第3回不活化ポリオワクチン検討会 なぜ導入は9月なの?

投稿者: | 投稿日時: 2012年04月24日 13:28

昨日4月23日、不活化ポリオワクチン検討会第3回が開催されました。今回は会場が厚労省ではなく国立感染症研究所(新宿区戸山)となり、先週の木曜日には以下のような報道もあり、マスコミのカメラも多くかなりの傍聴者数でした。定員50名のはずでしたが、100人以上詰め掛けていたはずです。


●ポリオ不活化ワクチン承認へ…マヒの副作用回避
(読売新聞 2012年4月19日)

記事を一部抜粋すると、【厚生労働省の薬事・食品衛生審議会医薬品第二部会は19日、製薬会社サノフィパスツール(本社・東京)が今年2月に申請していたポリオ(急性灰白髄炎)の不活化ワクチン「イモバックスポリオ皮下注」の製造販売を承認しても差し支えないとする意見をまとめた。早ければ5月中にも正式に承認される。】とのことでした。


DPT-IPVの4種混合が先に承認となるとばかり考えられていたので、サノフィパスツール社の単独IPVが先に承認されたのは意外でした。先日のワークショップといい、外国勢はやはりかなりのツワモノ、侮れませんね。とはいっても、先にも書いたように、同社の製品はすでに世界中で流通し、その有効性も安全性も確かめられています。そうしたワクチンがありながら、国産にこだわってか、まったく見向きもしてこなかったことのほうがおかしかったわけです。その結果、生ワクチンを打ち続けて被害者を出してきたことは、説明のしようもないと思うのですが・・・。なのにこの突然の180°転換。改めるのなら早いほうがいいので揶揄するつもりもありませんが、とにかくびっくりしました。


さて、昨日の検討会ではさらに、外山健康局長の口からも

● 順調にいけば、今月中(あと1週間以内ですよね)にも承認される見通しである。

● 定期接種導入は9月1日から、全国一斉切り替えとなる。

● DPT-IPV(混合ワクチン)は11月中の承認をめざしている。


という3点が明言されました。事務局からも提案や報告として

● 接種回数は4回とする。生後3ヶ月から開始して、3週間以上ずつ空けて2・3回目を打つ(4回目は追加接種であり、臨床試験が終わっていないので保留)。集団接種でなく、医療機関での個別接種となる。

● それまでに生ワクチンを1回でも受けている人は、残り3回を不活化ワクチンとする。生ワクチンを2回受けている人は、もう受けなくてよい。

● 平成24年度末の時点で、ワクチン需要量は367.9万回分+αと考えられている。367.9万という数字は、平成23年度に接種対象だったが受けなかった人と、平成24年度の対象者(秋)の合計=133万人×2回分ちょっと。+αは、春の接種対象者で受けない人が多ければ、そのぶん増えることになる。一方、平成24年度末時点でワクチン供給予定量は、477万回分。

● アウトブレイク対策に有効とされる生ワクチンは、今後の製造予定と有効期限に鑑みると、平成26年夏ごろまで手に入る予定。将来的備蓄の必要性はさらに検討が必要。


といったことが示されました。


いずれにしても今回の単独IPVが2月に申請、4月に承認となったのは異例のスピードなのは確かなようです。また、一斉切り替えとなることも明らかにされましたが、その点はこの検討会で論点となっていたことでもありましたので、「へえ」という感じでした。ただ4月に承認されたとしても、気になる点はかなり残ります。

① 4月承認なのに、なぜ9月まで切り替えを待つのか。

② 今春の生ワクチン定期接種は、接種率が相当下がるのではないか。

③ 供給量は本当に足りるのか、医療機関窓口で混乱は生じないのか。

④ 4回接種に増えて、ますます接種スケジュールがタイトになる。

⑤ すでに生ワクチンで被害を受けた人たちは忘れ去られていかないか。


まず、【① 4月承認なのに、なぜ9月まで切り替えを待つのか。】ですが、これは【②今春の生ワクチン接種率は相当下がるのではないか】という懸念とあわせて昨日の検討会でも話題になりました。


事務局が示した数字では、昨秋の生ワクチン接種率(1回目)は全国平均で70.4%(出生数を105.7万人として推計)でした。平成23年度に対象年齢に達しているのに接種を終了していない子供の数は、27.3万人に上るそうです。一般に国内流行を防ぐには80%以上の接種率が必要とされており、ウイルスの根絶には95%以上の接種率が必要です。しかし、現状ではかろうじて7割。しかも、9月1日切り替えがアナウンスされたとなると、この春の接種率はがくんと落ちるのではないでしょうか。国立感染研の清水構成員も懸念を示し、厚労省にデータ収集への対策を尋ねましたが、事務局は「9月以降の不活化ワクチンの需要見通しを立てる上でもデータを出すことが大事。自治体に過度の負担がかからないように工夫したい」と抱負を述べただけでした。坂本構成員(川崎市健康福祉局医務監)は、「自治体によっては細かく日々データを取っているところもあるので、そういう自治体からの情報を集めてある程度推計できるのでは?」と提案するとともに、「川崎市は4月の接種率がすでに40%ちょっとに下がっています。例年6月に向けて上昇するはずのところですが、今年は9月に不活化ワクチン導入の発表があったので、最終的に50%程度に落ち込んでしまうでしょうか」と危機感を示しました(清水構成員が「個人輸入のIPV接種者もいるでしょうから、本当に50%かは分かりませんよね」とフォローしていましたが)。ポリオは夏に流行する病気です。その夏を前に接種率が50%やそこらでは、生ワクチンからの2次感染にせよ、国外から持ち込まれるにせよ、まさにいつアウトブレイクが起きてもおかしくない状況になってしまいます。しかし厚労省はこれに対しては無策というわけです。


そこで出てくるのが、なぜもっとはやく切り替えを行わないのか、という疑問なわけです。4月中に承認されてから、9月1日の切り替えまで4ヶ月以上あります。これについてまず発言したのが、これまでの保坂シゲリ氏に代わって構成員となった小森貴氏(日本医師会常任理事)です。「私自身は9月1日の切り替えは妥当だと思っていますが、国民の間には『もっと早く』という声もありますから、ここで改めてこの検討会として議論して『これ以上早くはならないんだ』という結論を示す必要があるのではないでしょうか」


これについて座長の岡部氏(川崎市衛生研究所所長)が「承認の後、国立感染研が担当する国家検定がありますよね。それを通った後に企業が生産に入るわけです。また、その間、現場への周知期間も必要となります」と回答。また、清水構成員も「仰るとおりです。検定のクリアは法律で定められています。タイトなスケジュールですが、迅速に検定を進めたいと思っています」。さらに事務局が、「国内の医薬品メーカーに問い合わせたところ、生産して全国的に流通させるとなると、8月中は難しいとのことです」と付け加えました。これを受けて岡部座長が「検討会としては『9月1日より前には“円滑に”導入できない』という結論になるかと思います」と締めくくろうとしたところで、外山健康局長も議論に参加してきて「1回目にぎりぎり間に合っても、今度はまた1ヶ月たたないうちに2回目の接種の人が押し寄せることになって、生産が追いつかずに混乱が生じてしまうことが考えられます。ですから十分準備期間を取る必要があります」という旨発言。すると坂本構成員も「自治体側の準備で言えば、問診票の一字一句をきちんと間違いなく整えたり、また予算のこともありますし、それらが全て法改正後の対応になることを考えれば、川崎市としては大車輪でやっても9月1日がぎりぎりです。他の自治体でももっと時間が必要というところもあります。妥当ではないでしょうか」。川崎医大教授の中野構成員も「私も9月1日は妥当と考えます。集団接種から個別接種になり、回数も2回から4回に増えます。IPVはOPVより単価が高くなるわけですから、一部負担金が足りずに全ての人にワクチンがいきわたらないなどという事態に陥ることのないよう、自治体のほうで着実に準備を進めてほしい」と発言。検討会全体が「9月1日は妥当」のムードとなり、議論はそのままほかへ移っていきました。


たしかに現実的には9月1日は行政が行う一斉切り替えの期日としては妥当、なのかもしれません。実際、私も「なるほど」とも思いました。しかしその直前に議論されていた「春の接種率低迷について何の策もないままキケンな夏に突入する」状況、そして、「OPVでは毎年麻痺患者が出ている」という現状に鑑みたときに、「一刻も早くIPV切り替えを!」と考えるのはやはり国民の当たり前の要求です。それに対する答えとして主として行政や接種側の都合を持ち出されても、もし万が一それで健康被害にあってしまった人たちは納得できるのか、私としては論点がすり替わったとまではいかなくても、どうもすっきりしないまま、期待していたのとはちょっと違う理由付けで無理に納得させられたような印象でした。


というわけで「IPVへの切り替えは9月1日で妥当」というのが検討会の答えとして採用された後も、もやもやした気分で話を聞いていた私でしたが、そこに発言したのがポリオの会の小山会長です。「話を戻すようですが」と前置きして、「今、1日に10件前後、不活化ワクチンを打てないかと相談を受けます。保育所に入れるのも怖いそうです。この夏にアウトブレイクするのではないかと非常な危機感を持っています。この夏、最後の麻痺患者が出るのではないかと心配しております。正直な気持ちとして、OPVを停止できないか、と申し上げます」と提案しました。本当のところ、この発言は議論の流れにはまったく乗っておらず、岡部座長の顔にも「何で今さら言い出すのか」と言いたげな様子が現れていました。そして実際、座長は「ではご意見として承ります」という一言で早々に話を切り替えたのでした。しかし私は、小山会長があえて空気を読まずに発したその一言こそが、接種率低迷にも示されるように、お母さんたちの本当の声に聞こえました。その発言は確かに浮いていましたが、そちらのほうがマトモな、正直な国民の声です。それが浮いてしまうこの検討会はやはり特殊な空間、少なくとも“アウェー”には違いないなぁ、と痛感したのでした。


長くなってきましたので、残りの問題③~⑤は次回にしたいと思います。

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コメント

>OPVを停止できないか
ではなく、
「どうして9月までの間、不活化ワクチンを輸入しない(かった)んだ」
と、厚労省の不作為を追及して欲しかったですね…
(この夏にアウトブレイクしたら、厚労省の責任だぞと…)

完全アウェーなので、そういう発言をするのは
なかなか難しいとは思われますが…

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