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国はどこまで要介護認定の"判断"に関与するか

 要介護認定を行う個々の調査員の判断にばらつきが出ないよう、全国一律の研修を行うよう求める意見が、要介護認定の見直しを検証する厚労省の有識者会議で上がった。判断のばらつきの防止につながる一方で、介護給付費を抑えたい国による"要介護認定調査時の判断"への関与の度合いが強まることにならないだろうか。(熊田梨恵)

検討会会場.jpg 要介護度の認定方法は今年4月から、調査項目数が82から74に減らされ、調査員が使うテキスト内容も変更されるなど新しく見直されている。介護保険制度開始以降、個々の調査員によって調査項目に対する判断が違い、要介護認定に影響しているとの声が上がっていたためだ。厚労省は検討会を設置してばらつきが多い項目を調査。モデル事業を実施した上で、制度改正を行った。
 
 ただ、この見直しについては、現場から「介護度が低く判定される」と懸念する声も上がっており、厚労省は認定を受けた人が希望すれば、以前の要介護度でサービスを受けられる経過措置を設けた。4月からは「要介護認定の見直しに係る検証・検討会」(座長=田中滋・慶大教授)を設置して、自治体から要介護認定のデータを集めるなどして実際の影響を検証し、必要に応じて判定方法を見直すことにしている。
  
 この検討会でさらに見直しが行われるかどうかは今後の議論や上がってくるデータ次第だが、要介護認定の方法を見直すということは、介護給付費に大きく影響する。2007年度の介護給付費は6兆1600億円で、国は増え続ける社会保障費を抑制したい考えもある。全国一律の研修を行えば、調査員が現場で迷うことを防ぎ、ばらつきの修正につながるかもしれない一方で、国の「要介護認定」に関与する度合いが強まる可能性もある。判定方法の見直しについても、2012年度の介護報酬と診療報酬の同時改定を控え、どこまで踏み込んだ見直しが行われるかは注視が必要だ。
 
  
自治体間ばらつき比較図.JPG この日、事務局は調査項目について、制度改正前後での自治体間のばらつきを比べた資料を提示。「74項目のうち、統計学的有意にばらつきが小さくなったのは33項目、有意にばらつきが大きくなったのは9項目」としている。9項目に示されたのは、▽麻痺(右下肢)▽麻痺(左下肢)▽起き上がり▽立ち上がり▽作話▽外出して戻れない▽物や衣類を壊す▽中心静脈栄養▽レスピレーター―。
 
 対馬忠明委員(健康保険組合連合会専務理事)は、「ばらつきは少なければ少ない方がいい」とした上で、9項目にばらつきが出た意味を事務局に尋ねた。
 老健局の鈴木康裕老人保健課長は、「基準変更の意図が現場の調査員に伝えられなかったという可能性がある」と回答。その上で、「今までよりも意図と違ってばらつきが大きくなっている状態をこのまま放置するわけにはいかない。研修をやっていくことや、基準自体を分かりやすい、誤解の少ない形にするかということもあるかもしれない」と述べた。
 対馬委員は「きちんと教育をやっていくというのが一つの方向」と応じた。
 
 本間昭委員(日本認知症ケア学会理事長)は「項目だけなら調査員によってばらつきが出るのは当然」と指摘。調査員は利用者の心身の状態が生活にどのような支障を与えているかということまで考えて、認定調査票の特記事項に反映できる必要があるとした。その上で、「どういう判定システムを作っても誰もが満足するシステムはできない。同時に調査員の教育が必要。全国一律の教育は歓迎する」と述べた。
 
 
 
 また、筒井孝子委員(国立保健医療課科学院福祉サービス部福祉マネジメント室室長)は、国立保健医療科学院が行った認定調査員の研修を受けた55人に対する調査結果を報告。以前に使われていた調査員用のテキストより、調査項目の基準が「分かりやすい」と答えた人が67%おり、指導者として使って「使いやすい」と回答した人が62%いたことなどを示した。回答者の自由記述にあった「今回の調査は客観視できるものになっており、本来あるべき調査であると思う。前回と比べて軽度になっているという感覚があるのは、あまりにも勘案しすぎて主観的に見過ぎていた結果ではないかと思う。この際、この方式できっちり仕切り直しをする必要があると思う」などとする感想を調査のまとめに引用した上で、全国一律の研修システムを構築するよう提案した。
 
 
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