ドラッグ・ラグ解消策で、ドラッグ・ラグが加速? ─ 「薬価維持特例」に難題
海外では使えるのに日本では使えないドラッグ・ラグを解消するため、厚生労働省は有識者会議の決定に従わない製薬企業にペナルティーを課す措置を4月から導入する。このため、新たに承認申請される薬が大量に発生することで審査業務が渋滞を起こし、「ドラッグ・ラグがさらに進む」「患者が困るような事態になりかねない」との声もある。(新井裕充)
厚労省によると、昨年6─8月にかけて患者団体などから同省に寄せられた「未承認薬・適応外薬」の要望は300件以上あるが、審査機関で処理できる承認審査は年間70件程度。そこで、もし数百件の要望が審査機関に殺到すると、本来の審査業務が遅延してかえってドラッグ・ラグを引き起こすことになりかねないとの指摘がある。
その原因として挙げられるのが、今年4月から導入される「新薬創出・適応外薬解消等促進加算」。これは、新薬の価格を一定期間引き下げない「薬価維持特例」の見返りとして、未承認薬や適応外薬に取り組まない場合にはペナルティーを課すというドラッグ・ラグの解消策。
患者団体などから出た要望を審査するのは厚労省に設置した有識者会議で、「医療上の必要性」などを判断して優先順位を付ける。しかし、要望された薬を後回しにすれば患者団体などから批判を浴びるのは必至。そこで、「受け付けた要望をそのまま通過させてしまうのではないか」と心配する声も出ている。
4月の薬価制度改革に向けて1月29日に開かれた中央社会保険医療協議会(中医協)の総会で、診療側の嘉山孝正委員(山形大医学部長)は「本当に必要なドラッグ・ラグになっている薬品が後回しにされて、かえって患者さんが困るような事態になりかねない」と指摘し、厚労省側の考えをただした。
「担保をきちっと取っておかないと、ドラッグ・ラグはさらに進む。これ(新薬創出・適応外薬解消等促進加算)をせっかくつくったのに、『患者さんのためにならなかった』ということになりかねない。製薬会社も困る。患者さんも困る。そこを担保するような制度設計を教えてほしい」
これに対し、厚労省保険局医療課の磯部総一郎薬剤管理官は、「基本的に医療上の必要性で順番を付けていくという形で進めていきたい」と回答したが、嘉山委員はさらに「有識者会議」の在り方について追及した。
「いわゆる"御用学者"という人たちが(委員に)入っていることが多くて、きちんとしたことがされていなかった。本当に有識者かどうか分からないような人も入っていることも多いので、その辺の担保をちゃんとしていただきたい。いろんな患者団体や学会からの圧力をも跳ね返せるような肝のすわった委員を選ばないと、今のドラッグ・ラグがさらに進むことになる」
有識者会議については、国民を代表する立場の公益委員からも質問が出た。牛丸聡委員(早稲田大政治経済学術院教授)は、「有識者会議がどんなものなのかがよく分からなかった。有識者会議が一体どういうものなのか説明していただきたい」と求めたが、厚労省側から踏み込んだ回答はなかった。
しかし、2月初めに設置する有識者会議の内容は既に固まっており、同会議の下に設置するワーキング・グループの人選もほぼ終えているはず。にもかかわらず具体的な説明はなく、磯部薬剤管理官は次のように述べて振り切った。
「私ども厚生労働省のシステムといたしまして、このような会議体をつくる場合には当然、(中医協よりも上位の厚労相ら)政務三役にきちっとご説明をして、ご了解を得ながら進めていくというのが基本でございますので、そのようなプロセスを経てきちっとした方が選ばれていると理解しています」
詳しくは、2ページ以下を参照。
【目次】
P2 → 「平成22年度実施の薬価算定基準等の見直し案」を提示 ─ 厚労省
P3 → 「ドラッグ・ラグはさらに進む」 ─ 嘉山委員(診療側)
P4 → 「本当に有識者かどうか分からないような人もいる」 ─ 嘉山委員
P5 → 「有識者会議が一体どういうものか説明していただきたい」 ─ 牛丸委員(公益)
P6 → 「政務三役に説明して了解を得ながら進めていく」 ─ 薬剤管理官