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がんの先進医療が普及すると医療費が増える?

1月20日の中医協.jpg がんを切らずに治す「重粒子線治療」など保険適用が認められていない先進医療は多額の自己負担金が必要になるため、早期の保険収載を求める声がある。これに対し、「設備のランニングコストが年に40億か50億掛かる」などと反対する意見もある。「普及すると医療費が増える」という考えだが、「普及すればトータルコストは下がる」との声もある。(新井裕充)

 日本人の死因のトップであるがんの治療法には、外科手術、放射線療法、化学療法の「3大療法」があるといわれる。このうち、放射線療法の先端的な治療方法として「重粒子線治療」があるが、保険収載されていないので約300万円の自己負担金が掛かる。

 このような「先進医療」が保険適用されるためには、「普及性」などの要件をクリアする必要があるが、多額の自己負担金が掛かることや、治療に必要な設備が高額であることなどがネックとなってなかなか普及しないという。

 こうした中、厚生労働省の先進医療専門家会議(座長=猿田享男・慶應義塾大医学部名誉教授)は1月14日、現在約100ある「先進医療」のうち、今年4月から保険収載する12の技術を選定したほか、6技術を削除。これら以外は、4月から保険収載しないことを決めた。
 これを受け、厚労省は1月20日の中央社会保険医療協議会(中医協、会長=遠藤久夫・学習院大経済学部教授)に同会議の結果などを報告したが、委員からさまざまな意見が出た。

 診療側の嘉山孝正委員(山形大医学部長)は、「自己負担分が非常に高くて(患者に)紹介しにくい」と指摘。「毎回毎回、先進医療は自己負担分を患者さんに浴びせていくのか」と迫った。
 これに対して、厚労省の担当者は「先進医療制度」が混合診療禁止の例外であることを説明。「患者さんには確かに自己負担分が発生するが、保険の併用を組み合わせることにより、すべて自己負担ではない」などと理解を求めた。

 一方、支払側の白川修二委員(健保連常務理事)は、「保険適用されるからには全国どこでもほぼ同じ程度の手術が受けられるといった条件が整わないと(いけない)」として、普及性の要件を重視。「1か所だけでこの手術が可能だということで直ちに保険適用というわけにはいかない。全国で一律に同じ診療を受けられるかどうかということに一番関心がある」と述べた。

 これに対し、診療側の安達秀樹委員(京都府医師会副会長)は「自己負担分が非常に大きいということになると、実質上の経済的条件による患者差別みたいなことが起こってしまう。それ(自己負担分)が払えないから治療を受けられないという人が出てくる」などと反論、次のように述べた。
 「鶏と卵みたいな話で、確実にこれが必要な患者さんがいらっしゃるけれども、保険適用でないので払える人が限られているから適用数が少ない。だからその装置が購入できないというようなことになると、装置を購入できる所が限られるから『普及性』がいつまでも満たされない」

 さらに、嘉山委員は先端的な治療法が普及することにより入院期間を短縮できるなど、医療費の削減につながることを指摘。「重粒子線治療をちゃんと保険で認めればトータルコストは低くなる」として今年4月からの保険収載を求めたが、国民を代表する立場の公益委員である関原健夫委員(日本対がん協会常務理事)が次のように反対し、1時間を超える議論を終結させた。
 「重粒子線(治療)を全国に普及するのは反対。設備が70億とか100億(掛かる)ということはもちろんあるが、ランニングコストが年に40億か50億掛かる。現在、日本で(がん診療連携)拠点病院ですら、常勤の放射線医がいるかいないかというギリギリのところでやっているときに、放射線治療の全体の中でプライオリティー(優先順位)を付けた場合に、どうしても重粒子線(治療)を全国的に普及するために動かなきゃいかんのか」

 中医協では現在、4月の診療報酬改定に向けた議論が大詰めを迎えている。昨年10月、診療側の委員が大幅に入れ替わり議論が活発になったものの、患者の立場を代弁する委員が少ないことを指摘する声もある。なお、同日の議論の詳細は2ページ以下を参照。
 

【目次】
 P2 → 「毎回毎回、自己負担分を患者さんに浴びせていくのか」 ─ 嘉山委員(診療側)
 P3 → 「全国一律に同じ診療を受けられるかに関心ある」 ─ 白川委員(支払側)
 P4 → 「保険適用の理由を開示したほうがいい」 ─ 遠藤会長(公益)
 P5 → 「専門の方々の共通認識は我々には分からない」 ─ 牛丸委員(公益)
 P6 → 「普及性は『鶏と卵』みたいな話」 ─ 安達委員(診療側)
 P7 → 「保険で認めればトータルコストは安くなる」 ─ 嘉山委員(診療側)
 P8 → 「重粒子線を全国に普及するのは反対」 ─ 関原委員(公益)


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