的外れな批判

投稿者: 中村利仁 | 投稿日時: 2011年08月04日 05:12

 日本医療メディエーター協会という団体があります。

 医療紛争の前段階では、患者さんと医療機関との間の対話が断たれることが珍しくありませんでした。医療機関側の担当者が、患者さんからの厳しい批判に如何に接するかを知らず、しばしばこれを途中で放り出し、遂には自身が精神的に追い詰められて異動を希望し、あるいは辞職してしまうことも珍しくありませんでした。

 医療メディエーションは、医療機関担当者にこの対話の維持のための方法論を提供するためのスキル・トレーニングシステムです。

 自分は北海道でのこの普及の努力に関与しており、医療メディエーターの認証を行う日本医療メディエーター協会の北海道支部(任意団体)の設立・運営のお手伝いをしてきました。

 医学書院の定評ある週刊紙「週刊医学界新聞」に、おそらくは日本の医療メディエーションについての知識不足によると思われる、誤った批判が掲載されました。日本医療メディエーター協会から団体としての名前で反論が出されており、許可を得て、以下に転載させていただきます。


***


ローズマリー・ギブソン
「医療事故において医療メディエーションが担う役割はあるか」(『週刊医学界新聞』 第2939号掲載)をめぐって
http://jahm.org/pg177.html


医療メディエーションについて触れた標記の論稿が『医学界新聞』に掲載されました。
http://www.igaku-shoin.co.jp/paperDetail.do?id=PA02939_03

 そこで示された「医療事故後の対応において前提とされるべき重要な理念」は、まさに我が国で広がりつつある医療メディエーションの理念と軌を一にするものであり、常に医療メディエーションの教育・実践において強調されているものとまったく同じです。我々の医療メディエーションの理念の再確認に有益で有り、皆さんにも共有していただきたいと思います。

 そこで強調されているのは下記のような諸点です。

・明らかになった事実は担当医あるいは責任者が伝える
・メディエーターが代理したり肩代わりするのでない
・その場限りの対応で終わらせない
・家族・患者は継続的なケアを必要としている
・医療者自身にもまた,癒しが必要
・誠実な対応のみが患者家族・医療者双方にとって癒やしとなる
・解決を急がず,継続的な会話を

 これらは、まさに我が国で展開されつつある医療メディエーションの理念と実践の描写そのものであり、医療メディエーションを推進しつつある者として、非常に勇気づけられる論稿であるといえます。

 医療メディエーションの研修を受けた方はもちろん、その解説記事などを読んだ方なら、誰でも、ローズマリー・ギブソン氏の考えるあるべき理念を具体化するモデルこそ、我々の医療メディエーションであり、常にメディエーター役割の目標理念として強調されている点であることは一読しておわかりかと思います。

 残念なのは、著者が日本の医療メディエーションの理念やモデルをご存知でなく、アメリカ的な発想で、単純に「患者と医療者の間に割って入り肩代わりする存在」であるかのように捉えておられる点です。これは、我が国の医療メディエーターの働きとはまったく異なることは言うまでもなく、むしろ最悪の関わり方として否定されているものです。

 我が国の医療メディエーションは、この著者が推奨する「患者家族対応の理念」を、まさに現場で体現すべく、現場の医療者・患者・被害者の方々の指摘を参考に、独自に工夫され練り上げられてきたまったく新たな倫理的考え方であり、モデルです。海外に比肩するもののない、この論稿で示されたこと以上に、精緻で微細な倫理的配慮を伴う独自のモデルとしてそれは成長してきています。

 この点を除けば、著者の示す患者家族対応の理念は、日本の医療メディエーションの理念そのものであり、今後の医療メディエーションのいっそうの推進のための力強い応援にほかなりません。今後も、我々としては、この理念を医療現場に広げるべく、努力を重ねていきたいと思います。

日本医療メディエーター協会


***

(転載以上)

<<前の記事:厚労省の「医師密度」案に異論噴出  コメント欄    医師不足対策に「医学部新設」も ─ 文科省素案 コメント欄:次の記事>>