TPP問題、医療界が押さえるべきツボは②―長尾敬議員に聞く
前回に続き、TPP問題の医療界に及ぼす影響についてそれぞれの立場の国会議員から語っていただきます。今回は慎重派の立場を取る長尾敬衆院議員(民主)です。
TPP交渉参加に関する議論はいまだ続くが、水掛け論の応酬になっている場面が多々見られる。賛成派と反対派の主張の根拠が違うまま議論していることが一つの理由だろう。
そこでこのインタビューでは分かりやすく議論を整理するため、それぞれの立場の国会議員に次の3つの質問に答えて頂くことにした。
①TPP交渉参加することにより税収が増え、それによって社会保障費も増えるという絵を描くことはできるか?
→賛成派の主張の根拠は「税収増による経済の活性化」といったことなど。仮にそうなったとして社会保障費にも移されるなら、医療界の診療報酬を上げることだって考えられるようになるのではないか? そもそもここが食い違っていると議論にならないため、整理する。
②医療界の懸念する、国民皆保険制度への影響や営利企業の参入は、どれぐらいの可能性で起こってくると思うか。またそれらから守るために、国会議員としてどうしていくか。
→医療界の最大の懸念の部分。
③日本の医療界への外国資本参入、また混合診療解禁は、そもそも「悪」なのか?
→②に関連するが、本当にこれらは悪い事なのかどうかという議論がそもそもされていない。
第一回目は、長尾敬衆院議員。
長尾敬氏プロフィール
昭和61年 立命館大学経営学部経営学科卒
同年 明治生命保険相互会社入社
平成14年 同社退社
同年 民主党大阪府第14区総支部長に就任
平成21年 衆院選に民主党公認候補として立候補、当選
◆国会の役職
厚生労働委員会委員
拉致問題特別委員会委員
東日本大震災復興特別委員
※取材を受ける立場について
私はTPPを一括りにして全面反対というのではなくて、あくまで慎重派という立場からお話をさせていただきます。
①TPP交渉参加することにより税収が増え、それによって社会保障費も増えるという絵を描くことはできるか?
私は思いません。逆に税収が増えると言っている人はどういう根拠で言っているのか、議員同士で話をしてもはっきりと説明できる方がいないのです。仮に日本がTPP10カ国目として加わったとすると、10カ国のGDP(国内総生産)を比較すると、その91%を日本とアメリカが占めています。これでは事実上の日米間交渉になってしまうわけで、賛成派は「アジアの成長を取り込む」と言いますが、これでは説得力が弱いと思います。私はTPPについて全面的に否定はしませんし、国益につながることなら大いにやったらいいと思うのですが、税収が増えるというファクトやエビデンスが私には分かりません。
たとえば農業分野について自由化した方がいいという農家の方はおられますが、そういう方はオンリーワンの強いノウハウを持っておられます。だけどそういう部分的な話に合わせるわけにはいかないでしょう。日本の経済全体としての底上げになるというところについて、納得いく説明を聞きたいと思っています。