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NICU長期入院の子どもを在宅に―都が来年度にモデル事業を実施

 東京都は来年度から2年間、新生児集中治療室(NICU)に長期間入院している子どもがスムーズに在宅に戻れるよう、院内に退院支援コーディネーターを配置するなどのモデル事業を実施することを決めた。慢性的なNICU不足の解消を図ることが目的で、国内でも初の取り組みと見られる。(熊田梨恵)

 昨年秋に都内の妊婦が複数の医療機関に受け入れを断られて死亡した問題から、NICUが不足しているために受け入れ「不能」となっている周産期救急医療の現状がクローズアップされている。このNICU不足の理由の一つに、NICUに1年以上入院する「長期入院」の子どもがいることが挙げられている。厚労省研究班は、国内でNICUに1年以上入院する新生児は年間約200-300人おり、200-250人は在宅か療養施設に移行する必要があると指摘している。
 
 ただ、長期入院児が退院できない理由としては、つききりの医療や介護ケアが必要になることによる家族の負担感や、訪問看護やデイサービスなど地域の医療・福祉サービスの不足などが挙げられており、なかなか整備が進んでいない。このため、国は今年度予算で、退院コーディネーターの配置などを含めた長期入院児への対応策などを支援している。
 
■NICUの現状、問題点などを知りたい方はこちら⇒誌面アーカイブ 30人に1人に必要-赤ちゃんのNICU
 
 東京都は7月22日にNICU退院支援体制検討会(座長=多田裕・東邦大医学部名誉教授)の初会合を開催。長期入院児の在宅移行を支援する地域ぐるみの取り組みを、都立墨東病院を総合周産期母子医療センターに持つ区東部地域(墨田・江東・江戸川の3区)で、来年度から2年間実施することを決めた。院内外の関係する医療・福祉機関と家族間を調整したり、人工呼吸器など在宅医療に必要な機器の使用法を教えたりする「退院支援コーディネーター(仮称)」を設置し、子どもがスムーズに在宅生活に戻れるよう促す。コーディネーターの職種には、医療ソーシャルワーカーや看護師、保健師などが想定されている。

 事業の中では地域のネットワーク体制も構築する。在宅医療を行う家族への重要なサポート役となる一方で、人材不足などによる経営難が問題となっている訪問看護ステーションに対しては、医療保険で提供できる限度を超えて訪問看護を行った場合の支援、重症心身障害児をケアできる訪問看護師の育成、事務員配置などに対する財政的支援も考えられている。このほか、急に容体が悪くなった子どもを受け入れる周産期母子医療センターに対する支援や、母親同士のピアカウンセリングの場の提供、医療機関に向けた乳幼児用の在宅医療マニュアルの作成も示された。

 都はモデル事業を基に退院支援のガイドラインを作成し、都内全域に取り組みを広げていくことを目指している。多田座長は会合中、「1年以上入院する子どもが東京都からいなくなるようにしたい」と述べた。

 このモデル事業について厚生労働省は、「他の自治体では聞いたことがない」と話しており、国内でも初の取り組みと見られる。

 都内のNICUは現在240床。都が2007年に実施した調査では、調査日にNICUに入院していた123人の入院児のうち、44人が1年以上入院していた。
 

■「地域医療再生基金」も視野に
 このモデル事業は2年間と、年度を超えた実施が予定されている。都がこの予算として考えているのが、厚労省が今年度の補正予算で新しく始めた「地域医療再生基金」。年度をまたぐ取り組みについて自治体が自由に設計できるという特徴があり、基金の使用先としてNICUに関する支援策も例示されていた。都は来年度予算の概算要求を視野に、夏ごろにはモデル事業の詳細を詰める予定だ。

 
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