診療報酬の"裏技"を告発する病院団体
「ちょっと複雑で、我々自身も知らなかったポイント」─。診療報酬が高くなるように請求する"裏技"を病院団体が告発して、厚生労働省が調査に乗り出すという奇妙なことが起きている。医療現場の改善につながるような政策を提言すべき病院団体がまるで警察犬のように嗅ぎ回り、厚労省の取り締まりに手を貸している。(新井裕充)
問題となったのは、ケアミックス病院の再転棟。10月5日に開かれた中医協のDPC評価分科会で、小山信彌分科会長代理が「ケアミックスの病院は、何が問題なのか。何が一番、こういうようなこと(再転棟)をさせているか」と前置きした上で次のように告発した。
「慢性療養病床に入っている患者さんが一般病棟に戻る場合に、戻った日から換算して3日間遡って出来高になる。これをあまり利用されてしまうと、本来のDPCが駄目になっちゃうので、提案ですけれども、もし、出来高にするんじゃなくて、DPC病棟に転棟するなら、3日間の算定を出来高ではなくてDPC算定にするということが必要。これがいろいろな所に知れ渡ってしまうと、全部そうなっちゃうので、DPCそのものの根幹が揺らいでしまう」
この発言に、他の委員らは驚いたような表情でざわつき、厚労省の担当者らも慌てた様子で分厚いバインダーをめくった。
厚労省保険局医療課の長谷川学課長補佐は「(転棟)3日前までの入院に関してはまだ確認できていないが、一応、3日前までの間は、『入院基本料E』(750点)という療養病床の(包括)点数ですが、『一番低い点数を算定することができる』という記載になっておりまして、ちょっと確認させていただければと思っております」と答え、その場をしのいだ。
会議中、医療課の職員が資料を調べていたようだったが、結局その場では解決できず、長谷川補佐が「次回までに、ある程度調べさせていただければと思います」と正式な回答を保留。「回復期リハビリテーション、療養型病床、認知症などへの転棟に関して、支払上、何らかの問題がないか、ちょっと確認して、後日ご報告いたします」とした。西岡清分科会長も、「ちょっと複雑で、たぶん我々自身も知らなかったポイントだと思う」と述べた。
厚労省が知らなかった"裏技"ともいえる請求方法を暴露して厚労省に調査させる─。小山分科会長代理は東邦大医療センター大森病院の心臓血管外科部長で、今年3月、日本病院会など11の病院団体が加盟する日本病院団体協議会のトップ(議長)に就任。9月からは、同分科会で「分科会長代理」を務めている。
より高い診療報酬を得るために包括払いと出来高払いを使い分けることに対しては賛否両論がある。診療報酬で正当に評価されていない"奉仕活動"が数多くあると言われる中、一部の点数を高く取ったことをことさら取り上げて目くじらを立てることを疑問視する声もある。
診療報酬は極めて複雑であるためグレーゾーンも多く存在する。その隙間を狙う請求方法をめぐって、医療機関と厚労省との間でイタチごっこを繰り返す。
厚労省が請求上の問題点を指摘するなら、役所という立場ゆえ理解もできる。しかし、病院団体の関係者が"仲間を売る"ような告発をして厚労省に知恵を付けているため、病院団体のような「中間団体」の存在が医療界の自律やスキルミックスを妨げているとの指摘もある。
ところで、今回の問題について厚労省に問い合わせたところ、病院団体の関係者ほど深刻にとらえていないようだ。担当者は「後日改めて報告させていただくが、どちらが高くなるかは一概に判断できず、ケースバイケースと言えるだろう」と話している。
担当者によると、小山分科会長代理が指摘したのは「平成20年厚生労働省告示第59号」(平成20年3月5日)で、「療養病棟入院基本料」の注釈に次のような規定がある。
注3 療養病棟入院基本料を算定する患者に対して行った第3部検査、第5部投薬、第6部注射及び第13部病理診断並びに第4部画像診断及び第9部処置のうち別に厚生労働大臣が定める画像診断及び処置の費用(フィルムの費用を含み、別に厚生労働大臣が定める薬剤及び注射薬の費用を除く。)は、当該入院基本料に含まれるものとする。「この限りでない」との例外規定があるため、包括払いにせずに出来高などの方法で別途算定できる。例えば、29日の午前に転棟した場合、27、28、29日が「別途算定」になる。ただ、転棟先の「一般病棟」のほうが出来高よりも高いこともあるため、どちらが増収になるかは一概に判断できないらしい。小山分科会長代理の指摘について、詳しくは次ページを参照。
ただし、患者の急性増悪により、同一の保険医療機関の一般病棟へ転棟又は別の保険医療機関の一般病棟へ転院する場合には、その日より起算して3日前までの当該費用については、この限りでない。
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