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4000億円の交付金創設、介護職の賃金アップに-厚労省補正予算案

 低賃金や過重労働などを理由に人材不足が深刻となっている介護職の待遇改善を図るため、厚生労働省は2009年度補正予算案の中に、介護職員の処遇向上を図る介護事業者に対して交付金を支給する「介護職員処遇改善交付金(仮称)」を設置する施策を盛り込んだ。計上された約4000億円はすべて国庫負担のため、保険料増額には響かない。ただ、2011年度で基金が終了した後に待遇が下がらないようにするための対応が求められる。厚労省の宮島俊彦老健局長は「その続きの対策は必要になると思う」との認識を示している。(熊田梨恵)
 

 介護職員処遇改善交付金は、政府・与党が4月10日にまとめた経済危機対策の中の、厚労省所管分野での施策になる。経済対策では人材不足が深刻な介護職の待遇改善を求めていた。
 
 介護職の処遇改善をめぐっては、国民からの声を意識した政府・与党が、2009年度介護報酬改定で、介護職員の処遇改善をねらいに改定率を3.0%引き上げた。政府は当初、介護職員の給与を月2万円増やすとしていたが、介護事業者の運転資金などに回されて給与の増額につながっていないとの指摘が上がっている。今回の介護報酬改定は、一律に報酬額をアップしたのではなく、介護職員の手厚い配置など、質の高いケアや業務負担が多い施設に対する「加算」という形で対応したため、この加算が取れたか否か、つまり厚労省側の政策誘導に乗ったかどうかで事業所の報酬額が異なってくるという仕組みだ。このため、実際に職員の処遇改善につなげられないという指摘が上がっており、国は今回の交付金を設置することで処遇向上につなげたいというねらいがある。
 
 この交付金は、介護職員の処遇を改善する事業所に対して交付されるもの。事業所の類型ごとに、介護報酬額に一定の交付率をかけた金額が毎月支給されるという仕組みで、特に人件費率の高い事業には交付率が手厚くなっており、訪問介護事業所は70%、訪問入浴介護は45%など。今年10月サービス分からの実施となるため、12月支払い分の介護報酬とともに支給される。

 事業所は、介護職員に処遇改善計画を通知し、支給される交付金を上回る額を賃金や待遇の改善に当てなければならない。また、来年度以降は介護職のキャリアプラン構築など、継続して介護職の待遇改善を行っていく意思を示さなければ、交付率が減額される。
 
 今回の予算案額は3975億円。全額国庫負担のため、保険料に跳ね返ることはない。ただ、2.5年分の予算計上のため、2011年度末に交付金の支給が終われば、待遇が元通りになりかねないという懸念がある。このため、厚労省は2012年度介護報酬改定で、待遇が下がることがないように対応を考える意向だが、介護報酬に反映されるということは、保険料増額や消費税率アップなどによる税金投入は避けられない。

 厚労省が4月20日に開いた有識者会議の中で、池田省三委員(龍谷大教授)は厚労省に対し、交付金に充てられる約4000億円は介護報酬額の約2%に当たるとした上で、今後の保険料の増額を見込んだ施策であるのかどうかと質した。宮島局長は、「第5期介護保険事業計画【編注】に向けてどうするかは、介護保険制度の中で保険料にどう跳ね返っていくか。どういう対応があるかは議論を続けないといけない」と述べた。


【編注】介護保険事業計画...市町村が策定する計画で、介護サービスの需要予測などに基づいて介護保険事業の財政規模が決められ、保険料が決定される。第5期は2012年度から14年度までの3年間。


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