高すぎるポリオ不活化ワクチン 国は言い値になすすべなし?

投稿者: | 投稿日時: 2012年06月13日 15:03


先陣を切ってポリオの不活化ワクチンとして国内承認され、9月からの定期接種導入が予定されているサノフィ・パスツール社製の「イモバックスポリオ皮下注」。そのメーカー希望小売価格が今月に入って正式に発表されました。ところが、すでに個人輸入して接種を行っている開業医を中心に、「高すぎる」という声が次々に上がっています。


問題の価格は、税抜きで1シリンジ5,450円(シリンジとは注射器。すでに充填された状態になっている)。厚労省が6月1日に自治体向けの説明会で明らかにしました。それについての自治体側の反応を、「日刊薬業WEB」(2012年6月4日)より抜粋します。


【希望小売価格について自治体担当者からは値引きの余地はあるかとの質問が出た。これに対し厚労省健康局は「最終的には自治体とメーカー、卸との交渉の中で(市場実勢)価格が決まってくる」と述べた。
 別の自治体担当者は、9月時点では不活化ポリオワクチンを扱うのは1社だけのため競争原理が働かず、価格交渉には限界があるとして、厚労省にワクチンの単価を示すよう求めた。】


自治体の人は直ちにこの価格に反応したということですね。ただ、5450円という数字を一般の人が見ても、あまりぴんと来ないかもしれません。確かに安いとは思いませんが、現在、ポリオの不活化ワクチン(IPV)を個人輸入している医療機関で接種を受けると、たいてい4,000~5,000円(第2回ポリオ不活化ワクチン検討会https://lohasmedical.jp/blog/2011/10/2_4.php)。6000円台のところもあるようですから、大きくかけ離れた数字ではない、と思ってしまう、ということもあるのではないでしょうか。しかしこれは早合点。例えばですが、以下は「ファミリークリニック小禄公式ブログ」(2012年5月1日付←希望小売価格はまだ公式発表前)からの抜粋です。

【輸入している場合、100本単位で行うと2,000円弱(薬剤費+輸入費用など)
これに診察・手技料・かかる費用を考えて5,000円前後での接種となります】

【今回日本向けのIPVの価格(希望小売価格)が5,500円弱になるようです
この価格に、先の接種費用を上乗せするので定期接種以外で受ける場合には、
約9,000円~1万円と予想されます
今まで、個人輸入で5,000円前後で接種できていた成人の場合
日本で認可されたIPVだと2倍近い料金となるわけです】


個人輸入による接種でも、お母さんたちが支払う料金には当然ながら、メーカーの売価に卸のマージンや、医療機関での接種費用等、多くのコストが上乗せされているんですよね。定期接種にあたっても、メーカーの小売価額が5,450円だったら、自治体が実際に購入する価格は卸を経た価格になっていることでしょうし、さらに医療機関での接種費用も負担しなければなりません。結果として、IPV1本あたり、自治体は1万円近く支払うことになるようです。


ちなみに、個人輸入した場合のワクチンの価格は、代理店によってもやはり違ってきますが、こんなサイトを見つけました。

●個人輸入代行サービス iRxMedicine
私でも手に入れようと思えば手に入るのか・・・。が、やはり割高。どんな世界でも、まとめ買いするとどんどん安くなるものなんですね。最終的にはすごい値引率になりそうです。


さらに下記のような報道もあります(「日刊薬業WEB」2012年6月8日)。

【4日に開かれた厚労省の「新型インフルエンザワクチンの流通改善に関する検討会」では日本小児科医会副会長の松平隆光構成員が、「われわれが個人輸入して1,200円のものが、どうして定期接種になったら5,000円を超えるワクチン代になるのか理解に苦しむ」と発言。負担を軽くして広く接種機会を提供すべきだと求めた。】


と、1,200円で手に入るルートも普通にある様子。これに対し、サノフィの弁解は以下のとおり(引用元同じ)。

【サノフィPのワクチン政策渉外部では希望小売価格について、輸送時の温度管理など「日本の高い品質基準に合わせるため追加作業を行っている結果」と説明。国内臨床試験や日本向けの製造ラインの新設、市販後安全性調査など、開発から供給にかけて「(通常と比べて)約2倍以上の費用がかかっている」としている。】


であったとしても、です。海外版をまとめ買いすれば1本当たり1,200円になるのが、5,450円って・・・。海外版を4本打ってもまだお金があまる値段、どう見ても法外(「ぼったくり」と読みます)です。


それで何が情けないって、その提示金額についてなすすべのない、国ですよね。


ワクチンの内容はまったく一緒なのに、医療機関が個人輸入してお母さんたちが窓口で支払って接種を受ける(4,000~5,000円)のと、定期接種として自治体で負担して、つまり税金で賄って接種を受ける(1万円程度)のと、ワクチン1本に付き5,000円違ってしまう。5,000円がどこかへ消えてしまう。そんな税金の消え方ってあるでしょうか?単純に考えれば、そのうち5,450-1,200=4,250円分は、サノフィP社に入っていく。企業ですから、少しでも商品は高く売りたい。当たり前といえば当たり前ですが、それを自治体が言い値で買わされようとしているのに、国は自治体任せで我関せずという態度。結局、日本はいいカモなのか・・・? だとしたら、憤りを通り越して、もうなんだか恥ずかしいです。


あーあ、先日の予防接種部会で落選が決定したムンプス(おたふくかぜ)と水痘(みずぼうそう)ワクチンも、この1本5,000円の差額をあてがったら1つくらい定期接種化できちゃうんじゃないでしょうか(これまたきちんと上手にやれば、ですが)。こうした国のお金の使い方、これって氷山の一角なのかな、とげんなりするのでした。

<<前の記事:パイロット版「いのちの授業」    失敗してしまった初回授業:次の記事>>