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スーパー総合周産期センター、実質は1件-システムの本質は「意識向上」?

 救命処置が必要な妊婦を24時間体制で必ず受け入れる「スーパー総合周産期センター」のシステムが東京都で開始してからの約4か月で、スーパー総合の受け入れに該当する重症の妊婦の搬送ケースは9件あった。このうち8件は近隣のセンターが受け入れることができており、他のセンターでの受け入れが不可能なために"最後の砦"としてスーパー総合が受け入れたのは1件のみ。関係者からは、スーパー総合があることによる安心感などが他の医療機関に影響し、他のセンターの受け入れがうまくいっているとの声が上がっている。(熊田梨恵)

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 資料は都が7月29日に開いた周産期医療協議会(座長=岡井崇・昭和大教授)で公表した。

■「スーパー総合周産期センター」システムの経緯はこちらこちらを参照

 スーパー総合周産期センターのシステムでは、119番通報を受けた救急隊が患者の状況を確認し、脳や心臓に疾患があるなどスーパー総合での受け入れに該当する重篤な状態だと判断した場合、「スーパー」事案として各消防本部に連絡する。日赤医療センター(渋谷区)、昭和大病院(品川区)、日大医学部附属板橋病院(板橋区)の3つのスーパー総合が輪番で受け入れ態勢を敷いているが、近隣の総合や地域の周産期母子医療センターでの受け入れが可能になれば、そこに優先して運ばれる。つまり、妊婦がスーパー総合での受け入れに該当する重症ケースで、スーパー総合システムが稼働して消防本部や医療機関が動いたとしても、すべてスーパー総合に運ばれるわけではない。

 システムが稼働した3月25日から7月28日までの間、スーパー総合での受け入れに該当する重症ケースは9件発生。システムは稼働したが、8件は近隣のセンターで受け入れられていた。どこも受け入れることができず、"最後の砦"としてスーパー総合が受け入れたのは、5月に起こった硬膜下出血が疑われた30代の妊婦の転院搬送だった。

 都によると、これ以外にも患者が自ら病院に来たケースなどでも、スーパー総合の受け入れに該当する重症ケースは8件あったという。

 会合中、委員は資料を元にシステムについて意見交換した。


■「意識の高まりで受け入れられている」

 意見交換で伊藤博人委員(東京消防庁救急部救急医務課長)は、「この制度ができるまでは受けていただく病院がなかなか決まらなかった。このシステムが動き出し、(救急隊が)病院に連絡すると、最終的な(受け入れ)場所が確保されているということで安心され、受けられる、ということだと思う。時間的に早く収容されるイメージがある」と感想を述べた。
周産期協議会.jpg 都福祉保健局の飯田真美医療政策部事業推進担当課長は、「(救急隊は)まずは直近の周産期センターにかけていただいているのが現状。そこがだめだったら『スーパーで』ということ。大体1回か2回のトライで決まっている」と述べた。

 吉井栄一郎委員(都福祉保健局医療政策部長)は、8件が近隣の病院で受け入れられていたことについて、「直近(の場所)で入ったものもシステムとして機能したと考えてもらいたい」と述べた。
 丹正勝久委員(日本大医学部教授)は「スーパーのシステムを作ったことで、スーパーに入っていないセンターの意識も少し高まったのでは。このネットワークの機構がうまく動いたというよりは、意識が高まったことでスーパーの患者の受け入れもうまくいったと考えて、これらは別個に考えて話していかないといけないのでは」と、システムを検証する際に注意すべきとした。
 岡井座長はこれに対し、「『意識』もある意味システム下にあるもので、それに乗ってくれたというのもある。そういう整理がないと普通の母体搬送と同じになってしまう。忙しくても『スーパーがあるなら頑張ろう』とやってくれているところもある。今までだったらあった、(救急隊からの受け入れ照会時に)『もうちょっと当たってみてだめだったらもう一回電話下さい』というのは減っている」と述べた。

■オーバートリアージは「許容範囲」
 岡井座長は、中等症のケースが3件あったことを指摘し、「3例がオーバートリアージになる。9分の3なので許容範囲。これぐらいはしょうがないだろう」と述べた。「問題はアンダートリアージ。常位胎盤早期剥離も重症以上のものと規定しているので、1次医療機関が『それほど重症じゃない』と思ってスーパーのシステムに乗せないで、普通の母体搬送でと考えていたら意外と重症だったと。受け取った側が『これは重症だからスーパーでよかったじゃないか』という報告がいくつかされているということ」と、システムは稼働しなかったが重症だったケースがあったことを指摘。スーパー総合に搬送される前の段階で妊婦を診ている医療機関との連携の必要性を強調した。

■「新生児のスーパーシステムを」
 宇賀直樹委員(東邦大医学部教授)は、スーパー総合が妊婦の救命を目的としていることについて「新生児からするとうらやましい。『スーパー胎児救命』とか、一部でもいいから見習って『こういう患者ならどこか受けるよ』というのがあれば残念な症例が少なくなる」と述べた。
 岡井座長はこれに対し、「新生児のシステムがあった方がいいなら作った方がいいかもしれない」と、前向きな見方を示した。9件の中で胎児が死亡していたケースがあったことを指摘し、「今後検討していきましょう」と述べた。

 このほか、楠田聡委員(東京女子医科大教授)はスーパー総合での受け入れに該当するケースが、患者が自ら来院したケースも含めて17件あったことについて、「ほぼ予想に近い数字。ただ、スーパーの宣伝や広報がうまくいっていない」と述べ、システムを今以上に周知していく必要性を指摘した。


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