高額療養費が招くモラルハザード |
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投稿者: 川口恭 | 投稿日時: 2017年01月02日 00:00 |
年末の日経産業新聞に『揺れる薬価』という読ませる連載が載っていた。
記事の中で、声高に批判はされていないものの、患者や医師に選択を任せた場合に薬価がうまく制御できなくなる原因として、「高額療養費制度」が登場していた。
例えば、関節リウマチなどに用いられるバイオ医薬品レミケードは、特許が切れて後発品が登場しており
先発薬のレミケードの薬価(1本あたり)8万3千円に対し後続品は同5万6千円と、3割以上安い。通常、リウマチ患者は1カ月に2~3本使う。このため後続品を使うと、薬剤費は月に5万4千~8万千円減る計算になる。
しかし
例えば、年収370万~770万円で体重70キログラムの患者が先発品を使うと、高額療養費が適用される4回目以降の自己負担額は、約4万4千円になる。一方で後続品を選ぶと約5万6千円かかる。この逆転現象が「患者全体の約2割に起きる」
ため、後発品への置き換えが進まないのだそうだ。
高額療養費制度は、医療従事者やベテラン患者にとっては常識だが、普通の人はあまり知らないと思う。
私自身、この仕事を始めてしばらくは、ちゃんと理解してなかった。急性期病院の入院基本料を増やすべきだという主張をする某病院の院長に対して、「患者には、値上げをどういうロジックで説明するんですか?」と尋ねたところ唖然とされて、「急性期病院に入院するような人は自己負担の上限を超えるから関係ないんだよ」と言われ、赤面した記憶がある。慢性期の病院でも、よほど短期間で退院しない限り、上限を超えるだろう。つまり費用を見て医療行為を選ぼうというインセンティブが、患者にも医療従事者にも働きにくい(包括払いによるインセンティブは働く)。
この高額療養費が、今年8月から高齢者で上限引き上げになる。と言われても、現状がどうなっているか知らなければ、よく分からないはずだ。
厚生労働省がサイトに掲げている資料を使って、簡単におさらいしておこう。以下5枚のスライドを見れば、大体のことは分かるのではなかろうか。
で、これがどういう風に変わるか、というのは、ダイヤモンドオンラインのこのページに出ている表が分かりやすい。
引き上げが政治問題化していたようだけれど、引き上げ後も依然として、値段を気にせず医療行為を選べるという意味で、患者や医療従事者にとって実にありがたい制度であると思う。高齢者の外来だけ特別扱いされている点など見ると、患者そのものより、入院を受けない開業医にとって実にありがたい制度なんろうという気もする。
ただ、患者の自己負担が減る分を代わりに払っている人もいるんだということを忘れていると、近い将来痛いしっぺ返しに遭うだろう。外来だけ特別扱いするのは直ちに廃止すべきだし、後発品があるのに先発品を選んだら差額は高額療養費の対象にしないという程度の変更は必要でないか。