小林一彦・臨床医ネット代表インタビュー
大きく分けて4つありました。まず、番組の中で日本のがん死亡率が突出して高いような紹介をされましたが、社会の高齢化の影響を排除した年齢調整死亡率で見れば、必ずしもそんなことはないこと。次に、日本で新薬承認が遅いのは承認体制に原因があると論じていましたが、むしろ製薬会社の承認申請が遅いこと、その背景に薬価算定の仕組みがあること。3点目として、米国の医療が充実していると盛んに紹介されましたが、それを可能にするだけの潤沢な資金が投下されていること、日本でそれができないのは医療従事者の努力不足に原因があるのではないこと。最後に、オキサリプラチンなど未承認の抗がん剤が「治す」特効薬として報じられていましたが、延命薬に過ぎない現状を誤認させ、患者の選択を誤らせる危険のあること、です。
――最後の項目だけが、いやに具体的ですね。
我々は単なる勤務医の集まりですから、本当ならNHKに物申すような過激なアクションは取りたくなかったのです。そんなことをしたら叩かれるのでないかと不安でした。一方で誰かが言わなければならないとも思っていました。番組放映以来、全国でオキサリプラチンの投与量が異常に増え、同時に治療関連死も増えているのを知り、このまま放置しておいてはいけないと、決意が固まりました。最後に背中を押したのが、この項目だったのです。
――清水の舞台から飛び降りたわけですね。それで、意見書を出してどうなりましたか。
NHK側から意見交換したいとの申し出がありました。現場の実情を知って良い番組を作ってもらいたい、と、テーマを紹介したり、医師を紹介したり、全面的に協力しました。そんな中で第2弾の番組を制作するので出演してほしいとの依頼がありました。
元より勤務医は、現場ではどうにもならない制度の矛盾を色々感じているわけです。制度や仕組みに対する問題提起をしたいという思いもあり、また意見書を提出した責任もあるので、翌年1月7日、8日の番組に出演を承諾しました。
- 前の記事小松秀樹・虎の門病院泌尿器科部長インタビュー
- 次の記事山本孝史参院議員インタビュー