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「"墨東"と同じ事起きたら、仕分け人は責任取れるのか」-田村正徳未熟児新生児学会理事

 
MFICU(母体・胎児集中治療室)には補助金が付きますので、MFICUを持つ「総合周産期母子医療センター」は補助金がもらえていました。なので、MFICUのない「地域総合周産期母子医療センター」はNICUやGCUだけなので、完全に赤字です。その意味で、NICUやGCUに補助金を付けようとしてくださった今回の事業は、私たちにとって画期的でした。
 
--もし補助金が付けば、NICUの赤字補てんに加えてどのようなことができたでしょうか。
 
これでNICUを増やしてほしいと経営者に言うこともできますし、これを呼び水にして、今大変な現場の方にも頑張っていただけると思っていました。地域周産期センターのNICUが充実すれば、総合周産期センターから状態の良くなった赤ちゃんを送ることもでき、スムーズな連携ができるようになります。赤字経営が改善されていけば、小児科医も集まるかもしれません。
 
しかし、カットされてしまっては私たちはNICUを維持していくことができません。経営者にも何と説明すればよいのでしょうか。新生児科は元々数が不足していて、過酷な労働環境にあります。その中で、赤字であると責められながら、激務を引き受けられる医師は少なくなると思います。
 
--事業仕分けについての感想を。
 
昨年秋に起こった"墨東問題"をきっかけに懇談会ができ、それを受けて「周産期が大変だから『総合周産期母子医療センター』だけでなく『地域周産期母子医療センター』にも補助金を出そう」と、前の舛添要一大臣が医政局に「救急・周産期医療対策室」を作って下さり、医政局もがんばって補助金を付けて下さった。そこでの議論を反故にすることになります。全国で頑張っておられる総合と地域のセンターの医師やスタッフたちも、これではもうNICUを増やせないと残念に思うでしょう。救急受け入れ不能問題の原因でもあるNICU不足を解消するためのこの補助金をカットするというのは、お母さんや子どもたちの希望の光を奪うことになります。
 
確かにこの事業仕分けではスパコンなど、他の分野でも色々な問題があることは承知していますし、どの分野でも皆さん大変だと思います。でもこれは、直接命に関わることで、日本の中でいつ"墨東"や"奈良"【編注】のような悲劇が起こるかもしれない、その"引き金"になるかもしれないことなのです。仕分け人は、この危機が全く理解できていないと思います。本当にこの事態を分かって、考えて作業は行われたのでしょうか。冗談ではなく、NICUが足りないから妊婦さんを受け入れたくても受け入れられないという"墨東"のような問題が、全国で多発するだろうということを、とても心配しています。
 
【編注】...2006年8月に奈良県の町立大淀病院で重体になった妊婦が、19病院に受け入れを断られて死亡した問題
 
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