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ニュース〜医療の今がわかる

がんの先進医療が普及すると医療費が増える?

■ 「保険で認めればトータルコストは安くなる」 ─ 嘉山委員
 

[遠藤久夫会長(学習院大経済学部教授)]
 例えば、「重粒子線治療」が具体的に出ましたけれども、施設をもっと増やさなければ永久に保険収載されないのかどうかということですよね。患者さんの累積数はかなり多いのではないかと思いますので、(保険収載に必要な)データは蓄積されている話ですけれども、そこら辺はどういう判断をすればいいのか。

 より具体的なお話のほうが分かりやすいと思いますので、その辺のことを(安達委員は)おっしゃったんだと思います。事務局(医療課)、何かありますか。事務局どうぞ。

 ▼ 同日の資料によると、「重粒子線治療(固形がんに係るものに限る)」は2008年7月1日から09年6月末までにかけて779件実施。自己負担分の総額(23億5514万8000円)を実施件数で割ると、1件につき約302万円。

[保険局医療課・迫井正深企画官]
 はい、企画官でございます。粒子線治療につきましては、今のご指摘も含めましてさまざまなご意見が寄せられているのは事実でございます。

 ただ、今回整理させていただく中で2つ論点があったように思います。1つは「普及性」と言いますか、具体的なお話がございましたが、(実施できる)施設の数が現時点では限られている、そこが「鶏と卵だ」というお話がございました。そこをどう考えるのかということが1点。

 もう1つは、特にさまざまな適応症があり得る中で、既存技術との比較なりエビデンスの部分について現時点で、必ずしもまだ十分な蓄積がないのも事実だというご指摘もございまして、今の時点では(保険収載せずに)「先進医療」として継続することでいかがかという結論でございます。

 ですから、そこの部分を......。これは恐らく、保険導入に際しましての本質的なご議論であろうと事務局では理解しております。それに掛かる、特に資源投入と言いますか、財政的な負担ももちろんそうですが、施設の整備に掛かる費用をどのような形で負担していくのかということも含めまして、少し整理していただく必要があるのかなと考えております。(中略)

 ▼ 「先進医療」から削除する理由について、「次回以降、整理して示すことは可能」と述べた。

[遠藤久夫会長(学習院大経済学部教授)]
 適当なタイミングでご提示いただければと思います。勝村委員、どうぞ。

[勝村久司委員(連合「患者本位の医療を確立する連絡会」委員)]
 それに加えてなんですけれども、今後ということで、今回ではなくてもいいと思うんですけど、やはりもう少し、「保険適用する」という場合とか「先進医療から削除するんだ」という場合は......。

 できれば、(先進医療)専門家会議を受けて、一般の人にもできるだけ分かる方向にですね、(先進医療技術)1つにつき1ページぐらいとか......(様式について検討してほしい)。(中略)
 もう少し、それぞれについてどういう形で担保できるから保険(適用)になったという基準が国民に分かりやすくなるように、削除する場合も様式の検討をお願いしたい。

 ▼ この後、様式について少し議論。遠藤会長が各先進医療を実施した患者数も示すよう求めたが、迫井企画官は「普及度という観点は重要だが、必ずしも患者数だけで判断しているわけではないので、(様式について)どういう工夫ができるのか、少し引き取らせていただきたい」と回答を保留した。

[遠藤久夫会長(学習院大経済学部教授)]
 今回は結構なんですが、累積の患者さんの数というのはですね、「どれぐらい行われたのか」というのは非常に重要なメルクマールであることは間違いないと思うのですが、それはなかなか難しいということですか? 次回以降で結構なんですけれども......。(迫井企画官が「はい、次回以降に」と回答)
 
 ▼ この後に再診料などの議論が控えている。先進医療で1時間以上もつかまるとは想定外だったか......。

 では、そういう方向で検討していただいたほうがありがたいと思います。嘉山委員、どうぞ。

[嘉山孝正委員(山形大医学部長)]
 まあ、今のディスカッション......、牛丸委員、勝村委員、安達委員が言っている......。「これを採用する」とか「しない」ということのラショナーレ(論理的根拠)をあなた方が出さなかったからですよ。要するに根拠をね......。

 「どうして採用した」とか「採用しない」ということを一切出していないから、こんな無駄な時間を使ってね......(委員ら、笑い)、ディスカッションしなきゃいけなくなったんでね。それを出せば、これがいいか悪いかを我々が判定できるわけですよ。出していないからですよ、根本的には。

 もう1つ、今日は「先進医療専門家会議」なるものが......、ちょっとよく......、一生懸命やってらっしゃるとは思うんですが、現場の先進医療をやっている人間から見ると、「先進医療抑制専門家会議」じゃないかと思うぐらいに現場の混乱を起こしている。

 どういうことかと言うと、例えば1号(支払)側の先生方にお話ししたいのですが、「先進医療を認めると医療費が増える」と思ったら大きな間違いで、今回出てきた内視鏡でやるようなやつですと、退院時間も早まります。もちろん、患者さんにベネフィットがあります。トータルコストも減ります。

 (先進医療)技術だけだと(費用が)高いように見えるんですが、医療費としてトータルで見た場合にはかえって削減になるものがたくさんある。そういうことを先進医療専門家会議で議論しているのかどうかということ、ぼくは非常に疑問だと思っているんですね。

 というのは、(今年度の保険導入が認められなかった)「重粒子線治療」で言いますと、(資料の平均入院期間が)24日かかっているのは診断から始めているからです。これをきちっとやれば、例えば肺がんですと、ワンデイです。1日で退院できます。
 例えば普通の陽子線だったら、2か月かかっちゃうんです、がんの治療にね。その間、家族の見舞いなどトータルコストを入れればとんでもないお金になるんです。「重粒子線治療」をちゃんと保険で認めれば、トータルコストは安くなるんですよ。その辺のことをね、きちっと......。(中医協の公益委員に)財政学の専門家もいらっしゃいますし、そういう議論を私たちはここでやっていかなきゃいけないんですよ。

 それからあともう1つは、「重粒子線治療」を(保険で)認めていないために、この5年間で、日本はトップランナーでいたのに、もう(ドイツの)ジーメンス(Siemens)に技術で完全に抜かれそうになっている。重粒子はアメリカで失敗したので、日本が一番進んでいたんです。保険診療を認めていないものですから、普及もしない、数も増えない。そういうことが起きているんですよ。

 ですから、そういう総合的な見識の高い人間がこういうのを判断しないと、日本の医療が萎縮していく。あと、患者さんのために全然ならない。なぜなら、ベネフィットがあってトータルコストが低ければ国民のためになるんですから、そういう観点で専門家会議......。

 というわけで最初の議論に戻りますが、ラショナーレを出せば、この中医協で門家会議の判断が良かったかどうかを判定できます。それが一番の眼目なんですよ、それを出してこれから議論しなければいけない。
 あと、1号(支払)側の委員の先生方には、ただ単に先進医療が一見高そうに見えるけどもトータルコストとしては下がるんですよということをご認識いただきたい。1日で肺がんの治療が終わりますからね、そうすれば入院期間も短くなりますし、(医療費は)トータルとして完全に低くなりますよ。

[遠藤久夫会長(学習院大経済学部教授)]
 はい、ありがとうございます。(中略)
 

【目次】
 P2 → 「毎回毎回、自己負担分を患者さんに浴びせていくのか」 ─ 嘉山委員(診療側)
 P3 → 「全国一律に同じ診療を受けられるかに関心ある」 ─ 白川委員(支払側)
 P4 → 「保険適用の理由を開示したほうがいい」 ─ 遠藤会長(公益)
 P5 → 「専門の方々の共通認識は我々には分からない」 ─ 牛丸委員(公益)
 P6 → 「普及性は『鶏と卵』みたいな話」 ─ 安達委員(診療側)
 P7 → 「保険で認めればトータルコストは安くなる」 ─ 嘉山委員(診療側)
 P8 → 「重粒子線を全国に普及するのは反対」 ─ 関原委員(公益)

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