なぜこの3ワクチンだけ助成があるの?

投稿者: | 投稿日時: 2011年10月14日 00:32

さて、少しずつ振り返ってきたワクチンフォーラムですが、今回で最後にしたいと思います。まずは、任意接種ワクチンの公的助成について。どうやら裏事情でもあるのか・・・かなり気になります。

現在、任意ワクチンのなかで国による公的助成が行われているのが、ヒブ、肺炎球菌、ヒトパピローマウイルス(子宮頸がん)ワクチンの3つです。「子宮頸がん等ワクチン接種緊急促進事業として、1058億円の公費負担が2010年11月に決定しました。


しかし、齋藤氏によればなにやら問題がありそうです。


最初のギモンは、なぜこの3ワクチンなのか、ということ。


これまで見てきたように他の任意接種ワクチンも、どれも重篤な合併症の危険がある感染症を予防するものばかりで、優劣はつけ難いはずです。それなのに、

●予防接種部会での各ワクチンの小委員会の発表前に助成が決定
●B型肝炎、水疱瘡、おたふくかぜワクチンに対する助成は実施されなかった

とのこと。齋藤氏いわく「決定プロセスに透明性が確保されていない」のです。


しかも、この助成事業は、あくまで「2011-2012年度の限定措置」で、今日現在、来年度以降の公費助成に関しては、いまだに見通しが立っていないといいます。要は宙に浮いた状態、ということです。


専門家を中心に構成された予防接種部会を飛び越えて、一部のワクチンだけ、他のワクチンとの差別待遇について合理的理由が説明されることもないままに、とりあえず目先だけ予算がついてしまった。そして先のことは白紙状態。とてもお粗末で、クリアでなく、さまざまな邪推をしたくもなります。いずれにしても、予防接種政策・行政の全体像について、将来的なビジョンがないままに、目先のことだけとりあえず切り抜けようとする姿勢の表れですよね。


さて、こうして問題が山積している予防接種政策・行政ですが、現在、予防接種に関連する専門家18名で構成された「厚生科学審議会感染症分科会予防接種部会」(ああ、長い)で、予防接種制度の見直しのための協議が続いています。きっかけは、新型インフルエンザ。そのワクチン騒動で、次々にボロが出たというわけです(2009年からの問題が今兄片付いていないことも驚きですが)。さらに13の学会の代表で構成される「予防接種推進専門協議会」も昨年4月に発足し、政策提言を続けていく方針といいます。

今回の予防接種制度の見直しの目玉は、次の2つ。

●予防接種法の改正
●日本版ACIPの設立


予防接種法の改正では任意接種をすべて定期接種化することが大きなテーマです。またACIPとは米国のAdvisory Committee on Immunization Practiceの略、連邦政府からも製薬会社からも独立した専門家を中心とした諮問委員会で、予防接種政策を実質的な決定組織です。


ただ、聞いた話では、当初予定していた予算が立ち消えになったり、日本版ACIPの独立性が怪しくなってきているとのこと。果たしてどれだけの「抜本的」な改革が実現するのか、疑わしいらしいのです。


そもそも、こんな話もあります。

●横浜市立大学大学院医学研究科教授・日本小児科学会学会長 横田俊平氏
インタビュー (2010年8月9日 21世紀医療フォーラム)
 より引用

「厚労省には、“日本のワクチン政策をどうするか”を考える担当部署がない。ワクチン関係の部署は8カ所くらいあって、「今年のインフルエンザワクチンは何本作れ」と指令したり、『副反応が出た時に、こう対処しろ』といった仕事をしているのですが、例えば、“『ヒブワクチン』を定期接種にしましょう”という要望書を厚労省に持って行こうとした場合、各部署から『うちじゃない』と言われて、どこの部署にもたどりつかない。結局、厚労大臣宛に、出すしかないのです。

日本のワクチン政策には、きちんとした基本原則が見当たりません。行政がこうした組織になっていては、いつまでたっても政策の方向性が見えてこないのも当たり前です」


予防接種法の改正や独立性ある専門組織の創設は、もちろん必要です。ただ、それらを活かせるかどうか。そこまで考えたうえで、場合によっては手をつける対象を広げて制度改革を断行しなければ、結局はポーズで終わってしまいますよね。今後は少しずつ、予防接種部会での議論とその行く末にも注目していきたいと思います。

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