診療報酬上げても大部分は付け替え ~『現場』討論1
そこで、先程の松田さんのまさに公という部分を、例えば大企業が社会的な活動をする、貢献をするという意味で、配当の見返りではなくて、トヨタ自動車はナショナルセンターに百億円のキャピタルコストを拠出するとか、亀田病院に何十億円のキャピタルコストを出しているとか、そういう部分があっても良いだろうと思う。患者さんの中にも、感謝をして、ぜひ出したいという人もたくさんいる。何もそれを全部否定する必要はない。もう少しそれを積極的に活用する方法はあるのではないか。
ゴルフ場に行って食堂などで皆さんの話に聞き耳を立てていると、車を買おうとかこんなテレビを買おうとかいう話はどこからも聞こえなくて、腰がどうだとか、最近は糖尿病の検査の結果こうだった、ああだったと皆さん自分の健康の話ばかりしている。つまり、そこに価値観を見出している。
元々この皆保険制度が作られた時は、平均寿命が60代だった。大体55歳が定年で男は60代で亡くなるというように決まっていた。ここから先に全く違う世界が生まれて、この新しいところに新しい価値を見いだすということは決して不思議なことではなくて、そこに産業の芽がある。全く自然なことと思う」
鈴木
「世界的ゲーム理論の大家から見ると、どうなるだろうか。松井先生」
松井彰彦・東京大学経済学部教授
「私自身は医療問題を専門にしてないので、医療問題そのものについてお答えできる程の知識はない。
ここ4年ほど障害と経済という問題をやっている。障害者の生活というものを考えた時に、やはり経済問題というのは無視して考えられないということで、障害の当事者で研究者の者達と共同で2、30人程のチームを作ってやっている。その中で感じたのは、経済学では通常、規制緩和をすると効率性は改善されて、しかし、公平性は格差が生み出されて阻害される。そういうことがよく言われるが、実態を見てみると、いろいろな分野でまだ効率性は全然確保されていないのだけど、既得権益等の理由で格差が非常にあるという分野が非常にたくさんある。
私が目にしたケースでは、例えば東京大学でも障害者雇用を進めないといけないというということで、知的障害者を我々の経済学部で雇用した。それまで障害者年金を月に6万6千円程の障害者年金を受け取っていて、勤めたことによって月10万円程の給料が入るようになった。親御さんも含めて喜んでおられたのだが、ある時、働けるのなら障害者年金をもらうほどの重度ではないでしょと等級をそれが理由で下げられてしまった。給与に対して50%から60%位の税率がかけられたのと同じような結果が発生してしまった。これは、労働の意欲を阻害する非常に問題があるシステム、効率性を阻害するシステムであると同時に、やはり社会的に障害に直面している方々の公平性を阻害するようなシステムということで、二重の意味で非常に問題があるシステムだと思う。