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「良くなったら、どんどんどんどん医療費が上がってしまう」

保険局医療課・佐藤敏信課長1005.jpg 慢性疾患を抱える高齢者らが回復すると医療費が上がるという考えがある。診療報酬を審議する中医協の分科会で、「体力の悪い方がどんどんどんどん入院してきて、ある程度良くなったら、どんどんどんどん医療費が上がっていってしまう」という発言が飛び出した。(新井裕充)

 急性期のベッド(一般病床)が満床のため、いったん回復期リハビリの病棟で受け入れて、その後に急性期病棟に移すという手法(転棟)が中医協の分科会で問題視されている。(詳しくはこちらを参照)

 急性期・慢性期両方の患者に対応できる「ケアミックス病院」で院長を務める美原盤委員は10月5日のDPC評価分科会で、自院について「不適切な転棟が行われてアップコーディングが行われていることはない」と評価した上で、9月24日のDPCヒアリングに呼ばれたケアミックス病院を次のように批判した。
 「この間(青森慈恵会病院)の再入院とか再転棟のお話をお聞きした時に、グループ内の病院間で再入院をしているというのは、病棟別のアップコーディングではなく病院間のアップコーディングにもつながるのではないか」

 美原委員はこのように、青森慈恵会病院のアップコーディングの可能性を指摘した上で、高齢者医療の在り方に言及した。
 「慢性期の患者様、例えばある病院では、地域の急性期の病院で十分に治療ができなくなって、それを受け入れているから非常に重症患者さんが多い。それは考えてみれば、本来、もともとの急性期病院で長く入院してきちんと治すものを受け入れている。では、そこの病院は本当の急性期の治療をしているのかというと、ちょっと疑問に思うわけです。ですから、やはり、悪い患者様、悪いというか、かなり体力を落とされている患者様をどこまで治療するのか、いろいろ議論のあるところだとは思うのですが、『本当の急性期って、一体なんなんだろうか』ということを、非常に僕は疑問に思っているわけです。つまり、もともと体力の悪い方がどんどんどんどん入院してきて、ある程度良くなったら、どんどんどんどん上がっていく。医療費が上がっていってしまうのではないかなと思う」

 この発言に対し、西岡清分科会長(横浜市立みなと赤十字病院長)は「病院の機能の整理につなげていただくことが必要」とコメント。その後、「急性期」と「慢性期」をめぐる議論に発展したが、結論は出なかった。
 中医協の慢性期分科会で分科会長を務める池上直己・慶大医学部教授は「明確な結論というのは難しい問題であって、慢性期の分科会でも今後検討する予定」と述べるにとどまった。

 厚生労働省は、自公政権下でまとめた「社会保障国民会議」の最終報告をいわば"医療政策の憲法"として、個別政策を展開していくつもりだったと言われる。このため、今回の政権交代で今後の機軸を失ったようにも思える。
 しかし、「大臣不在」などと皮肉る声もある中、厚労省の基本的なスタンスが大きく変わったとは思えない。医系技官らの志気がこれまで以上に高まっているとの声もある。とすると、これまでのような医療費抑制、医療の効率化を推進していくだろうか。高齢者の受診は抑制され、切り捨てられていくのだろうか。
 医療費抑制の発想から抜けられない厚労省の会議で、高齢者医療の在り方や延命治療をめぐる議論を今後も続けるべきだろうか。ぜひ、国民全体で医療を考える場を政治主導で立ち上げ、幅広い視点から議論を深めてほしい。なお、急性期・慢性期をめぐる中医協の議論は次ページを参照。

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