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ニュース〜医療の今がわかる

TPP問題、医療界が押さえるべきツボは②―長尾敬議員に聞く


②医療界の懸念する、国民皆保険制度への影響や営利企業の参入は、どれぐらいの可能性で起こってくると思うか。またそれらから守るために、国会議員としてどうしていくか。

割合は分かりませんが、今後に臨んでいくに当たって、理論武装なり交渉武装をしておかないと侮れないという気持ちはあります。その根拠は過去の歴史です。私は民間の生命保険会社に17年いたので1994年に合意した日米保険協議を体で感じています。情けない言い方をすればトラウマになっているのです。保険には、死亡保険などの第1分野、年金保険などの第2分野、それ以外の医療保険などが入る第3分野があります。日米保険協議によってそれまで規制されていた第3分野がいよいよ解禁されるぞと、国内外の保険会社が待ち構えました。しかし実際には、国内系生保には団体型(従業員を被保険者とする法人契約)しか解禁せず、外資系生保には市場として最も期待される個人向け単体商品を解禁させてしまったのです。単体商品が国内の生保に解禁されたのは2年半後で、私たちはその間にほとんどの個人のお客様を外資系保険会社に取られてしまったのです。それを一つの契機に、国内の保険会社がバタバタと倒れ、外資に買収されていきました。このような歴史的事実から考えれば、世界が羨み、日本が誇るとも言える国民皆保険制度を、同じようにして何らかの形でアメリカンスタンダードに合わせざるを得なくなる局面は起こり得ると思います。

小泉政権下での郵政民営化では最終的に国内法が変えられました。当時は「特定郵便局長は準公務員で世襲になっていておかしい」などと郵便局の組織の問題であるかのように見せながら、実は簡易保険や郵貯マネーが狙われていたわけです。それは郵政選挙の争点にはなりませんでしたが、後々になって民営化は間違いだったと反省されています。つまり国内法の変更は、変えようという勢力が国会や霞が関にできてしまえば可能なのです。

他にも例はあります。アメリカからの外圧を受けて1991年に行われた大規模小売店舗法の改正によって、それまでなかったような大型店舗が住宅街の真ん中にできるようになりました。ウォルマートやカルフールが参入し、今でもトイザらスは残っていますよね。そうして大型ショッピングモールがどんどん郊外にできて、一方で"シャッター商店街"ができてしまったわけです。もう一つ大きかったのは2000年に施行した建築基準法の改正で、それまでの仕様規定が性能規定に変えられ、検査が民間開放されました。これによって外国の資材住宅メーカーが参入できるようになり、結果的に地震に弱い建物がたくさんできて、耐震強度偽装事件につながりました。保険業法、大店法、建築基準法、さらに郵政民営化。日本の国内法は米国の圧力で次々と変えられているのが実際です。国内法があるから大丈夫だというのは真実ですが、アメリカから見れば「変えてしまえばいい」というだけのこと。でも実際に変えたのは、われわれ日本人なんですよ。

もう一つ言えば、条約は位置付けとして国内法より上位にあります。確かに日本が批准している「たばこの規制に関する世界保健機関枠組条約」などは国内で守られていません。しかし、本来は条約の内容に沿って国内を変えていかなければいけませんし、それに言及した国会答弁もあります。国内法を変える十分な追い風になるものです。

医療界の方々には、一歩立ち止まって慎重に、これらの危険性を骨の髄まで感じていただきたいと思います。繰り返しますが過去の事例はいくらでもありますし、医療はターゲットになるでしょう。たとえばジェネリック。アメリカとオーストラリア間のFTAにより、オーストラリアでは米国の薬品メーカーの特許の期間が延長されています。また製薬企業の卸値が高く維持されるようになっていて、これは製薬企業からの卸値がオーストラリアの3~10倍になっているアメリカに合わせた結果です。同じ内容が日本との交渉の中でも出てくる可能性は排除できないでしょう。

混合診療については立ち位置によって見方が違うと思っているので、私自身は本音を言うと中立の立場です。解禁することで救われる命もあるだろうし、医療の質が低下するという懸念があることも承知しています。

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