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がん医療を拓く⑬ 難治の進行膵臓がん 医師主導治験始まる

102-1-1.jpg 難治がんの代表例とも言える進行膵臓がんに対して、日本で開発されたペプチドワクチンによる医師主導治験が始まっています。

 膵臓がんは、胃がんや大腸がんの数分の1しか発生しませんが、死亡原因では、がんの第5位となっています(年間2万8000人超)。発見から5年以上生存する人は10%未満です。

 特有の初期症状といったものがなく、約8割もの症例が進行がん(ステージⅣ)で見つかります。既に周囲の重要臓器に拡がっていたり、肝臓などに転移していて、外科手術できないことが多いのです。また、切除可能だった場合にも、早期に再発するケースが少なくありません。化学療法(抗がん剤)も副作用の割に効果が薄く、放射線療法も局所的で効果は限られ、有効な治療法が確立されていないのです。

 そんな中、2013年10月から、「サバイビン2B」というペプチドワクチンを用いる医師主導の第2相臨床試験(治験)が始まりました。チームは、東京大学医科学研究所と札幌医科大学の合同で、がん研有明病院からも医師が参加しています(写真)。
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どんな治療法?

 がんペプチドワクチン療法(2011年12月号参照)は、体に備わった免疫システムを利用して、がん細胞を排除させようとする治療法です。

 免疫システムは、体内に病原菌などの外敵が侵入すると、闘って排除した際に外敵の目印(抗原と言います)を記憶します。記憶のおかげで、二度目からは侵入されても速やかに排除が進みます。この仕組みを利用し、あらかじめ抗原を記憶させておくのが感染症に対する予防接種です。

 「抗原」の実体は、病原菌などを分解してできるアミノ酸の鎖(ペプチド)。見回り役の樹状細胞などが病原菌などを丸呑みし分解した上で、自らの表面にあるHLAと呼ばれる分子と結合させて示します(抗原提示)。HLAの型は、人によって何種類かあります(後ほど再度説明します)。
 さて、病原菌などを殺傷する役目のリンパ球・細胞傷害性T細胞(CTL)は、1個1個攻撃する相手の抗原が決まっています(特異的と言います)。抗原提示が行われると、その抗原に対応するCTLが増殖し、抗原を表面に持つ細胞の攻撃を始めます。

 がん細胞は外敵ではなく自分の細胞なので、CTLの攻撃対象となりにくいのですが、がん細胞表面のみで発現している分子の一部であるペプチドを大量に注射すれば、抗原提示も盛んに行われ、CTLががん細胞を攻撃するようになるというのが、この療法の原理です。
見開き1の図.png

 今回のサバイビン2Bは、膵臓がんで強く発現しているヒトがん抗原サバイビンを標的として札幌医大で開発されました。

 開発した鳥越俊彦・札幌医大准教授は、「2012年8月から2013年5月に東大医科研と協力して実施した第1相試験で、約53%の症例で腫瘍の増大を抑制する効果が確認されました。この結果を受けての今回の第2相臨床試験です」と話します。今回、有効性を示す結果が出れば、製薬企業が引き継いで開発するそうです。

※治験のうち、第1相試験は薬の安全性を確認し、最大投与量を決めるもの。第2相試験は、第1相試験で確認した投与量で、比較的少数の患者を対象に、主に薬の有効性・安全性を調べるもの。

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