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ニュース〜医療の今がわかる

小林一彦・臨床医ネット代表インタビュー

――ほろ苦いTVデビューだったようですが、その後は何をされているんですか。

 福島県立大野病院の産婦人科医師が、帝王切開の際の手術ミスで女性を死亡させたとして、業務上過失致死と医師法違反で逮捕・起訴されるという事件がありましたよね。このハイリスク医療の問題は、NHKの番組以上に、勤務医の琴線に触れました。「あんなことで逮捕されるなら自分も逮捕されるかもしれない」と背筋がゾーっとした医師は多いはずです。事件に関して、臨床医ネットで知り合った医師から協力要請があり、逮捕に抗議するようネット上で賛同を呼びかけたところ、3日で5千人、最終的には1万人を超える署名が集まりました。その事務局的な立場を担ったのが、我々の仲間です。

 集めた署名は厚生労働大臣まで届けることができました。今まで医師が社会に何かを訴えようとする場合、医師会を通じてか、学会を通じてかしか方策がなかったと思うのです。ネットを通じた横のつながりで勤務医が直接社会を動かしたというのは画期的なことだと感じています。

――一連の活動を通じて見えてきたもの、変わったことはありますか。

 とにかく世論の風向きがだいぶ変わったと感じます。それまでは、とにかく医師バッシングしておけばOKみたいな風潮があったと思うのです。そういう論調がメディアから減ったと思いませんか。

 それから、我々は意外にパワーがあるんだなというのも実感したところです。少なくとも医局単位でしか発言できないと思っていたけれど、たとえ個人のつながりであっても発言すれば、社会は受け止めてくれるものですね。

 医療が変革期を迎えているのは間違いありません。そして、医療が将来どうあるべきかというのは、一握りの人間が意思決定するのでなく、国民全体で議論する必要があると思っています。その準備が整いつつあるのでないでしょうか。

――今後、臨床医ネットとして何をするつもりですか。

 メンバーの総意で動くのが臨床医ネットで、私が意思決定するのではないので、ああしたい・こうしたいと言うのは不適当だと思いますが、現場で孤独な勤務医が疑問や問題意識を持ち込んで共有できる場として存続していければいいなあと思っています。

 医療現場で最も労働強度の高い勤務医がどうコミュニケーションするのがベストなのか、どう連帯するのがベストなのかは、今のところ全く分かりませんので、模索を続けていくしかないんだろうと考えているところです。

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