政権交代で、包括払いはどうなる?
診療報酬の包括払いを推進する民主党の政策を追い風に、厚生労働省は包括払いの拡大に向けて一歩踏み出した。(新井裕充)
政権交代が確実になった総選挙から1週間が経過。2010年度の診療報酬改定に向けた議論は次の厚生労働大臣が決まるまで一時中断するように思えたが、中医協の分科会が9月9日に開催された。
会合は終始和やかな雰囲気で進み、時折、事務局を務める厚労省の担当者から笑い声が漏れた。会議終了後も厚労省職員の表情に悲壮感はなく、むしろこれまで以上に活気付いているように見えた。
それは恐らく、民主党の医療政策が厚労省の方針を後押しするからだろう。「医療機能の分化・連携」を旗印に地域の拠点病院に医療資源を集約化し、医師の適正な配置を進めて偏在を解消する。そして、医療費の効率化を図る「包括払い」を拡大する。
このような政策を進めるには強い政治力が必要。民主党の政策には、厚労省のこれまでの方針と重なる部分があるため、「厚労省にとって歓迎すべき内容」との声もある。次期改定に向けた議論は混乱なく進むことが予想される。
特に厚労省が歓迎するのは、包括払いを推進する政策だろう。日本医師会(唐澤祥人会長)が包括払いの拡大に反対しているため、厚労省は包括払いを進める上で強い後ろ盾を得たことになる。民主党の政策集には、「包括払い制度の推進」として、次のような記述がある。
「国内どこに住んでいても、医学的根拠に基づく医療(EBM)が受けられるよう、急性期病院において、より一層の包括払い制度(特定の疾患に定額の報酬が支払われる制度)の導入を推進します。同時にクリティカルパス(*)を可能な限り導入し、療養病床においては食費・居住費を含めた包括払い制度を導入します。超急性期・回復期・維持期リハビリテーションについては、その重要性を考慮し、当面は出来高払い制度としますが、スタッフの充実度および成果を検証し、将来的には包括払い制度に組込みます」
包括払い制度の大きな特徴は、医療費の抑制効果があること。決められた枠内で医療の効率化を図り、必要最小限のコストに抑えるような診療が進む。全国どこの病院に行っても同じような医療を受けることができるという意味で、医療の標準化が進むとされる。
これに対して出来高払いは、医療行為ごとに点数を設定して合算するため、「やればやっただけ金になる」という支払い方式。このため、コスト意識が働きにくいとの指摘もある。
例えば、「レントゲンを1枚撮影すれば診断を付けられる熟練した医師よりも、5枚撮影しなければならない未熟な医師のほうが高額な報酬を得る」などと批判される。ただ、患者の状態によっては標準的な診療では足りず、過剰診療が必要なケースもあるため、出来高払いには医師の裁量権が保たれるというメリットがある。包括払いの場合は、これと逆のことがいえる。
現在、急性期病院の入院医療費には、「DPC」という診断群分類別の包括払い方式が一部導入されている。DPC病院は年々増加しているが、出来高払いの病院も存在する。厚労省は包括払いを一層広げていきたい考えだが、日本医師会がこれにブレーキをかけている。このため、「包括払い制度の推進」を掲げる政党が政策の主導権を握ることは、厚労省にとって"追い風"になる。
9月9日に開かれた中医協・慢性期入院医療の包括評価調査分科会(分科会長=池上直己・慶大医学部教授)で、厚労省は「平成20年度慢性期入院医療の包括評価に関する調査」の報告書案を示し、大筋で了承された。
報告書案のポイントは、急性期病院に入院している患者の一部が慢性期病院の患者に類似していると評価したこと。同調査の結果を詳しく見ると必ずしもそうとは言い切れないが、厚労省はそういう結論に持っていきたいのだろう。看護師の配置基準が「13:1」「15:1」であるためにDPCに参加していない出来高払いの病院群にも、包括払いの網をかけようという意図だろうか。
厚労省は、報告書案の最終ページに次のような"意気込み"を書き込んだ。
「来年度以降、慢性期医療を担う医療機関や施設について新たな横断的調査を実施する必要があり、その際には、基本問題小委員会と相談しながら、急性期、亜急性期(回復期)、慢性期それぞれの状態像が描けるよう、調査設計の段階から慎重に議論を進めていくべきである」
しかし、やや勇み足だったか。委員から指摘を受けて修正することになった。この部分に関するやり取りは次ページを参照。