生後2ヶ月からの予防接種デビューを! |
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投稿者: | 投稿日時: 2012年03月01日 12:15 |
去る2月10日、第6回ワクチン予防医療フォーラム「ワクチンのもたらす恩恵を受けるために ~生後2ヶ月からのワクチンデビューの必要性~」が開催されました。かなり遅くなってしまいましたが、ワクチンの早期・同時接種がいかに大事か、また、任意接種の問題について改めて考えさせられましたので、そのあたりをいくつかまとめておきたいと思います。
演者は、(独)国立病院機構福岡病院統括診療部長の岡田賢司氏。小児科医として臨床現場で診察を続けてきた傍ら、国の予防接種ガイドライン等の検討委員会の副委員長も務めている方です。1時間半のプレゼンのなかでも特に、
①ワクチン本来の恩恵を全て受けるためには、まず生後2ヶ月でワクチンデビューし、同時接種が必要。
②ワクチンを国内導入しても、それだけでは接種率は向上しない。公的助成など、費用負担が軽減されて始めて接種率は上がる。
③病気について正しく知ること、ワクチンについて正しく知ることが、接種率の向上につながる。(紛れ込みと副作用の区別、ワクチンの恩恵と副作用の両天秤についても)
という3つの話題は聞き流せないものでした。
まず、①生後2ヶ月でのワクチンデビューの話。現在、日本では多くの赤ちゃんが生後3ヶ月頃に初めて予防接種、具体的には三種混合(DPT)を単独で受けることが多いのですが、これでは遅いし足りない!というのです。今のところまだ任意接種となっているヒブと小児肺炎球菌ワクチン、そして昨年も終わりごろに滑り込みで承認されたロタウイルスワクチンも、DPTとあわせて生後2ヶ月から受ける必要があるそうです。というのも、ヒブや肺炎球菌による全身感染症は生後6-7ヶ月(~12ヶ月)が発症のピーク。発症してから予防接種しても意味はありませんから、それまでに3回きちんと終わらせておかねばならないからです(1回では効果が十分得られません)。しかし実際には、ようやく生後7~1歳になってから打ち始める赤ちゃんが最も多く、一方2~6ヶ月に接種し始めるのはたった25%といいます。ロタについては、生後半年以降は副反応(腸重積)の紛れ込みが多くなる事もあって、こちらも生後半年までに接種するのがよいようですから、そうなると同時接種しなければ到底無理です。
生後2ヶ月からの予防接種を広めるためには、1ヶ月検診、もしくは新生児訪問で保健師らからも、早期・同時接種について説明をするべき、と岡田氏は提言します。今はまだ小児科医が赤ちゃんたちにはじめて会うのは3~4ヶ月検診となっている自治体が多く、それからでは遅いためです。それでも、沖縄県の保健所親子手帳には1ヶ月検診のページに「予防接種スケジュールの説明」チェック欄が設けられるなどしていて、自治体によっては取り組みを始めているところもあります。実際、山口県では1ヶ月検診を公費で小児科医が行っていることで働きかけが進み、ヒブや小児肺炎球菌ワクチンの普及率(=出荷本数÷5歳未満人口)が90%以上。全国的に見てもかなり上位につけています。
このワクチン普及率に大きく影響しているのが、②の公的助成と、③の正しい認知の問題です。
公的助成と普及率には相関があることは、いくつかの研究報告があります。2011年1月~10月の小児製肺炎球菌のワクチンの普及率を都道府県別に見てみると、大まかに言っても公的助成が進んでいるほどワクチン普及率が高い傾向が見られます(東京など公的助成は十分でなくても平均所得の高い都市では、それなりに普及率も上がっているようですが・・・)。また、顕著なのは、福岡県の報告です。2008年12月にヒブワクチン導入されましたが、その後もヒブ感染症はとくに減少しませんでした。ところが2011年に公的助成が始まると、患者数は半分以下に。小児性肺炎球菌も、2010年2月にワクチンが導入された後も患者数に変化がなかったのが、2011年の公的助成開始後には髄膜炎患者数が実質半減しました。「実質」というのは、小児性肺炎球菌には多くのタイプがあってワクチンではカバーしきれないものもあったり、タイプは合致していても感染までにきちんとワクチンを3回打ち終わっていなかったケースがあったことを加味しているためです。
いずれにしても、世のお母さんたちの行動ははっきりしていますよね。費用が自己負担だと「まあいいや」と放置してしまっていたものが、助成が出るとなると「だったら」となる。自分の子供の健康や命に関わることなのに、そんな判断でいいの?という非難も出てきそうではありますが、それはあたらないはずです。予防接種は個人の健康を守るだけでなく、公衆衛生上の目的であることは予防接種法でも謳っている以上、お母さんたちの懐事情によらずに赤ちゃんたちが等しく予防接種を受けられるようにもっていくのが行政や政治の責務ですよね。
さて、③のワクチンについての認知の問題。第一三共製薬がウェブで0~4歳児の母親4683名を対象にヒブワクチンについて調査を行っています(2011年11月24日~28日)。結果のうち特筆すべきは以下。
●全体の半数以上が、「細菌性髄膜炎という病名は知っているが、どんな病気かは知らない」と回答。ただし、接種者と非接種者に分けて見ると、前者は4割強が「病名を知っていて、どんな病気かも知っている」のに対し、非接種者は6割がやはり「病名を知っているがどんな病気か知らない」と答えている。
●同じように、ヒブワクチンも接種者は9割近くが「ワクチン名もどんな病気かも知っている」のに、非接種者は6割がワクチン名しか知らなかった。
●接種率について見ると、0歳児の母親の66%が「ヒブワクチンを接種した」と回答。ちなみに1歳児の親は8割、2歳児の親は7割が接種済みと回答。0歳児が最も接種しておく必要があるのに(しかも生後2~6ヶ月の間にですから、たいていは済んでいないとまずいはず)、他の年齢群より%が低いということ。
●非接種者に今後接種させるかどうか聞くと、0歳児の親でも3割近くが「どちらとも言えない」、1割近くが「今後も受けさせたくない」と回答。迷いや敬遠を生むネガティブな理由(複数回答)としては、45%が「安全性や副作用が心配」、39%が「任意接種だから」、37%が「詳しく知らないから」と答えている。
要するに、情報とお金が全然足りていない、ということですね。病気やワクチンのことをよく知らないお母さんがまだまだ多い上に、ちょっと知っていても、安全性への不安、費用負担のこと(確かにウン万円単位でどんどん出ていってしまいます)がかなりのネックになっているわけです。
安全性への不安については、紛れ込みの可能性の高さに触れずに「副作用」として報道されるケースが多いことには確かに問題があります。乳児は突然死症候群など原因が明確でない死亡例も年間150例に上りますから、それがたまたま予防接種後に起きてしまうことは大いにありえるからです。ちなみに、考えてみてください。予防接種の導入前は、年間500人の子供たちが化膿性髄膜炎を発症していたと推計されています。米国では、適切な予防接種でヒブ全身感染症の罹患率が100分の1に激減したそうです。小児性肺炎球菌ワクチンも同じく大きな効果をもたらしています。日本で当てはめれば、年間500例の患者が、5名から10名程度に減るかもしれません。副作用のない薬は存在しませんし、ワクチンもその一種ですが、その恩恵と、紛れ込みの可能性の高さ(=副作用といわれているものも実際には副作用でないケースが実は多いかも、ということ)を考えれば、どう天秤にかけてもワクチンを否定するのは理にかなわないですよね。
それにしても、はっき言って、やっぱり任意接種が諸悪の根源に見えてきます。
確かに情報はもっと提供されるべきだし、お母さんたちも積極的に収集してもいいところですが、もし定期接種だったら情報云々いわずに「当然受けさせるもの」と考えるお母さんたちも多いはずです。本当に安全なワクチンだったら、それはそれでいい状況といえるのではないでしょうか(今話題のポリオワクチンだって、ちょっと前までは生ワクチンについて何の疑いも持たずにみんな素直に接種させていましたよね。ポリオ生ワクチンの問題はちょっと特殊で、流行していれば受け入れざるを得ないごくわずかな副作用なのですが、流行もなく、またずっと安全な不活化ワクチンが世界で主流なのに、日本だけ乗り遅れてきたと。行政の不作為のためにいらぬ患者を生み出してきていることは、同考えても受け入れられない、ということです)。一方、必要なワクチンなのに任意接種というだけで、必要性が低く聞こえてしまうのか、費用負担がひっかかるのか、たぶんその両方の理由からだと思いますが、接種が思うように進まない。いまいち不透明な過程を経て定期接種化されたワクチンだけが大事なワクチンと間違って理解され、しかも費用負担無しに接種できるとなれば、むしろ任意接種ワクチンの普及の足を引っ張っているというふうにも取れてしまいそうです。
「任意接種」なんてカテゴリーを作るのは、結局は国の財政の問題ということのようですが、任意接種とされているワクチンはみなWHOが接種を「推奨」しているもの。国民の健康を守るためのお金をケチって、他に何を優先して使うべきというのでしょうか。予防医療の大切さは国民医療費の議論の中でもさんざん叫ばれてきたのに・・・。しかも、定期接種化されるかどうかのプロセスや議論が不透明。実際大きなお金が動く案件なのに、です。(その問題を解決するために日本版ACIPが作られようとしているものの、予防接種部会での議論を考えると、その実効性もちょっと怪しいものです)。日本は今やワクチン後進国と言われるようになってしまいましたが、そんな国のお金の使い方を見ると、ワクチンに限ってのことでなく「これはもうやっていることが後進国以下だなあ」とついつい思ってしまう。政治・行政・経済オンチの私ですが、そんなに間違った感想ではないんじゃないかと思うのですが・・・。