第1回不活化ポリオワクチン検討会 傍聴記 その3

投稿者: | 投稿日時: 2011年09月05日 12:41

引き続き、8月31日に開催された「不活化ポリオワクチンの円滑な導入に関する検討会」の傍聴記③です。


 参考人の宮村氏の話に続いて、構成員の清水博之氏(国立感染症研究部ウイルス二部)による「ポリオ根絶に向けた世界の動き」の説明となりました。やっぱりまだまだ「基礎的な流れ」の話は続くようですが・・・。

 
清水氏の話も、世界のポリオ流行状況の現状把握としてはとても興味深いものでした。ただやはり、改めて目の前のメモと資料に目を通していると、これから日本国内で起こりうる問題、早急に対処すべき問題を考えるのに、「今日この場で、このタイミングで、こんなに細かい話が必要だったのかしら?」と思うほど、大変丁寧な話でした。正直、ところどころ集中力が切れてしまい・・・。ひとまず、頭に入れておいていいだろうと思われた事柄についてメモを取ったので、配布資料と合わせながらいくつか抜粋・要約してみると、


● WHOが調査を開始した1988年以降、2000年までに世界の患者数は年間35万人から2千人以下にまで、順調に減少してきた。WHO西太平洋地域ではポリオフリー宣言も出されたが、その後、世界全体では増減を繰り返しているのが現状。

● 野生株ポリオ常在国は、ナイジェリア、パキスタン、アフガニスタン、インドの4カ国のみ。インドでは今年1月の1例を最後に報告がない。ただし、アフリカや旧ソ連地域ではポリオがいったん根絶された後に、流行国から輸入されて再流行している国もある(いったんポリオフリーになってから予防接種が徹底されていなかったために、非感受性人口が増加していたのが原因)。また、アジアやオセアニアでも野生株が上記4カ国から入ってきて発症したケースもあるが、流行には至っていない。

● ワクチンポリオについては、経口生ワクチン(OPV)の不完全な予防接種によって流行につながっている。ポリオウイルスは変異しやすく、ワクチン由来ウイルスが強毒性を再獲得し、広まっている。アジアでも数年に1回発生。ただし、迅速な対応によりいずれも小規模な流行にとどまっている。

● 以上から、世界レベルではポリオは根絶に至っておらず国内流行の危険性は残されている。それを前提にWHOの考え方に則れば、日本はポリオウイルス輸入の可能性とポリオウイルス伝播の可能性のいずれも低いため、OPV数回または不活化ワクチン(IPV)との併用、あるいはIPVのみでもよいということになる。

● とにもかくにも、接種率の低下によるハイリスクグループが出現しないように、適切なOPVかIPV、必ずどちらかは接種するようなワクチン政策が求められている。日本で再びポリオが流行するようなことは絶対に避けなければならないという共通認識の下、速やかなIPVへの移行を図っていかねばならない。


と、ここまでで約20分程度の話でした。その後、質疑応答がありました。そのなかで私のアンテナにまずひっかかったのが以下のやりとりです。


廣田氏(大阪市立大学大学院医学研究科教授)
「OPVを接種した人から排出されるウイルスから感染した場合についても、不顕性感染者というのは考慮されているのか、教えてください」

宮村氏(国立感染症研究所所長)
「いまのところそれについてのエビデンスはない、というのが実際です」

清水氏
「OPVに関してはワクチンの性質上、接種者の近しい接触者に伝播するというのはありえると。ただ、それでもほとんどの場合は何も起こらずに、発症せずに推移するというのがほとんどです。しかし、ワクチンの性質上、接触者の発症もありえる、ということです」


 傍聴記のその1でも書きましたが、当初の事務局の説明を聞いた段階でも懸念していたとおり、このやり取りを聞くと、国内での年2回のOPV定期接種による不顕性感染は把握しきれていないとのこと。となるとやはり、実際には毎回、不顕性の感染も多いだろうと考えてしまいます。不顕性だったからいいようなものの・・・。また同様に、OPV接種者からの2次感染も、不顕の状態で実はかなり広がっているのではと想像してしまいます。となると再び思い出されるのが先日のニュース。OPVの接種率が低下している、という話です。


 まさに今、秋のポリオ接種シーズン目前ですが、こうした報道にも引きずられて、ますますOPV接種を避ける人が出てくるかもしれません。OPVの代わりにIPVを自費で接種したというならよいのですが、希望者が殺到して順番待ちという話も聞きます。そもそも気をつけなくてはいけないのは、IPVは1カ月おきに3回打ち、さらに1年ほどしてもう一度打つ必要がある点です。最低でも、OPV接種シーズン前に3回の接種を終えておかないと、OPV接種者の排泄物等からの2次感染を防げません(これは今1歳半の次男に去年、OPVのお知らせがきて初めて長男の件を思い出し、あわててIPVを接種しに行った、のんきな私の実体験からです。お知らせが着てからIPV接種に行ったのでは実際には間に合わないんですよね)。


 あるいは、IPVを「受けられない」のでなく「受けない」というお母さんも実は多いのではと思います。つまり、厚労省が今年5月の予防接種部会で「(IPV)を早ければ来年より導入」と発表したことで、「来年打てば無料なんだから、なにも急いで今高いお金を払って打たなくても大丈夫でしょう」といった具合に、打ち控えが起きているような気がします。結果として、「OPVは万が一の感染が怖いからやめて、来年IPVを打ちましょう」なんていうお母さんが多いのでは?もし私が0歳児のお母さんで、ワクチンに関してきちんとした知識を持とうと考える個人的なきっかけがなければ、私もそんな誤った選択をしようとしていたかもしれません。特に、ポリオは国内では野生種は根絶したとされていますが、この事実が油断を生み、誤った判断を後押ししてしまうように思います。


 しかし忘れてはならないのが、毎年春と秋、OPVの接種はこれからもIPV(実際にはポリオと、ジフテリア、百日せき、破傷風の4種混合ワクチン)が導入されるまで続けられる、ということです。最低でもまだあと1回もしくは2回、接種者=保菌者と、数知れない不顕性感染者に接触する可能性のある時期が、各1ヶ月続きます(1ヶ月間、便にウイルス排出)。そこへ、OPVもIPVも接種しない無防備な状態でわが子を飛び込ませようということになるのです。しかも、厚労省はIPV(4混)導入は「早ければ来年度」としているだけですから、実際にはもっと先になるかもしれません。その間、最悪の事態が生じてこなければよいのですが・・・。


つづく

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コメント

普通目線でのお役所の検討会報告は、珍しいですね。(笑)
これでいいのだと思います。「ムラ」住民以外が監視の目を向けねば。

で、
腸管免疫、ってのは、要は、入ってきた野生種ポリオ・ウィルスを体の中で繁殖させない免疫、ってことですよね。
生ワクチンの根本は、発症力の弱いウイルスに「感染させる」から効果があるんであって、感染させることが前提のワクチンじゃありません?
だから、生ワク投与された子のオムツ管理が重要になる。
なぜなら、おなかの中でポリオウィルスが「生きている」から。

ポリオに対する自然免疫を考えれば、当然の帰結だと思うんですが。

となると(私の理解が正しいなら)
「不顕性感染」という用語自身が間違っている。
「不顕性感染」ではなく、「不顕性発症」が正しいのでは無いでしょうか。

ままさんさま、コメントありがとうございます。

たしかに「不顕性感染」なんて言葉、分かりにくいですよね。要するに経口生ワクチンでは、「みんな症状は出ていないけれど、要は“感染”しちゃうんですよ!」ということをきちんと接種前に、はっきりした言葉で伝えねばいけないと思います。麻痺が出る率は低いけれども、「感染=麻痺が出ることもある」っていう説明とセットで。麻痺になる率は低いこと、麻痺の可能性、どちらも事実ですから・・・。ただ、闇雲に怖がって接種を避け、ほかの子供たちが経口生ワクチンを一斉にに接種しているときに、無防備でいることのがもっと怖い。現時点では受けるリスク、受けないリスク、どちらも伝えていかないといけないと認識しています。

ママサン様のお気持ちは分かりますが、医学用語としては
不顕性感染(inapparent infection):微生物に感染しても定形的な臨床症状を示さず、健康に見える場合
が一般的ですので「不顕性発症」という表現は違和感を覚えます。

ただ、最近は「不顕性感染」の代わりに「無症状感染」という表現を使う場合もあり、こちらの方がシックリ来るかも知れません。

一医師さま

専門的見地からの解説をありがとうございます。たしかに「無症状感染」のほうが直接的に理解できますね。そうした分かりやすい言葉を使って、生ワクチンの仕組みとリスクを、予防接種の問診票などに、目立つように記載すべきだと思います。

そしてリスク回避のための不活化ワクチンの存在もこの際、同時に言及して(←現時点ではIPVを定期接種として推奨しているお役所的にはまずありえないことかもしれませんが、すでに自ら不活化切り替えに向けて動いているわけですから)、現在は自費で未承認のものを受けるしかないこと、ただ、「不活化も生も受けない」のが現状では一番まずいことも、きっちり説明すべきだと思います。

そもそもそこに補助をつけてくれれば、それが一番のはずですが。

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