用のヨーグルトが好みなこともあり、この商品のプレーンタイプは味的にもなかなかだと思っています)。


今回、知人が感染していたということを聞き、気になったので少し調べて見ました。(実は以前にも感染が見つかった知り合いが他にいたのですが、その人は60歳近く。その時どこかで「ピロリ菌の感染は衛生状態にも関係があり、日本では戦前~戦後まもなくに生まれたような世代の方々の感染率はかなり高い」とも聞かされたので、さほど驚きませんでした。しかし今回の知人はまだ30歳代。私とほとんど変わらない年齢なので、ちょっとぎくりとしました。)


ざっとネットで見てみた中で、ピロリ菌のことについてわかりやすくまとまっていたのが、東京大学の畠山昌則教授が北海道大学教授当時に市民向けに書かれた「ピロリ菌感染と胃がん - 日本から胃がん患者が消える日」という文章でした。(ちなみに畠山教授は、ピロリ菌がもつcagA遺伝子のつくり出すCagAタンパク質が、胃がん発生の初期段階に不可欠の役割を果たすことを分子レベルで解明。ピロリ菌CagAは、細菌由来の初のがんタンパク質とのことです。)


なかでもへえ、と思ったところを引用させていただくと、

●ピロリ菌は世界人口の約半数に感染しており、我が国でも約6000万人がピロリ菌保菌者と推察されています。
●特に50歳以上の年令層では感染率は80%—90%以上にもなります。
●ピロリ菌は幼少期に保菌者である母親(ないし父親)から経口感染すると考えられていますが、感染経路はまだ完全に解明されているわけではありません。
●日本人に蔓延するピロリ菌はより胃がんを引き起こしやすい悪玉ピロリ菌であり、これが我が国における胃がんの多発と密接に関連している
●我が国に現在6000万人いると推定されるピロリ菌感染者全員に除菌を施行することにより、この集団から今後20—30年の間に予測される300万人—500万人の胃がん患者発生を未然に防ぐことが可能になります。


とのこと。


これらの話からすれば、私の知人が30歳代でピロリ菌を保有していたのも、私たちの親が60歳前後であること、そして父母からの感染が多いと考えられていることからすると、別に不思議ではありません。むしろ私たちの世代にも、実は調べていないだけでピロリ菌がいる人は意外と少なくないのかもしれない、とさえ思えてきます。


というのも、「虫歯は親から子供にうつる」という話が広く一般に浸透してきたのも、そう昔のことではないように思うからです。さすがに私自身の幼少時の記憶としても、親が噛み砕いたものや口移しで自分が食べさせてもらったという記憶はありませんが、世間にまったくない話ではないようですし、何よりそこまで極端でなくても、箸やスプーン、食器類の共有や、キス、はたまた会話等による唾液の飛散でも、親から子供へ虫歯はうつるそうです。この話は細菌の子育て中のお母さんたちの間ではそれなりに知られていることなのではないかと思いますが、周りを見ると、徹底されているとは言いがたい状況です。アイスクリーム1個は子供には多すぎるからといっしょに食べたり、麺類を取り分けてあげたけれど足りないからといって自分の食べかけをあげたり、口と口でキスをしたり、というのはよく見かける光景です。かく言う私も、かなり気をつけているほうではあるのですが、子供から病気をうつされることは日常茶飯事ですから、いかに密接して暮らしているかを自覚させられます。そもそも子供からもらっているのだから、こちらからあげてしまっていることは、想像に難くありません。


となると、虫歯だけでなくピロリ菌だって、私たちの世代も親からもらっていることは十分考えられるのではないか、というわけです。


さらに、世界のなかでも日本人の間に蔓延しているピロリ菌が、胃がんを引き起こしやすい性質を獲得している、というのも初耳でした。これについてもう少し詳しく、なおかつ一般向けの解説を探したところ、同じくは畠山教授に取材した記事を見つけましたので、興味がある方は下記ご参照ください。

●「超悪玉ピロリ菌」(読売ウィークリー 2008年4月27日)


さて、ピロリ菌が見つかった知人ですが、さっそく抗生物質による“除菌”を開始しているそうです。その人は、定期健康診断でもともと胃の内視鏡検査が決まっていて、そのオプションとしてピロリ菌の内視鏡検査を申し込み、胃の細胞を採取して陽性だったとのこと(もともと祖母様の代から胃潰瘍家系だったので気になったとのこと)。内視鏡検査となるとかなり抵抗もあるかと思いますが、まずは呼気検査など、内視鏡を使わずに判定できる方法もいくつかあるようです。(なお、今日は、「内視鏡検査の前に行う胃洗浄の廃液を調べることで、胃がんを早期発見できる可能性」についての報道もありましたね。そもそも内視鏡検査自体、2割も胃がんを見逃してしまうらしいとか。知りませんでした・・・。)


ただ、検査も除菌も、胃・十二指腸潰瘍等の診断がなければ自費となり、場合によっては2万円程度見ておいたほうがよさそう。そのあたりもちょっと引っかかって「まあいいか」となってしまうのかもしれませんが、それで胃がんが防げるなら安いもの。とくに家族に慢性胃炎や、消化器潰瘍、胃癌の患者さんのいる場合は、若くても検査してみて損はないかもしれません。ちなみにそうなると私も思い当たる節が無きにしもあらず・・・。自分の子供にうつさないためにも、お腹の子供が無事に生まれてきたら、あるいはその前に、検査を考えてもいいかな、と思ったのでした。

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