「あなたの体を治したい」というメッセージもっと出して‐モダンホスピタルショウシンポから

投稿者: 熊田梨恵 | 投稿日時: 2010年07月15日 18:31

 最新の医療情報システムや医療材料などを展示紹介する「モダンホスピタルショウ」が本日都内で開かれ、「チーム医療の実践と質向上」と題したシンポジウムも併せて行われました。私は途中から会場に入ったため、各パネリストの主要発言を聞き逃してしまったのですが、その後のディスカッションを興味深く拝聴しました。備忘録兼ねて、記憶に残った発言の趣旨をまとめておきます。


(人名は順不同)

栗原正紀・長崎リハビリテーション病院理事長、院長
・行政では「亜急性期」が忘れられている。臓器別治療を生活につなげていくのが回復期。
・行政は「チーム医療」と言うと急性期ばかり見ているようだが、それぞれの病期、在宅で職種の連携の在り方は違う。また、病期の中でも連携、協業、協働は違うと思う。
・回復期や維持期では、医師、看護師、理学療法士、作業療法士、言語聴覚士、医療ソーシャルワーカーなどが連携するが、24時間患者の事を周知しているのは看護師、そしてリハビリスタッフがいて、ソーシャルワーカーが他と連携する。看護が重要。ここでの医師の役割は後ろに回ってコーディネートするようなものであり、前面に出るものではない。医師はそれをよく分かった方がいい。
・急性期に介護福祉士のような質を持った看護補助者がいれば、看護の質をより向上させる。例えば、歯科衛生士が病棟に入ると、口腔ケアの質が向上する。院内の臭いも改善される、医療機能評価を受けていても臭いのある病院もあるぐらいだから。
・(専門、認定看護師について)看護は広い領域を含めてのケアがあるものなので、医師と同じように専門分化して技術屋になってしまうと、ケアから遠ざかる事が懸念される。患者の食欲がないなら、食欲増進剤について薬剤師に相談するのでなく、なぜそうなるのかを想像できるような看護であって頂きたい。


畝井浩子・広島大学病院薬剤部薬剤主任
・患者のことを考えて臨床心理士やソーシャルワーカーを配置しようとしても、病棟別に薬剤師を配置しようとしても診療報酬で評価されない。


鈴木紀之・筑波メディカルセンター法人事務局次長兼病院副院長
・普段聞きづらい事をここで聞きたい。7:1看護が始まって看護師の数が増えているのだが、どれぐらいの時間患者のベッドサイドにいるのだろうか?パソコンの前でこもりきりになっているような気がするのだが…(城所氏への質問)。また、専門看護師や認定看護師が増えたとして、病院側にそれだけの有能な人達を使いこなせる力があるか?(コスト面の意味も含むように聞こえた)


城所扶美子・昭和大学病院看護部次長

・(鈴木氏の発言に応えて)最近在院日数が短縮し、入退院が増えた。同意書や記録など書類の記入も増えており、ベッドサイドにいられている実感があまりない。なるべく患者のそばにいられるよう業務を整理していきたい。専門看護師や認定看護師については看護師の中でも能力差があるので、課題になっていくと思う。


阿真京子・「知ろう!小児医療 守ろう!子ども達」の会代表
・医療者側は驚くかもしれないが、医療者の「あなたの病気を良くしようとしているんですよ」という患者へのメッセージが伝わっていない事が往々にしてある。それを前面に出してもらえると、患者は安心して「私の体を治したいと思ってくれているんだ」と前向きに進んでいくと思う。
・都内では子どもの医療費が一定年齢まで無料ということが影響し、医療はお金がかからないものと認識させてしまっている弊害があると思う。ベビーマッサージなどに3000円といっても文句を言わない人が、私達の勉強会の参加費500円について「高い」と言うのを聞くと悲しくなる。医療が無料という事が浸透する事に怖さを感じる。
・家族から医師への不満に「薬についてよく教えてもらえなかった」というのがあったが、薬剤師に聞けばいい事でもあるので、なんでも医師に求めるという態度は考えていくべきと思う。


<会場発言>堺常雄・日本病院会会長
・医師不足や勤務医の疲弊の話を発端に、業務分担の議論が始まったため、利用者の意識についての部分が薄かったが、徐々に修正されつつあると思う。今は医療について、感染症から遺伝子治療的なものまで増え、利用者のニーズが際限なく高まっている。我々がやってきたチーム医療が世の中の動きについていけなかった。よい医療を追求すると専門分化が始まる。専門職は知識や教育などについてそれぞれに壁を作って先鋭化していくので、組織横断的な動きができにくくなるが、それがいい悪いではなく、それをどうするか。チーム医療のあり方自体考える必要がある。院内と院外、在宅などで連携の在り方は全く違う。この時患者のことをよく知っているのは医師ではなかったりするので、これまで医師はえらそうにしていたが、利用者中心のいい医療をする事が大切。また、看護部、放射線技師、リハビリスタッフなどそれぞれの中でも専門特化すると連携が悪くなることがあるので考える必要がある。専門職の中でも「7:1」などで評価されている看護職は一番恵まれている。国家資格を持たないソーシャルワーカーや診療情報管理士などががんばっても認められない現状があるが、それぞれの職種に診療報酬をつけていくのは大変なので、入院基本料の加算など大枠の中でチーム医療をどう考えていくか。我々もいい医療をこんなふうにやっているからと、正面から診療報酬を要求していきたい。また医療の中では、事務部門の総務や経理なども重要な役割があり、潤滑油になっている。チーム医療はこうあるべき、というのではなく、患者のニーズに応じて医療は変わっていく。

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