第1回不活化ポリオワクチン検討会 傍聴記 その6

投稿者: | 投稿日時: 2011年09月12日 00:42

8月31日に開催された「不活化ポリオワクチンの円滑な導入に関する検討会」の傍聴記⑥、いよいよ最後のまとめに入っていきます。最後の最後のところで、一応は、かろうじて議論らしい議論が聞けたように思いました。

まず、総括として事務局から、資料にある「円滑な導入にあたって検討が必要な論点の例」が読み上げられました。


これについては岡部座長(感染研感染症情報センター長)が改めて、
「冒頭でも申し上げましたが、今日この場で結論を出そうとか、論点をまとめようとかいうのではありませんので」と断った上で、構成員らから自由意見を求めました。繰り返しになりますが、個人的には第1回検討会のなかでもこの最後の最後の部分、終了時刻を押して続いた30分弱の意見のやり取りがもっとも興味深く、本来あるべき「検討会」のあり方を見ることができたように思っています。資料の読み上げではなく、厚労省のHPにもアップされていない部分です。ということで、できるだけ忠実にやり取りを再現していってみたいと思います。


齋藤明彦氏(新潟藍学医学部小児科教授)
「私はポリオワクチンの接種回数が非常に重要だと考えております。通常海外でありますと、OPV(経口生ワクチン)で3回、IPV(不活化ワクチン)ですと4回となっていますが、国内では現在OPV2回となっております。新しいワクチン導入に際して、そうしたグローバルスタンダードをふまえて、どこに合わせていくのか、考えることが大切と考えます」
清水博之氏(感染研ウイルス第2室長)
「世界を見るとほとんどの先進国はそうではないんですが、IPVとOPVの併用というスケジュールも一応、採用している国があると。日本もOPVを採用している現状と、最終的にはIPVへの完全な切り替えへの移行を前提に、併用ということも頭に置いて議論していってよいのではと思います」


特に面白くなってきたのは次のあたりからです。


保科清氏(日本小児科医会会長)
「これは日本小児科医としてでなく、あくまで私個人の考えとして述べさせていただきますけれども、生ワクチンが現在どれくらい受けられているのか、というと、私の勤めている先では受けている人が今、半分以下です。23区の1つの区ですけれども。これが今度9月になって、どれくらいの人が受けるのか、と。受けた人、受けない人、受けた人から受けない人への感染をどうするのか、考えておかねばならないと思います。それから、おそらく厚生省としては認識していないでしょうけれども、2年前の秋、インフルエンザが流行したために、ポリオの集団接種が取りやめになった地域(後のやり取りで「港区」と説明。インフルの集団感染を避ける目的だった)があります。そのまま春の接種まで待ったけれども、ポリオの感染者は出なかった。そういうことも考えて、今このOPVをどうするのか、ということを考えなければいけないと。それから、今、齋藤先生も言っておられましたが、この秋の接種を踏まえて回数をどうするのか。来年の春、本当に不活化にもっていけるのか。それだけの供給量が達成できるのか。そのへんを、実際に患者さんに接してきて、みんなに聞かれるわけですよ。『今度の生ワクチン受けていいでしょうか?』と。だめとも言えないし、いいとも言えないし。そのへんはもう、早急に結論を出さなければいけない点だろうと思います。現場で、私たちが肺炎球菌なんかの予防注射をしながら、次に聞かれるのはポリオのことなんです。今現在、無料券が配布されて、日程も決まって、『予約はしたけれど、受けていいですか?』って。私もなんとも答えようがなくて、困っています」


岡部座長
「私が意見を言っていいですか?私は孫がいるんですが、孫にはOPVを受けろと言っておきました。現状において使えるワクチンであるということと、多くの人が受ける以上きちんとライセンス化されているものが必要だろうというのが私の意見だからです。私自身も10数年以上前から早くIPVをとは言ってきましたが、現状ではOPVを、ということです。また、理屈的な話になってしまいますが、腸管免疫をつけるという意味ではOPVを受けておいてもいいんじゃないか、というふうにも考えます。あくまでプライベートな話ですが。あるいは、IPVとOPVの併用を考えてもいいかと思いますが、その場合にも結局はOPVで腸管から出てきたウイルスをどうするのかについては、考えねばなりません」

坂元昇氏(川崎市健康福祉局医務監)
「今OPVの接種率が、どこの自治体でも集計が終わって、だいたい1~2割、通年に比べて落ちているという事実がひとつあります。これは、なぜ落ちているかということについてはまだ調査をしてないんで分かりません。ただ、実際に開業されている先生方からも接種控えがあるという声が聞かれる中で、接種率が例えば仮に20%以下となったような時、単抗原のワクチンがどれくらい需要があってどれくらい供給できるのかをしっかり把握しておかないと、接種制限が仮に数十ヶ月という場合に受けられない群の子供が大勢出てきてしまう危険性があるということです。ですから自治体としては実際の供給量を十分計算していただきたい、というお願いでございます」


岡部座長
「ありがとうございます。ひとつの課題だろうと思います」


蒲生真実氏(たまひよコミュニケーションディレクター)
「私どもは『たまごクラブ』『ひよこクラブ』という、妊婦さんや赤ちゃんのお母さん向けで今日本で一番読まれている雑誌をつくっていますので、実際のお母さん方の声にいつも触れています。この1年ほど、ポリオのワクチンに関して、個人輸入で不活化ワクチンをやっていらっしゃるお医者様にかかろうという方が、肌で感じる限り、確実に増えています。私どもにも、『生ワクでよいのか、不活化にしたほうがよいのか』という質問が多く寄せられていますが、それに対して私どもはお答えすることができないでいます。ただいずれにしても、現場では個人輸入の不活化ワクチンの接種が、正しい理解が足りないままに進んできてしまっている現状があります。齋藤先生もお話されていたように、OPVも取り入れるですとか、回数ですとか、いろいろなスケジュールが考えられるはずですが、今、お母さんたちの間では『とにかく生ワクは怖い。不活化がいい』という、そこだけが一人歩きしているような部分があります。不活化ワクチン(4混)の導入も、『早ければ平成24年度中』ということですが、実際の導入までにまだ最低でも2~3回、接種シーズンを迎えます。その間に、不活化を打つ人、打たない人、いろいろ出てきてしまいます。国としてぜひ正しい情報を提供していただきたい。もちろん、その情報をお伝えするのは私たちの役割ですが、どの情報をどう伝えたらよいか、困っている状況です。ぜひ実際のお母さんたちの動向を厚労省として把握していただいて、混在している状況をどう整理して不活化の導入に持っていくのか、国としての方針を示していただきたいと思います」


清水氏
「今お話があったように、OPVの接種率が下がり、個人輸入によるIPV接種が増えているという中で、なかなか予約が取れずに打てなかったり打てる医療機関が少なかったり、あるいは打ち控えしたりと、さまざまな状況でOPVもIPVもどちらも接種していない人に関しては、リスクが非常に大きいと言えます。ただ、そういう人の数がきちんと把握した上で、とるべき措置を考えたいのですが」


事務局
「資料2の8頁http://www.mhlw.go.jp/stf/shingi/2r9852000001nkzz-att/2r9852000001nl5a.pdfにありますように調査を進めてまいりますので、それをもとに対象人口からOPVを受けた人とIPVを受けた人を引き算すれば、どちらも接種していない人の人数を把握できると考えております」


このあたりで検討会の予定終了時刻を迎えたのですが、ようやく構成員の皆さんにエンジンがかかりはじめたのか、かろうじて検討会が動き始めた、というところ。というわけで、検討会は延長戦に突入したのでした。


つづく

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