同時接種 世界では問題にもならない問題。 |
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投稿者: | 投稿日時: 2012年02月25日 17:52 |
先日このブログでご報告したインターナショナルワクチンワークショップでは、不活化ポリオワクチン(DPT-IPV、現在のところ国内2社が申請中)への切り替えに関連して、少しだけではありますが同時接種の問題も言及されました。ただ、会場から同時接種についての議論は特に出ず・・・。その後、ペンシルバニア大プロトキン名誉教授らとのインタビューでも、話は膨らみませんでした。しかし、そのことでかえって、「世界には同時接種問題は存在しない。日本だけが、同時接種の導入にどういうわけかつまづいている」と知ったことが私の収穫でした。
さて、本題に入る前に、一つ書き留めておきたいことが。ポリオワクチンの新しい動きです。
●サノフィパスツール株式会社
ポリオ(急性灰白髄炎)の単独不活化ワクチンを承認申請 2012年2月23日
(以下、プレスリリースから一部抜粋)
サノフィパスツール株式会社(本社:東京都新宿区)は、本日、ポリオ(急性灰白髄炎)の単独不活化ワクチン(以下IPV: Inactivated Polio Vaccine)の国内の製造販売承認申請を行いました。
IPV は、米国や欧州を含む世界60 カ国以上のポリオフリー宣言を受けた国々において、国のポリオ予防接種プログラムに採用され、ポリオ予防に用いる標準的なワクチンとしての実績を確立しています。サノフィパスツール社(本社:フランス)は、単独IPV(製品名IMOVAX® Polio)を1982 年に発売以降、86 ヵ国で承認を受け、これまで全世界に2 億7000 万回接種分を供給しています。日本での供給が開始されれば、国内初の単独IPV となります。
サノフィパスツールはサノフィ・グループのワクチン事業部門で、毎年10 億回接種分以上のワクチンを提供し、世界中で5 億人以上の人々に対してワクチンの接種を可能にしています。ワクチン業界における世界的リーダーとして、サノフィパスツールは、20 種類もの感染症から人々を守る、世界で最も幅広いワクチンの製品ラインアップを提供しています。「命を守るワクチンを創る」という会社の伝統は、一世紀以上の歴史を有しています。サノフィパスツールはワクチンに特化したメーカーとして世界最大級の企業であり、日々、研究開発に100 万ユーロ以上を投資しています
(抜粋おわり)
関係者も「昨年の5月に開発を厚生労働省から正式に依頼され、翌2月に承認申請を行うというのは、“異例”のスピード」とのこと。世界最大のワクチンメーカーが本気で日本の新たな市場に乗り出してきた、ということがはっきりわかりますね。インターナショナルワクチンワークショップでの活動紹介はその布石でもあるのでしょう。前回このブログでも書かせていただいたように、このサノフィ・パスツールの単独IPVは、ソーク株から作ったもの。一方、国内でも開発中とも言われる単独IPVは、いずれにしてもDPT-IPVと同じくセービン株から作られることになるでしょう。しかし、この圧倒的な体力・知力・経験地を持つ世界的リーダーの前に、どのように戦いを挑む(?)ことになるのか、興味津々といったところです。
なお、この申請に先立つ2月21日には、「およそ100人の国会議員らによる超党派議員連盟が、厚労省担当者らとの打ち合わせに基づき、小宮山洋子厚生労働大臣あてに不活化ポリオワクチン導入のさらなる前倒しを求める申し入れ」(あなたの健康百科by Medical Tribune)を行っており、来年度秋とも言われるIPV導入が早まる可能性も出てきました。
と、いうわけで、思ったより長いこと脇道にそれてしまいましたが、このインターナショナルワクチンワークショップで話を聞いてきたばかりのサノフィ・パスツール社のIPVのニュースでしたので、「それにしてもすごいタイミングのよさ!」と思わずにいられなかったのでした。
話を同時接種に戻します。同時接種については、ロハス・メディカル本誌の新聞社版(実はこちらは医療機関では手に入りません。あしからず!!)でも2012年1月号で特集を組み、以来、同時接種に関するインタビューを連載しています。その他、このブログでも、ワクチンフォーラムで得た知識などをまとめてきました(例えば「なぜ日本では同時接種が進まないのか?」など)。一口に言ってしまえば、同時接種は有効性・安全性についても問題はなく、むしろ、VPD(ワクチンで防げる病気)の予防のために必要なワクチンを必要なタイミングで全て打とうとするならば、スケジュール上の要請でもあります。ですから小児科学会の推奨するワクチン接種スケジュールは、同時接種を前提としているのです。
にもかかわらず、同時接種がまだまだ進んでいない日本。以前書いたことの繰り返しになりますが、安全性に関する誤ったあるいは偏った情報がメディアを通じて広まり、十分に払拭できないまま、お母さんたちだけでなく、医療機関によってはいまだに同時接種に尻込みしているところが多いということです。そして、その払拭の足を引っ張るどころか、偏見を助長しているとも思える厚労省とPMDAの責任回避の態度。そもそも単独接種にこだわったり接種間隔を必要以上に空けているのも、ワクチンの有効性や安全性に関わる理由からでなく、単に紛れ込みの有害事象を発見しやすくするため、つまり、行政上の届出にともなう便宜のためであって、子供の健康や接種に連れて行く母親の苦労は全く意に介していません。
と、こうした背景を見れば一目瞭然なのですが、同時接種を敬遠して単独接種にこだわる理由がそもそも行政上の便宜云々でしかない、医学上の問題ではないということは、日本で今起きているいわゆる同時接種問題というのは、非常に特殊な事例ということになります。
実は、ワークショップ(ポリオセッション)後、ペン大のプロトキン名誉教授に、「海外ではいつから同時接種がおこなわれているのか、導入時に問題はなかったのか」という点について少したずねてみたのですが、「問題は同時接種をするかどうかではない、安全なワクチンが使えるかどうかだ」という一言で終わり。正直、「なぜそんなことを聞くのだろう」という表情でした。プロトキン氏はこれまでに数多くのワクチン開発・導入に携ってきたワクチンの権威ですから、なにかしら過去に、どこかの地域で、接種するワクチンの種類が増えたことによる同時接種が問題になったことがあれば、知っているかもしれない、そう思って聞いてみたのですが、実のところ同時接種には全く興味がなかったのです。しかし同氏のこうした反応も、今になって、上記のような日本の同時接種問題の経緯を考えてみたら当然のこととわかります。あくまで日本でだけ起きている非常に特殊な問題で、世界では、同時接種など問題ですらないからです。
これについては、壇上に立たれた中野貴司教授(川崎医科大小児科)も、ワークショップ後に話を聞くと「アフリカでは予防接種を打つことさえままならない。だから打てるときにたくさん打とうと、同時接種は当然」とのこと。なんだか面白そうな話なので、後日改めて詳細を伺うことにしました(同時接種連載インタビューでご報告します)。
日本はワクチン後進国という汚名を返上すべく、この数年、矢継ぎ早に新しいワクチンを承認してきました。しかしそれは、生まれて2ヶ月から数ヶ月のうちに打たねばならないワクチンが何種類も増えたことを意味します。やれ風邪だなんだで法定の間隔を保ちながら順調に予防接種を受け続けるのはもともと困難ですが、任意接種のワクチンまできちんと全て(任意接種・定期接種の区別は、ワクチンの重要性を反映してはいません)、しかるべき時期までに打ち終わろうとするなら(そうしないと効果が得られず意味がありません)、もはや同時接種無しには達成し得ない状況です。それなのに、「同時接種をするか、しないか」なんていう、欧米はもちろんアフリカを始めとする途上国諸国でも議論にすらならない部分に足を取られているうちに適切な接種機会を逃してしまったら、そしてVPDに感染してしまったら、それこそ本末転倒です。
そんなところで議論している国。予防接種を打つ機会が1回1回とてもラッキーで貴重なアフリカ諸国にしてみれば、「予防接種は1種類ずつバラバラに何回にも分けて、何度も足を運んだほうがいい」なんていう考え方は、のんきで贅沢な議論に映ってしまうかもしれません。
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コメント
(疲れ切った表情)
日本でなぜ予防接種の間隔にうるさいのか、同時接種に過敏なのか?
日本小児科学会の専門家集団としての毅然たる態度の欠如も原因のひとつです。いわゆる「専門医」は社会への啓発にほとんど無関心、「俺様は専門医なのだ、風邪なんぞは診ないのだ」みたいに勘違いしている医師がほとんど。日本の学会は、①研究のなれあい交流や医師同士の懇親が設置目的②世界水準は嫌いで何かというと一周遅れで「日本独自」をうたう、というところが多く、その逆方向である①患者や社会への貢献、②日本の医学水準をグローバル水準に引き上げる使命感、が設立趣意に含まれているものは少ないのです。
もちろん、マスコミの責任も重大です。「珍しいもの、稀なものを報道する」という、質の低いセンセーショナリズム、ピンク・ジャーナリズムしか存在しない日本では、「ワクチンによってどれだけの命が救われているか」という「当たり前で、ニュースにならない有り難さ」が無視され、非常に稀に起こる有害事象ばかりをニュースにするため、ワクチンに対する認識そのものが社会全体で異常に歪められてしまいました。
しかも、患者団体そのものが、自分たちの真の利益を理解せず、有害事象>>>>医学的効果、というおかしな感情論をふりかざしているのです。
良心的な公衆衛生医はまさに四面楚歌。学会でも声がまとまらず、マスコミにも故なき攻撃を受け、患者さえ誰が味方かわかっていないで本当の味方の言うことを聞きいれようとしない、という現状では、がんばる気力もうせてしまいますよ。
がんばりつづけ、声を上げ続けてはいきますけど。
>しかも、患者団体そのものが、自分たちの真の利益を理解せず、有害事象>>>>医学的効果、というおかしな感情論をふりかざしているのです。
オルテガの「大衆の反逆」ですよ。 専門家集団の萎縮の原因は、医療はサービス=患者様は神様 という、医業を商業におとしめた政府の方針とその暴力装置として機能した法曹(JBM)でした。われわれは身を守ったに過ぎません。そろそろすべてに最善を尽くすことは叶わず、賢い患者さんに寄り添おうとする医療者が増えるのはいたし方ありますまい。パターナリズムを知らぬ医者が次世代を育てる時代です。
まとめ打ちについてもYosyan先生のとこですでに議論されてました。相手の賢さを見て対応です。
堀米香奈子さんのいつも変わらない冷静なエッセイは必ず読んでおります。ありがとうございます。
>>しかも、患者団体そのものが、自分たちの真の利益を理解せず、有害事象>>>>医学的効果、というおかしな感情論をふりかざしているのです。
>オルテガの「大衆の反逆」ですよ。
私は原発機器の設計製造技術屋(国内電力への納入実績は無く北米と西独だけですが今微妙な立場です)にすぎず医療、予防医学には全くの素人に過ぎません。しかし、「大衆の反逆」とは違うのではないでしょうか。1973年の第一次石油ショックの頃から、日本の製造メーカーの社員が家族を連れてたくさん北米、欧州の都市に駐在しました(商社は戦後直ぐから)。1980年代になると駐在員の数は膨大になり、1985年以降は(円高が原因)北米、欧州他に工場を設立して進出を始めました。駐在員の子供達は現地の学校、大学に進学しました。当初は3年程度の駐在でしたが、(商社は別でしたが)、メーカーも5-10年の駐在が普通になりました。北米、欧州で実際にワクチンの接種を経験したお母さん方・幼児もたくさんおります。今現在では、トヨタ、ホンダなど北米・欧州などでの生産量が国内を凌駕します。結論をいいますと、ワクチン接種などは、北米・欧州で経験した人が医療関係者の想像するよりもずっとたくさんいるのです(途上国でも都市部のワクチン接種は、北米・欧州と同じなのです)。ごく単純なグローバル化に過ぎません。帰国した人が国内で普通に医師に要望することも多いはずです。また、国内と違い、米国CDCなどは実に事細かに(知りたければどこまでも、”もういいよ”と辟易するぐらい)予防医学の資料、論文を公開しています。アーカイブで論文を探せば1945年以前のものまで無償ですから(一部は小額の費用が必要)いくらでも勉強は可能です(でも、文字からの知識だけですから医師にとっては厄介な人たちでしょう)。こういう日本人が国外、国内にもたくさん住んでいて、e-mailで毎日情報交換している時代です。国内の厚労省、感染研その関連施設と異なり、CDC、NVIなどはe-mailでの質問に直ぐ返事をくれます、しかも paper 添付です。こういう団塊の世代とその子供達は英語が強いものですから、2000年以降はネットを巧く利用し北米・欧州の学会などから直接情報を取ります。また、独語、仏語、スウェーデン語などの論文もPCで英文に翻訳すると問題なく正確に読めるのです。「大衆の反逆」などは旧過ぎるのではないでしょうか。知識だけは医師の方よりも詳しい知識人?がごく普通に静かに語り、質問を発しているだけです。反逆などはしないでしょう、もっと洗練されており、ごく普通の常識として話しているだけです。
福島原発事故への反応も同じです。原子核工学、原発機器設計・製造に携った人達が世界には既にたくさんいますし(原発事故の経験者は少数ですが)、初級の物理・化学が分れば自ら原発とその機器の詳細までをネットで学ぶことができます。その上、世界の本当の専門家から直接意見を聞くことも十分可能です。ですから、東電、保安院、政府、原子力安全委員会がいくら隠蔽しようとしても、NYTimes、Washington M.、Washington Postその他の海外メデアと国内・国外のマイクロメデアが12日午前には1・3号炉の炉心溶融(部分溶融?)を報じ、11日夜更かししていた人たちはそれを知りました。信頼するかどうかは個人の理解力ですが、米国メデアは専門家に語らせました。全電源喪失時のRCIC,IC とそのメンテを知る人は国内にもたくさんおります、そういう状況下でも事故が..多忙で第一線の人が学ぶ時間がないのが現実なのでしょう。
こういう人たちに「同時接種」を聞いて下さい。皆、5種・6種混合ワクチンをするだけの話というでしょう。ビジネスマンの私も同じ意見で(それ以外を知りません)、得意の計算?をしますと問診料等3,930 円が1回で済みますから、世界中でごく普通に使われる5種・6種混合ワクチンを輸入した方が全体の接種費用は安くなります。財政難の折、朗報ですし、20年の遅れを取り戻す唯一の方策ではと、勉強している医師の方はおしえてくれます。